過去拍手置き場

□23話 いざ、ウロボロス
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崩落しつつあった研究所から命かながら脱出した2人は、ハンターキャンプに戻ってきていました。
「て、転送装置が生きていて助かったわ……あと少しで詰んでるところだった……」
キャンプ内に唯一ある転送装置のあるモニタールーム。息を切らすアッシュは装置の前に座り込んでしまい、動きそうにありません。
疲労困憊のアッシュとは違いグレイは装置の上に立ったまま、どこか遠くを見ています。
「…………」
研究所から脱出する時から何も喋らず語らず無言のままで、表情もどこか暗く影が落ちているのが見えました。
「……あー……」
今の今まで無事に脱出することしか考えてなかったアッシュでしたが、グレイが落ち込む理由に心当たりがあります。
「やっぱり気にしてるの?プロメテたちのこと」
「……うん」
小さく頷いたグレイは続けます。
「あの2人を助けてあげられなかった……僕、ロックマンなのに……強いのに……助けられなかった……」
「……」
グレイを閉じ込めて一生観賞したいと発言していたパンドラ相手でも、心の底から2人を置いて脱出した事を悔やんでいる優しさに、アッシュは何も言えません。
彼女自身もプロメテたちを置いてしまったことを後悔していないワケではありません。アルバートを倒すため
なんとしても生きて帰らなければならなかったのですから仕方がない……という理由は通用しないのですから。
頭の中では分かっているにしても、心境は複雑でした。
「大丈夫よ、グレイ」
アッシュが静かに言い放つと同時に、重い腰をゆっくり上げます。
無言で首をかしげるグレイがアッシュを見つめます。いつものようにキョトンとしていますが、表情に明るさはありませんでした。
「あの2人のことよ、きっと崩落のドサクサに紛れてちゃっかり生き残ってるに違いないわ。だって絶対悪運の強さはピカイチだって見てわかるもの。アタシのハンターとしての勘がそう言ってるわ」
「そうなの?」
「そうよ!アタシのハンターとしての勘が外れた事は今までなかったしこれからもきっとないわ!だからいつまでも落ち込んでちゃダメ。というか落ち込んでる場合じゃないでしょ?」
「うん、そう、そうだね!ありがとうアッシュ!」
いつもの無邪気な笑顔が戻ってきました。アッシュの言うことなら間違いないと心の底から信じ切ってる純粋な表情、アッシュはそれを見ることができません。
彼女がかける言葉は根拠はなくとも全て己の絶対なる自信から出てくるモノではありましたが、今回のことだけはどうにも自信が湧いてきませんでした。
「(さすがに心が痛むなぁ……)」
連載23回目にして初めてグレイ相手に良心を痛めた少女の心の声が流れた刹那、
「たっ!大変だぁ!」
1人のハンターがモニタールームに飛び込んで来て、アッシュとグレイだけではなく他のハンターたちの注目を集めたのです。
血相を変えたハンターは息を切らしながら叫び続けます。
「そっ、外に!外にとんでもないモノが!なんかよくわからないでっかい何かが!多分この世の終わりだと思う!!」
大変支離滅裂で何が言いたいのかよくわかりませんが、この部屋の外に何かが出現したのでしょう。
「何かって、なに?」
「わからん!俺にはさっぱりわからんし表現できない!」
「へ?」
グレイが首を傾げれば、アッシュはため息をつきながら、
「実際に見た方が100倍早いわね。外に出てみましょ」



パニクったままのハンターを後ろに引き連れ、モニタールームから出たアッシュとグレイは驚きの光景を目にしていました。
遥か上空に浮かんでいるのは、蛇が自分の尻尾を咥えて丸くなっているようなフォルム、普通の飛空挺がアリにもミジンコにも比較されそうなサイズを持つ、巨大な要塞。
周辺には飛行型のイレギュラーを数え切れないほど引き連れ、世界中全ての人間を見下すように、轟音を上げながら飛び続けています。
『あれが……モデルVが1つになった姿……!ウロボロスか!』
「アルバートはあの中にいるのね。話が早くて助かるわ」
「よかったね!」
緊急を要する光景ですが2人は余裕の表情。未だにアルバートを舐め切った様子なのでしょうが、後ろにいるハンターはこの世の終わりの光景を見ているように真っ青になって震えています。
「空にあるんじゃ飛行艇で行くしかないわね……」
「転送装置とかじゃあ行けないよね、やっぱり」
『敵の本拠地だからな。そう簡単には上がらせてくれないだろ』
今までの場所とは違い完全に空に浮いている敵地は初めてです。当然その考えに至ります。
震えるハンターは話をマトモに聞ける様子ではないためアッシュは早々に諦め、空を見上げて唖然としている別のハンターに声をかけます。
「ねえ!ここのハンターで飛行艇を持ってる人っていないの!?」
「飛行艇?残念だけど、ここに飛行艇は1つもない、さっき現れたイレギュラーに全て破壊されてしまったからな……」
答えたハンターが見やる先の飛行場には、バラバラにされたりボディの半分が損傷したりプロペラがぐちゃぐちゃに折り曲げられていたり……と、2度と飛べなくなってしまった飛行艇たちが散乱している、悲惨な光景が広がっていました。イレギュラーと交戦した後なのか、負傷しているハンターや医療班もおり辺りはかなりの騒ぎになっています。
「うっそ……」
『打つ手……無しかよ……!』
「そんな……」
アッシュ、モデルA、グレイが声をあげ、うつむいた時、
「簡単に諦めるのか?一流のハンターさんよ」
「1つ問題があっただけで挫折するなんて、主人公の名折れだわ」
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