過去拍手置き場

□26話 因縁の対峙
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アルバートは、諸悪の根源は玉座から、2人のロックマンを眺めていました。
その表情からは、喜びか、悲しみか、哀れみか、様々な感情が見て取れますが、どれが正しいのかは分かりません。
静寂に包まれる玉座の間、風に揺らされた花たちがぶつかり合い、ここに唯一の騒音を生み出しているいました。
ロックマンモデルAと、アルバート。
長い間ひたすら追いかけ、追い続けてきた存在と、ようやく直接対決する時がやってきました。
「ようやく来てくれたか……アッシュくん、グレイくん……私はとても嬉しい、そして、とても可哀想だ」
アルバートは静かに語り始めました。
アッシュとグレイは静かにバスターを構えました。
「……早いんだけど」
『何が?』
あくまでも純粋で美しい瞳を向けてくるのでアルバートは頭が痛くて仕方ありません。
「隙あらば攻撃するのがウチだけじゃなくてアクションゲームのモットーよ。だからこうして会話している間にもいつでも撃てるよう準備しておく必要がある、これは必要不可欠な重大事項なのよ」
真顔でアホみたいな事を言われるのもアルバートにとってはもう慣れた光景です。
慣れているとはいえ、チャージバスターで先制攻撃作戦の準備に取りかかる2人の表情は真剣そのもの。明らかに不意打ち行為ですが、そんなものはアタシの美貌と大いなる正義になるためなら仕方がないことであり、全知全能の神はきっと許してくれるであろうとアッシュ談。
再開して数分で先制布告を行う彼女たちを眺めつつ、アルバートは真顔で問います。
「ここで今、私に攻撃を加えるのも良いけど……そうすると、君たちの正体が永遠に知れなくなってしまうよ?」
非常に痛いところを突かれました。自分たちがアルバートを追いかけていた最大の動機がこそ「全く知らない自分の過去を知るため」なのですから、それを出されてしまっては大人しくせざる得ません。
結果、バスターを一旦下げてチャージも解除。膝をついたりさせず腕を組んで堂々とする立ち姿には己の勝利を確信している絶対的な自信しか見えません。
態度はともかく思ったよりもあっさり納得し、聞く姿勢になってくれたことにアルバートはやや感動。
「ああよかった……てっきり10分ぐらいごねると思っていたけど、この様子だとあっさり話を聞いてくれそうだ」
「先制攻撃を諦めてアンタの話に耳を傾けてやったんだから光栄に思いなさい」
「あのさーラスボスを目前にしてそれってどうなの?普段よりちょっと緊張感を持つとかさ、ちょっとは場面に似合った行動をおしてほしいんだけど」
『無茶を言う』
モデルA大いに納得。
「冥土の土産にちゃんと聞いてあげるんだから光栄に思いながらさっさと話しなさい」
「わくわく」
アルバートはもう気にしませんしツッコみません。彼女の隣にいるグレイはずっとワクワクと、純粋な少年の瞳を向けているだけで「気にする」という概念すらなさそうです。
プロメテとパンドラ……いや、どちらかといえばプロメテだけがどれだけ苦労していたんだろうと思いながら、アルバートは口を開きます。
「おや……モデルAはアッシュくんたちに何も話していなかったのか?君は全てを思い出したはずだ」
『う、うるさい!』
吐き捨てるように言い放ったモデルAに、アルバートはニヤリとほくそ笑みます。
「何も言わないのも1つの優しさ……か、だが、優しさだけでは何も救えやしないし解決もしないぞ?」
「もったいぶらないでいい加減話しなさいよ。チャージショットじゃなくてホーミングショットブチ込むわよ」
「はいはい」
緊張感を持とうにもイマイチ持てないまま話は続行されます。
「アッシュ……君は私の遠い子孫だったのだよ。まだ私が三賢人となる前に残した血族……その末裔なのだ」
「…………は?」
アッシュ、愕然。隣のグレイも目を見開いて驚愕している様子。
「君は私の血を最も濃く受け継いだ人間……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?アタシがアンタの子孫!?嘘でしょ!?」
「否定したい気持ちは分かるが、これが真実だ。モデルAで変身できたのもそのお陰なのだよ」
「そ、それは……それはアタシの体に、アンタがデータを組み込んだからじゃ……!」
