過去拍手置き場

□25話 適合者の戦い
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前回のあらすじ
ボスラッシュよ!気を引き締めて行きましょう!アタシの美貌を振りまくように!byアッシュ



ウロボロス。
全てのモデルVがひとつになったその究極のライブメタルの内部は、何かの生物の体内を思わせるような不気味な赤色の世界。まるで、外の世界とは完全に断絶されていると錯覚するような、現実離れしすぎている空間でした。
彼女が次に足を踏み入れた先に見たのは、左右に置かれた台座と、そこに鎮座する狛犬型のフォルスロイド。
「この先に進めるものは、新たな王に従う者と新たな王に捧げられる者のみ!」
「……うぬっ!」
「貴様がここを通る術はただひとつ……王に捧げる生贄となることだ!」
「……死ねいっ!」
物騒な雄叫びと共に台座から飛び降りたフォルスロイド、アーゴイルとウーゴイルは部屋の中央で佇んだままのアッシュに向かって真っ直ぐ突っ込んできます。
しかし、数々の死線と修羅場をくぐり抜けて来たベテランハンターもといロックマンは一瞬たりとも怯む素振りを見せず、それどころかニヤリと不吉な笑み。
「そんなサイみたいな脳筋突進でアタシを倒せると思った?アンタたちは前の戦いからなーんにも学んでないようね!」
そして二丁のバスターの右手をアーゴイル、左をウーゴイルに向け、引き金を引こうとした刹那、
「馬鹿は貴様だ!」
アーゴイルが鉄球を蹴り飛ばしアッシュの右手にクリティカルヒット。生身の人間だったら腕がとんでもない方向に曲がっているほどの衝撃に襲われます。
「あぐぅ」
思わず声を濁らせるアッシュ、腕は折れなかったもののバスターは鉄球によって弾かれ、空の彼方へ飛んでいってしまいます。
「ヤッバ」
「片方の武器を失った貴様の戦力は半減!もう1人のヤツもいない!我らの勝利は約束されたも当然なのだ!」
「うぬっ!」
アーゴイルが吠える通り、今現在アッシュはグレイと別れてひとりぼっち。トランスオンも自由に使いにくいこの状況は不利。アッシュにピンチが訪れます。
突進してきた2対を体をひねって回避し、一時の危機を脱したものの不利な状況に代わりは全くありません。
それぞれ左右の台座に飛び乗ったアーゴイルとウーゴイル、彼らは同時に振り返って、
「てぇい!」
アーゴイルが振り向きざまに鉄球を投げ、それは一度地面でバウンドしてからアッシュ目掛けて猛スピードで向かってきます。バスターが一丁しかない状況では鉄球の軌道を逸らすのも難しい。
自称天才美少女ハンターの頭脳がきらめけば、とっさに次の講堂に移れます、
「こっちが向かってくるなら応戦してやるだけじゃない!」
右で握った拳に力と想いをこめ、勇敢にも鉄球を正面から殴りに向かったのです。
衝突する拳と鉄球、響き渡るのは骨に損傷が入ったえげつない効果音でした。
「あぶん!」
ロックマンであってもこの激痛には耐えられません。アッシュは思わずひっくり返り、鉄球もデタラメな方向に飛んでいってしまいました。
「アホだ……本物のアホだぞコイツ……笑う気にもなれんわ」
「うぬぅ……」
もはや呆れすら覚え始めたアーゴイルとウーゴイルが哀れみの目で見つめているのは、うずくまって悶えるロックマンです。このシリーズの主人公。
呆れているのはモデルAも同様でして、痛みをこらえる彼女に送った言葉は激励ではなく、
『お前さ……何がしたいんだよ』
「お、おっかしいわね……アタシの計算だとこれで一発逆転が狙えるハズだったんだけど……」
『どう考えても自滅の一手だろうが!』
ライブメタルに叱られたところで不利な状況に代わりはありません。早急にどうにかしなければ2匹の狛犬の猛攻がくれば今度こそバラバラにされてしまうでしょう。
「何故……我らはあんなアホに倒されてしまったんだろうか……」
「うぬぬ……」
アホとはいえ自分たちに楯突く敵であることに代わりはありません。呆れている場合ではないと首を振り、この隙にトドメをさすため台座から飛び降りました。当然、2体同時に。呆れつつも自分たちの勝利は目前だと確信して。
しかし、それが油断となったのでしょう。
足のコマが地に着いた刹那、アーゴイルの後頭部に鉄球が直撃したのです。
「あごぉ!?」
「!?」
驚愕するウーゴイルを置いてひとり倒れ、気絶までするアーゴイル。首元で転がった鉄球は、確かにさっき自身が投げたあの鉄球。アッシュが正面から突破しようとしたモノでした。
「……?…………!?」
もしや、先程あらぬ方向に飛んでいったアレが変な場所で跳ね返ってアーゴイルの後頭部まで戻ってきたというのか、そんな奇跡ありえるのか?と喋れない分電子頭脳をフル回転させて試行錯誤するウーゴイルでしたが、その答えを出す暇など、今の彼にはありませんでした。
「……」
ふと見てしまった正面には、真顔でバスターを構えるアッシュがいたのですから。



