過去拍手置き場

□20話 嵐の前のなんちゃら
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「ハイパーコスモ美少女ハンターアッシュちゃんはハンターキャンプで長い間放置されていた転送装置を使ったの巻!」
「まき!」
地の文での説明要らずな台詞が飛び出すと同時に転送は完了、ハンターキャンプとは違う場所に到着。夜空には丸いお月様が浮かんでいました。
着地した場所は、幅に余裕のある大きな橋で後方10メートル先は壊されており、向こう側に渡る事はできなくなっています。橋の向こうには大きな滝も見え、日が沈んでいるのもあってかなり涼しく感じます。
「なにかしらここ」
不思議な場所に出たと首を傾げるアッシュの横で、グレイが小さく震えているのが見えます。
「こ、ここ……見覚えがある……!」
「なんですって!?まさか失った記憶と関係が!?」
「ううん!僕が眠っていた場所!パンドラにグレイきゅんって呼ばれた場所!」
「なあんだ」
ちょっぴり残念そうなアッシュですが、モデルAはこの発言を無視できません。
『グレイきゅんっていうのも気になるけどさ……グレイお前、こんな所に閉じ込められてたのか』
「戦った跡もあるみたいだけど、もしかしてこれもグレイが?」
「大きなイレギュラーを倒したらこうなっちゃった」
目覚めて右も左も分からなかった時はとにかくここから逃げ出さなきゃと無我夢中で、こんな場所で戦えばどうなってしまうかなんて考えられなかったでしょう。ちょっぴり落ち込み気味のグレイに対し、アッシュは何を言ってやるべきか少々悩んで、
『トーマスだ』
突然トーマスからの通信が入ってきて、言葉をかけるタイミングが完全に失われてしまい、アッシュは言葉にならない悔しさを感じて奥歯をギリリと噛みしめるのでした。
「あ!マスタートーマス!」
『グレイくんはここでロックマンとしての調整を受けていたのだね。だとすれば、ここにアルバートの計画に関する手がかりがあるかもしれん』
『なるほどなるほど、可能性は高そうだな。それっぽい反応はあったりするのか?』
『いいや、全くない。こちらのモニターには何の反応もない……妨害電波が出ているようだ』
そんじゃそこらのレーダーとは性能の差が段違いだと言われているレギオンズのレーダーでも探知できないほどの妨害電波。かなり高性能だというのはレギオンズの人ではないアッシュたちでも分かります。
「妨害電波を出してまで存在を隠したかった研究所、グレイが目覚めた場所……怪しい臭いがプンプンするわ」
と言いながらもアッシュはどこか楽しそう。ハンターとしての本能がそうさせているのでしょうか、こういう謎多き場所に着くとワクワクが止まりません。お宝があるかもしれないので。
「お宝だけじゃないわ!グレイの記憶に関する手がかりだってあるかもしれないでしょ!」
『誰に言ってるんだよ』
モデルAの静かなるツッコミはさておき、グレイは目を丸くしてきょとん。
「僕の記憶?でもここで目を覚ましただけだし過去のことなんてわからないかも」
「分からないって断言するにはまだ早いわ。この研究所をくまなく調べてないんだから最初から決めつけるのはよろしくない事よ」
彼女が指すのは研究所の入り口。分厚い鉄の扉によって入り口は固く閉ざされていますが、電子ロックはかかっていない様子。
「とにもかくにも進んでみましょ。何か分かればそれでよし、何もわからなくてもまあいいじゃないってことで」
『アッサリしてるなぁ、お宝が見つからなかったらダダこねるタイプだと思ってた』
「お黙り、火種にするわよ」
『やめて!!』
このように、最近アッシュのライブメタル扱いが酷すぎるとモデルAの中でだけ話題になっているとか。
「お宝なんてすぐにポンポン見つかるってワケじゃない、現れた日は偶然アタシの魅力に気付いて出てくれただけであって、現れなかったうっかりさんだって大量にいるって割り切っておかなくちゃ一流ハンターとは言えないわ」
「へぇー!ハンターってカッコいいんだね!」
グレイ羨望の眼差し。今日のアッシュは珍しく真面目ですが、グレイは全く気にしていません。もしかすると気付いてないのかもしれません。
『……では、研究所の調査はまかせたぞ』
話に入るタイミングを完全に失っていたマスタートーマスはそういうと、一旦通信を切ったのでした。



さあ、いよいよ始まりました。謎の研究施設の調査です。