自分の美貌と活躍と下僕を使うことと晩御飯のことしか考えていないアッシュの頭でも、かつてモデルAに残っていたデータのことはしっかり覚えていました。
ライブメタルでロックオンできるヒトは、レギオンズのチェックを受けて機械の体を得る際、アルバートが設計した機械の体にだけ彼のDNAデータが組み込まれています。このデータがあることでライブメタルで変身できる条件、つまりは適合者になれるのです。
「違うよ。私は君に触れてもいない、君の出現は予定外だったのさ」
「そんな……そんな……」
がっくりと膝を付き、その場に崩れ堕ちてしまうアッシュ。物心ついた時からずっと知りたかった自分自身の正体が、まさか宿敵であるアルバートの子孫だった……信じたくありませんが残酷なことに事実なのです。
絶望に染まったアッシュの表情にニヤリとほくそ笑むアルバート、かける言葉が見つからずオロオロするばかりのグレイ、この空間は一瞬にして静寂が戻ってきました。
落ち込んだままのアッシュが次に発したのは、自暴自棄になった言葉。
「アタシの……アタシの全知全能の女神も嫉妬する完璧な美貌は全部アルバートから引き継いでいたってこと!?アタシの全てはアイツから始まったってこと!?美貌のびの字もないピンク色野郎が!アタシの!!ルーツ!!だったなん!!て!!!」
さすがアッシュ、ショックを受けてはいるもののどこかズレています。ズレまくっています。
「……ここは、自分の正体が黒幕である私だったことに苦悩するシーンじゃないのかい……?」
『しょうがない、だってアッシュだ。自分の美貌と完璧さにしか興味のないアッシュだからだ』
長年の付き合いから来るモデルAの淡々とした一言にアルバートは黙るしかありません。
「アッシュ……大丈夫?元気出して?」
「ごめんグレイ……復帰まで3日かかる……」
「そんな!」
3日でいいのかよ。アルバートとモデルAの渾身のツッコミが心の中で響いたといいます。
「アッシュくんが思いの外落ち込んでることだし……次はグレイくん、君だ」
「僕?」
もはや自分は完全に蚊帳の外にいる存在だと思い込んでる反応です。キョトンとしています。
「これでようやく、私の計画は完璧だったという事が証明されたわけだ」
「どういう意味?」
さらに首をかしげるグレイ、アルバートはその純粋な疑問に答えるため玉座から立ち上がりました。
「何度か言ったが……君は私の影だ。もしも……私が何者かに敗れた時、この玉座に座るのは君だったのさ。私が作った究極のロックマン、そのスペアボディ……それがグレイくん、君の正体だ」
「僕が究極のロックマンの、スペア……?」
愕然とするグレイ。彼の足元でアルバートの言葉を一言一句聞き漏らさなかったアッシュも顔を上げて愕然としているではありませんか。
「な、な、なんですって……?」
「モデルAも私が作った物さ、適合者……つまり君にこの計画を伝えるための……私の計画の全てを納めたバックアップシステム」
『バックアップ!?』
叫んだのはアッシュとグレイ同時でした。今はロックオンしている状態のため実体はありませんが、一緒にいるモデルAに向けての言葉なのはわかります。
「故にモデル・アルバート!モデルAと名付けた!」
『ムカつく名前だ……!』
絞り出すように言ったモデルA、彼は記憶を取り戻してからどれだけこの苦悩と戦ってきたのでしょうか。毎日をエンジョイしながら生きてきたアッシュとグレイには到底理解できるものではありません。
「そう言うな。時期にその名の意味もなくなる」
静かに言った刹那、彼の背後にあった玉座が白い光に包まれ、大きく形を変えていき……
「わあ!?」
「うっそう!?」
光が弾けて消えた時にはアルバートの姿はなく、そこには3つの首を持った竜のようなメカニロイドがアッシュたちを睨み、吠えていました。
「い、今の何!?イリュージョン!?タネどこ!?」
「タネにはお水をあげないと大きくなれないんだよ?」
『こんな時でもふざけるお前らの精神はもう尊敬に値するわ』
驚くアッシュたちと違い、慣れきってしまったモデルAはひどく冷静でしたし、アルバートもスルーの姿勢。
「よもや自分自身を自分の手で消さなければならないとはね……とても悲しいが、計画が完成した今、君らはいてはいけない存在だからね……究極のロックマンは私ひとりでいい!」
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