「今宵はステキなパーティーになりそうですわ……アナタも、祝いなさい……」
「どうして?」
「どうしてですって?決まっているでしょう?新たな王が降臨された記念すべき日なのですから」
アッシュが奇想天外な戦法でアーゴイルとウーゴイルのコンビを破っていた頃、グレイは下半身に丸型巨大コンテナをぶら下げたフォルスロイド、カイゼミーネと対峙していました。
かつて倒した敵と対峙していてもグレイはいつもと同じ、緊張感の欠片もない様子でキョトンとしながらカイゼミーネを見上げているだけ。左右のバスターはまだ構えず、相手の出方を伺っている……ようにも見えません。
「……よほど余裕があるようですわね?」
「そうかな?」
「アナタ、倒すべき敵と対峙しているようには見えないんですもの。本当に全てのフォルスロイドを倒したロックマンですの?」
「たぶん!」
たぶんて。
これ以上会話を続けても頭の悪そうな返事しか返ってこないと確信したのでしょう。カイゼミーネは言葉を交わすのをやめて、さらに浮上します。
「片方しかいないロックマンモデルAなどワタクシにとっては赤子同然。わざわざ直接手を下す必要などありませんわね、遊んでおやり」
この言葉が号令となっているのでしょうか、コンテナからアームが5本出てきます。アームの先にいるのは小型の蜂型メカニロイド。
「わあ!いっぱい出てきたヤツだ!」
「今日は前回の2倍以上用意しましたわ。そう簡単に在庫切れにはなりませんことよ」
そして、アームから解き放たれた蜂型メカニロイドは全く乱れのない洗礼された動きでグレイめがけて体当たりをしかけて来るのです。
「なんのー!」
当然、大人しく攻撃を受けるハズもなくホーミングショットで撃退するのですが、撃ち落としても撃ち落としてもメカニロイドはコンテナから絶えず出てきます。終わりが見えないジリ貧の戦い、ホーミングショットにはエネルギーを消費する分、グレイの方が圧倒的に不利でした。
「どうしよう!すごい困った!」
『敵にも分かるような大声で言うなよ!余計に蜂地獄が終わらなくなるだろ!』
「そっか!どうしよう!」
正直です。正直が過ぎます。もちろん聞き逃さなかったカイゼミーネはニヤリとほくそ笑み。
「あら、良い事を聞きましたわ。ならお望み通り……この子達にもっと攻撃をさせてあげましょう」
「僕そんなこと望んでないよ?」
「知ってますわよそんなこと」
どうしてかつての自分はこんな奴に倒されてしまったのか……己の失態にため息すら隠せないカイゼミーネですが、言葉通り攻撃の手は緩めません。蜂の数は増え、どんどんグレイに迫ってきます。
「あわわわわ……」
当然グレイもホーミングショットの手を緩めませんが、この数相手では少し不利です。少しというかかなり不利です。というかメチャクチャ不利です。
「さあ!ワタクシの手を下すことなく朽ち果てなさい!」
「やだもん!」
少年が叫び、左手のバスターが火を吹きます。実際に吹いたのは火ではなくチャージショットです。
アッシュのチャージショットのような特殊な動きはできませんが、その分威力は折り紙つき。正面にいたメカニロイド全てを破壊し、コンテナの中央に直撃しました。
「キャアァ!」
撃ち所がよかったのかコンテナは爆発。爆発の衝撃に巻き込まれたメカニロイドたちも破壊され、無数の残骸が小雨のように地に落ちました。
「ま、まさかチャージショットに違いがあるなんて……」
「あるよ!」
元気よく、そして正直に返答したグレイはステキな笑顔のままショットを連写。1発も撃ち漏らすことなくカイゼミーネのボディをボロボロにし、そして、
「我らよりも……進化できぬ者との馴れ合いを……とるのですか……どこまで、愚かですわ……!」
断末魔を残すことなく、爆発したのでした。
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