過去拍手置き場

□22話 死神と魔女
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薄暗く、柵の向こうから青白い光が漏れ出す無機質な部屋。
天井からぶら下がっている無数のモデルVに見守られ、2人と1個は運命の再会を果たしていました。
「フフフ……驚いたかい?アッシュくん、グレイくん」
部屋の中央に佇む男……モデルVを作った張本人であり、世界の王をかけた運命のゲームでロックマン同士を戦わせていた男、元三賢人マスター・アルバート。
常軌を超えた数のモデルVに圧倒されたロックマンモデルAの2人に、彼はゆっくり語りかけます。
「私がこの計画に、どれだけの時間をかけたと思っているんだ?君達がモデルVを1つ2つ壊したところで、私の計画は……」
「突撃―――――!!!」
話の流れを見事にぶった切り、アッシュはバスターを構えてグレイと共に全速前進。瞬時に流れるショットの弾幕雨霰。
「わああああああおおお!?」
このタイミングで攻撃されるなんて夢にも思ってなかったのでしょう。悲鳴を上げたアルバートは素早く身を翻してショットを回避しますが、慌てすぎて前から転んでしまいました。
「何?何?なに?どうしていきなり攻撃してくんの!?」
パニックアルバート。顔面を強打したらしく鼻を押さえながら起き上がれば、前方3メートルもない位置にアッシュとグレイが立っている光景が見えます。バスターを構えて、引き金に指をかけたまま。
「戦いとは常に先手必勝一撃必殺!アンタが喋ってる隙に攻撃してパッピーエンドを掴むアタシの華麗なる人生設計を妨害するつもり!?なんて奴なの!」
「どうして私怒られてる!?怒りたいのは物語終盤の大事な場面で人の話をぶった切られた私なんだけど!」
「逆ギレだなんてますます酷いわね!」
「ひどーい」
「こんなに責められる必要ないでしょ!」
よくよく思い出してみれば、この2人に常識は一切合切通用しませんでした。常識が通用しない相手が人の話を最後までちゃんと聞くワケがなく、アルバートは頭痛を覚えてしまいます。
「さあ、後は引き金にかけた指にちょっと力を加えるだけで終わりよ。運命のゲームだとかくっだらない争いもこれでおしまい!アンタを倒して世界を救うわ!」
「僕の記憶も教えてほしい!」
「……既に終わらせた気でいるけど、君達……」
アルバートが何かを言いかけた刹那、3人の間に割って入るかのように何かが転送されてきました。
「それはどうかな?」
唐突に現れたのは、プロメテとパンドラのいつもの2人組。
プロメテはアルバートに鎌を向け、パンドラは感情が見えない顔でその光景を眺めているだけ。手を組んでいる者同士の対面とは思えない光景です。
「プロメテ……?パンドラ……?」
「どうしてここにいるの?」
前触れもなく現れた2人に首を傾げるアッシュとグレイ。ただらなぬ雰囲気を醸し出す相手に対し、いつもの調子がちょっとだけ出しにくいのです。
「グレイきゅん……ちょっと待ってて、すぐに終わるから……」
「なにが?」
グレイの疑問を無視して、プロメテは口を開きます。
「回収されたモデルVをこんな所に溜め込んでいやがったか……まさか、お前達がここを見つけ出してくれるとはな」
「……礼を言うわ……ロックマンモデルA……あとグレイきゅん……」
「えっと、状況が読めないけど……ドウイタシマシテ?」
「お礼言われたね!」
疑問を抱えながらも小さく頭を下げる2人を一旦無視、パンドラがグレイをガン見していますがプロメテは何も言いませんし言えません。
その代わり……というワケではありませんが、アルバートを睨みつけた彼は、
「こうして会うのは何100年ぶりだろうなぁ!マスター・アルバート!モニターで見るより遥かにマヌケ面じゃあないか!」
「……お前達……?どういうつもりだ?」
まるで、この状況を予想してなかったような声色で、アルバートが尋ねた刹那、
「こういうつもりさ……!」
大きく振るわれた鎌が、アルバートを、元三賢人の男を、縦に引き裂きいたのです。
上から真っ二つにはならなかったものの、胸から腹部までを一直線に引き裂かれた男は、傷口から血を吹き出し前方に倒れ、2度と動く事はなくなりました。
