過去拍手置き場

□21話 本陣突入
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バイオラボ。
かつては身の丈以上あった巨大なフォルスロイドを葬った場所。主がいなくなった研究施設はイレギュラーが徘徊する音すら聞こえない静寂さの中にあり、ここだけ時間が止まってしまっていると錯覚してしまうほど。
騒がしかった機械たちも全て稼働を停止しており、主を待ち望んでいたであろうメカニロイドたちの目に光が灯る事は二度と叶いません。永遠に眠り続けるだけの悲しい存在と成り果てたまま、静かに朽ちていくことでしょう。
さて、アッシュとグレイのロックマン2人組は再びこの地を訪れていました。「あんな悪臭まみれの下水道なんて通れるかー!」と激怒したアッシュにより、ちゃっかりトランスサーバーを使って。
彼らの目的は、バイフロストがいた場所の隣にある、小部屋でした。
「おーあったあった。使われていないトランスサーバーよ」
「粗大ごみじゃなかったんだね」
部屋の真ん中にぽつんと、寂しげに設置されていたトランスサーバーは、長年放置され続けていたのか埃被っていましたが、モニターだけは怪しげに光っており、まだ稼働していることを証明していました。
なぜ、彼らがここを訪れているのかというと、話は数日前に遡ります。
「暇ねぇ〜」
「そうだねぇ〜」
テスラットを撃破し、詳細不明のデータディスクをレギオンズに送ってからというもの一向に音沙汰がなく。次の目的を失った2人は「暇だ暇だ」とぼやきながらハンターキャンプのバーでジュースを飲んで暇を潰していたのです。
もちろん、アッシュがハンター活動を怠るワケがないので、ハンターキャンプに流れ込んできたクエスト等の依頼を引き受け、地道に食い扶持を稼ぎながら連絡待ちをしているのですが、そろそろ我慢の限界が近くなってきたわけで。
「うう〜逃がしたペットを捕まえて〜とか、大量発生したイレギュラーを退治してくれ〜とか、プレミアムのついた漫画を探してきて〜とかフツーの依頼ばっかりで飽きてきた……そろそろフォルスロイドを倒す仕事がしたいわ……」
「僕もー最近暇だよねー」
カウンターに伏せて愚痴を言い合う2人を、周囲の客たちは呆れた目で見つめています。
彼女たちが受けた依頼は一筋縄ではいかない難しい仕事ばかり、達成までに何日もの時間を費やしてもおかしくありません……が、あそこで飲んでいる2人は物足りない様子。
ロックマンになって人智を超えた力を手に入れ、見事に使いこなしているのでこの物足りなさは当然と言えますが、一般ハンターたちの心境はものすご―――く複雑でした。
「あーもう飲まなきゃやってらんない!マスターカルピス1つ!今夜は朝まで飲み潰れてやるわー!」
『カルピスで酔い潰れられんのかよお前……』
モデルAも別の意味で呆れた時、
『アッシュくん、グレイくん、今大丈夫か?』
突然、トーマスから通信がかかってきたのです。
「おおっ!マスタートーマス!何か進展があったの!?」
アッシュの口から発せられた世界的に有名な三賢人のひとりの名に、周囲のハンターたちがまたざわつき、もうアイツに逆らったらダメな気がする……と勝手に敗北感を覚えたのでした。
『遅くなってすまなかったね。先日送ってもらったデータディスクの修復が終わったよ。すぐにそちらに送りたいからトランスサーバーまで来てもらえるかね?』
「行くわ!もちろん行く!さあグレイ立ちあがて!れっつらごーよ!」
「え?あ、うん?」
頼んだカルピスが出てきましたがアッシュはお構いなしにグレイを引っ張り、ロックオンしていないというのに高速移動でバーを後にしました。注文してから帰るのは迷惑行為なのでやめましょうね。



「その後、トーマスから起動していないトランスサーバーの話を聞いたアッシュちゃんはピーンときたわ。なんてたってアタシは天才美少女ハンターなんですもの、ここに放置されてたトランスサーバーのことぐらい、引き出しからパンツを取り出すのと同じぐらい簡単に思い出せたわ」
『もうお前の肩書きとか意味のわからなん例えにツッコむような時期でもないけどさ、ホントにこれで起動すんのか?』
「そんなのやってみないとわからないでしょーせっかちなんだから。ほらグレイ、ゴー」
「はあい」
アッシュに促され、グレイはデータディスク片手にトランスサーバーの台座に乗り、寂しげに光るモニターにそれをかざしてみました。
「ひらけーゴマ!」
『なんだその呪文』
「これを言うと閉ざされた扉が開くんだってアッシュが昨日言ってた!」
また知らぬ間に余計な知識が与えられてしまったとモデルAが心底呆れ、軌道修正は不可能に近いなーと悟りの境地に入った刹那、

【キドウキーカクニン、ザヒョウデータカクニン、アクティブモードヘイコウ】

感情の無い機械の声が響くと、トランスサーバーの台座が緑色の淡い光を発し、起動したことを教えてくれました。
「わーやった!うまくいったね!」
「さっすがアタシ!アタシってばやっぱり天才ねー神様もきっとアタシの頭脳に羨望の眼差しを送っているはずよ!」
『へー』
モデルA無関心。最初から無関心ですがさておき、アッシュはトランスサーバーの台座に乗ります。
「転送先はアルバートの根城であることは明白ね……さすがに天才じゃなくてもわかるでしょこれくらい」
「うん、アッシュが言わなくてもわかったもん。僕」
小さく頷くグレイは、いつもよりも真剣な表情。いえ、いつも以上に真剣で長く付き合っていたアッシュでも、こんなグレイを見るのは初めてのことです。
アルバートを追えば自分のことが分かる……今までずっとそれだけを追い求めてきたグレイにとって、目指すべきモノはすぐ近くまできています。だからこそ、肩の力が入ってしまうのでしょうか。
もちろん、そんなことを考えている自分もそうです、アッシュは一旦深呼吸をして、
「よーし!アルバートに会ったら開幕先制攻撃でこめかみあたりに一撃キメてやりましょ!倒れた所で畳みかけて、今まで散々じらしてきたアタシやグレイのことを洗いざらい吐かせてやるわ!」
「おおぉ〜すごい!僕も頑張るよ!」
いつもの笑顔が似合うグレイに戻ったところで、トランスサーバーが動き始めました。
『行こうぜ!アルバートのアジトに殴り込みだ!』
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