いつも通りそこらじゅうにイレギュラーがうようよしておりアッシュたちの行く手を阻むワケですが、2人はあざやかに、そして素早く片付けます。彼女たちが通った後にはジャンクロードができあがっていますが、これもいつも通り。
目立ったイレギュラーもおらずびっくりするほどスイスイ進み、
「ちぇすとぉぉぉぉぉぉ!!」
「どりゃあ〜〜〜〜〜!!」
雄たけびと共に壁をぶち破り、広い部屋に出ました。ぶち破ってできた大穴の横にはごくごく普通の自動扉があるものの、常識という概念から飛び出したロックマン2人には全く関係ありません。
本来の役目を果たせなかった扉が大穴の横にある光景はどこか虚しさを覚えます。モデルAはノーコメント。
「さーて今日のアッシュちゃんの華麗なる登場シーンも完璧ね、本物のドアがオブジェに見えるぐらい完璧な演出にプロの女優も真っ青よ!」
「よくわからないけどすごーい!」
ツッコミ不在の会話はさておき、2人は部屋の奥に足を進めます。
無駄に広い部屋ですがイレギュラーの気配はなく、灰色の壁と床が永遠と続いているだけでひどく殺風景です。
ただ、1つだけ変わっているとすれば部屋の真ん中にぽつんと置いてあるカプセル装置ぐらい。しかも2台あるではありませんか。
「何もない部屋にある空っぽのカプセルが2つ……これが何を意味するのかしら?アタシの推理力が冴える日ね!」
「これ、僕が入っていたカプセルと同じだよ!」
「なんですってぇ!?」
推理する手間も楽しみも全て奪ったグレイの発言にアッシュ驚愕。さらにカプセル横にそれぞれあるパネルにメッセージが出ているのも見つけたので、読んでみる事にしました。
「えっと……DAN-001プロメテ。サイ調整マデノ活動ゲンカイ時間246924ビョウ」
「こっちにはDAN-002パンドラ。サイ調整マデノ活動ゲンカイ時間246939ビョウ。ってあるよ!」
何気ない気持ちでメッセージを読み上げたアッシュとグレイはこの場で一旦硬直し、ほんのちょっとだけ考えて、
「プロメテ!?」
「パンドラ!?」
馴染み深い名前が出たとようやく気付いたのでした。
「あの2人も僕と同じようにここで作られたのかなぁ?」
「そう考えるのが妥当でしょうね、こうしてカプセルもあるし……仲が良いのか悪いのかよく分からないコンビだったけど、なんだかんだいいつつ仲良く一緒に作られていたのね」
と言いつつ何かお宝はないかと物色し始めるアッシュ。ハンターとしての本能なのかもしれませんが傍から見ればただのコソ泥です。命が惜しいので誰も言いませんが。
その刹那、モデルAの脳裏にある可能性が浮かび上がってきたのです。
『はっ!キラッとひらめいた!』
「何を?デコレーションのアイディア?」
『ちげーし!オイラのデータにあったきょうだいのレプリロイドのことだよ!もしかしてさ、あれってプロメテとパンドラのことじゃないか!?アルバートが最初に作ったロックマン!』
モデルAの中にあったデータを思い出すためにアッシュとグレイがフリーズ状態になっていると、またまた通信が入って来ます。
『……それで間違いないだろう』
声の主はマスタートーマスでした。いつになく……というよりいつもと同じように真剣な声色で、彼は話を続けます。
『このカプセルは恐らく、彼らを繋ぎ止める鎖だ。アルバートの計画に逆らえないようにするためのな』
くさり?とアッシュが右、グレイが左に首を傾げなかなかユーモアな光景が広がっていますがトーマスは何もツッコみません。
『パネルのカウントはプロメテたちの寿命だろう、かなり短く設定されている。定期的にカプセルでの調整を受けなければ死んでしまう……そういう仕掛けだ』
言い切ったトーマスの声にはプロメテたちに対する同情か、どこか落胆しているようにも取れました。
『調整を受けるにはアルバートに従うしかないってことか。酷い事するぜ』
「そうよ、人を従えるには支配ではなく崇拝させるのが一番よ。アルバートはもっとアタシを見習うべきだわ」
アッシュも憤怒している様子ですが趣旨が違うような気がしてなりません。宗教のカオリがします。
グレイは無言のまま俯いており心なしかションボリしている様子。
「…………」
『建物はまだ奥に続いているようだな、まだ何か残されているかもしれん。調査を続けてくれ』
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