「えっ!?えええええええ!?」
「死んじゃったの!?」
目の前で起こった出来事に、ロックマンモデルAの2人は悲鳴を上げるしかできません。血しぶきではなくアルバートの死に。
「フフッ……フハハッ……!ハーッハッハッハ!!」
「うるさい」
「痛い!!」
パンドラの杖による一撃で高笑いを強制終了させたところで、
「イテテ……フフッ、アルバートめ……自分が作った最初のロックマンに倒されやがって……クズに相応しいフィナーレじゃないか!」
後頭部を殴られたにも関わらず笑いが止まらない様子。そっちのケがあるのかと敵ながらに心配になってきたアッシュが顔を青くしている中、主人公サイドでたった1個だけ真面目なモデルAが声を上げます。
『なんだ……何がどうなってるんだ!?』
「まあまあモデルA……人の趣味嗜好はそれぞれ違うんだし……」
『史上最大級の勘違いしてる場合じゃないだろ!』
「でも可能性あるんじゃない?今までのプロメテ見てたらその可能性あるでしょ?ゼロとは言わせない!」
『そりゃわかるけど!』
「おい」
歓喜していたプロメテ、急に真顔になって静かな怒り。
一方のパンドラはいつも通りグレイに夢中。ビデオカメラを構え、キョトンとしているグレイを無言でじっくり撮っており、話には加わらない方針だと体を張って伝えているので、彼女達は置いて話を進めます。
「お前達は利用されてたんだよ、俺達にな」
「なんですって?」
「俺とパンドラは目覚めた時からロックマンとして、戦い合う事を運命づけられていた……この男の……究極のロックマンを作るという下らん計画のためにな」
「ほうほう」
アッシュは腕を組んで深く頷いているのですが、どこか緊張感がありません。とても真面目な話なのですが。
「だから俺達は決意した、アルバートへの復讐をな!」
「復讐ですって!?だから目の前で縦に斬ったのね!目の前で!縦に!バッサリと!」
「お前もうちょっと真面目に聞けや」
グレイもそうですがモデルAの適合者に不足しているモノ「緊張感」のお陰で何度も頭痛を覚える羽目に陥っていますし、パンドラの容赦ない罵詈雑言な他適合者達のフリーダムな行いの尻拭いもしている為、プロメテの疲労はピーク寸前でした。
「だが、今の俺はそれらのストレスがどうでもいいと思えるほど気分がいい!アルバートぶっ殺したからな!」
「ストレスって?」
「お前が一生悩まない精神的な病だよ」
これほど的確なツッコミがあっただろうか……モデルA無言の感心。
「俺達はな、何人ものロックマンを見つけ出してはこの戦いに巻き込んでいった。計画が進めば、アルバートは必ず姿を現わすハズだからな……お陰でお前達はアルバートを追い詰め、俺達は復讐を遂げる事が出来たってワケさ」
「なんて策士なの……アタシが天才美少女ハンターだから利用しようと企むのも仕方がないと思うけど!利用されたままのアタシはこの気持ちをどこにぶつけたらいいのよ!」
「知るか!!」
気分が良いとは言ってもひたすらにナルシストで自己中なアッシュとのやりとりはやはり疲れます。
『まさか……こんな形で戦いが終わるなんて……』
「は?何を言ってるんだお前……まだ終わっちゃいないだろ!」
その言葉にハッとしたアッシュに、プロメテは高らかに叫びます。
「まだ残ってるじゃないか……!クズに作られたクズの塊……俺達ロックマンがな!」
「誰がクズですってぇぇぇぇぇぇ!!」
アッシュ発砲。発砲と言うよりは連射という表現が近い猛攻でした。
しかし死神と呼ばれていた男の身体能力は並ではありません。自分に当たりそうな弾丸だけを鎌の刃で防ぎ、しかも刃で弾いた弾丸がパンドラ達に当たらないように計算しているため、全て的確な方向に飛ばしているのです。その場から、一歩も動かずに。
「うっそ」
「俺とパンドラは、元の体には戻れない。だからこの運命を、俺達の手で終わらせるのさ!アルバートが作ったモノ、その全てを滅ぼす!それが俺達の復讐だ!」
バスターを構えたまま立ち尽くすアッシュに向かい、プロメテは鎌を振り上げ、
「さあ……楽しもうじゃないか……!最後の宴を!」
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