過去拍手置き場

□19話 がんばる男の子
2ページ/3ページ

グレイの苦労もあって、アッシュは無事液体の海から脱出できました。
「ごめんねアッシュ……前回に引き続いてまたやっちゃったよ……」
今にも泣きそうな顔で俯くグレイに、青い液体まみれの体を拭きながらアッシュは言います。
「そこまで気にしなくてもいいわよ、カイゼミーネにトランスオンして何かを運んだ経験は少ないし……失敗した分、次の場面で挽回すれば許してあげてもいいから頑張りなさい」
「うん!」
上から目線の台詞が非常に気になるところですが、グレイに笑顔が戻ったのでモデルAは何も言えず。
「さーて、あの液体も人体に影響がないってわかった所でちゃっちゃと進んで行きたいんだけど」
「だけど?」
「寒くない?」
「うん」
さっきまで非常に慌てていて気にする暇もなかったのですが、下水道よりも明らかに温度が下がっています。生身の状態だったらコートを羽織らなければいけなかったかもしれません。
「下に行けば行くほど気温が下がってるわね。地下に冷凍庫でもあるのかしら」
「アッシュ、アッシュ、トゲがいっぱいあるよ」
「踏んだらシステム上即死になるから気を付け」
ふとグレイが指す方向を見れば氷のトゲがまばらに生えている光景と遭遇。トゲといってもアッシュの背丈ぐらいの高さがあり、誤って踏んでしまう事故は起きそうにありませんが。
「もしかして、気温が下がっている原因ってこれだったりする……?」
『何でここに生えてるのか分からないトゲだなー、ワナか?』
「ワナにしてもそうじゃないにしても邪魔よこれ」
試しにバスターショットを撃ちこんでみますが、非常に丈夫な氷のトゲは弾丸をあっさり弾いてしまいヒビ1つ入りません。
「思った以上に頑丈みたいね」
「じゃあ僕に任せて!挽回するから!」
意気揚々と叫んだグレイは瞬時にトランスオン。ディアバーンの姿になりました。
「ていやあ!」
腕から発射された炎の矢はまっすぐ飛び、氷のトゲをぱりんぱりんとあっさり壊して行くではありませんか。
『炎に弱いみたいだな』
「その調子よグレイ。アナタが活躍してアタシが楽をすればそれだけで名誉挽回になるんだからどんどん頑張りなさい」
「うん!」
完全にグレイを利用する気満々ですねこのハンター。前からそうだった気がしますが。
真意はさておき率先して前に出て、氷のトゲを破壊するグレイのお陰でスムーズに進み、とうとう大きな紫色の扉の前までやってきました。
「出たわねボス部屋」
「突撃する?」
「もちろん、でもその前にトランスオンを解きなさい。ナチュラルな姿でボスと対峙するのがこの業界におけるマナーなのだから」
「はあい」
言われるがままにトランスオンを解除したグレイはロックマンモデルAの姿に戻りました。モデルAからのツッコミはありません。
「よし、いざ行かん」
こういう時は積極的に前に出る女、それがアッシュ。
扉を開け、短い通路を無言で歩き、さらに奥の扉を開けた先にあったのは、
「大型メカニロイドがこんなにたくさん!?」
「いっぱいあるね!?」
ひたすら広いだけの部屋、奥まで均一に並んでいるのは土偶のような大型メカニロイドたち。動き出す様子はなく、眠っているように静かです。
「あれ?あのメカニロイドどこかで見た覚えがある」
「アッシュも?僕もどこかで見た事がある気がするんだよね」
「うーん……どこだったかしら……アタシの美貌に関係ない情報は積極的に消去していくからなあ」
便利すぎる記憶能力もモデルAにとっては既に見慣れたものです。それこそツッコミしないぐらいには。
すると、
「むむ?揺れてない?」
「地震?」
ずしん、ずしんと地面が揺れる地響きが聞こえてきたのです。それも、メカニロイドたちとは逆の、開けた方角から。
今更地響きぐらいで怯えないのでそのまま突っ立っていた2人は、目の前に現れたメカニロイドによって、地響きの原因を理解しました。
『…………』
唖然とするのも無理はなく、ワニ型のメカニロイドは文字通り天まで届くほど巨大だったのです。高さも、幅も、今まで見たメカニロイドとは比べ物にならないぐらい巨体でした。
巨大メカニロイドは2人を見下し、言葉を発します。
「驚いたか?彼らはこの施設で生まれた兵士だ。いつの日か現れるであろうロックマンの王に仕える兵士たちなのだ」
「驚いてはいる……わよ。アンタほどでかいメカニロイドというか、フォルスロイドは初めて見るもの」
「うんうんうん」
一瞬だけ不服そうな表情をしたような気がするメカニロイド改めフォルスロイドの彼は、それは聞かなかったことにして話を続けます。
「……ワシの名はバイフロスト。眠れる兵士たちの番人だ」
「どうして兵士たちは寝てるの?」
すかさず手を挙げたグレイの疑問に、バイフロストは嫌な顔1つせず答えてくれます。
「彼らの役目は1つ、新たなロックマンの王が誕生し新たな世界が生まれる時、古き者たちを滅ぼすと言う役目だ」
「なんて物騒なメカニロイドなの!?さっさと壊しちゃいましょ!」
「僕も手伝う!」
言うが否や行動するのが非常に早いアッシュはバスターを構え、動かないメカニロイドたちに銃口を向けます。彼女の役に立ちたいと願うグレイも一緒に。
まあ、そんな行為が巨大フォルスロイドに通用する訳がありませんが。
「彼らに手を出すと言うのなら、このワシが先に貴様らを滅ぼしてくれよう!骨1本、ネジひとつ残さずこのワシがかみ砕いてくれる!」
「んえ?」
横を向いたアッシュが見たのは、大きく口を開けているバイフロストの姿でした。90度とかそんなものではありません、180度は開いて氷のような牙の先がアッシュたちに向けられています。
「わああああお!」
「へ?」
今まさに引き金を引こうとしていたグレイの背中のコードを引っ張り、アッシュは足場から降りて舌にあった冷水プールにダイブイン。それと同時にガチン!という音が頭上で響きました。
「寒い!冷たい!思った以上に深くないのがなんかちょっと腹立つ!」
『やつあたりかよ!』
モデルAがツッコんでいても攻撃の勢いはとどまるところを知りません。
「ちょろちょろ逃げ惑いよって、踏みつぶしてくれる!」
一瞬だけ踏ん張ったと思うと、バイフロストはその場で大ジャンプ。その巨体でアッシュたちの真上で飛んでくるのですからさあ大変、ロックマンといえども潰されたらひとたまりもありません。
「緊急回避!」
「うひゃあ!」
アッシュとグレイはそれぞれ外側に移動して回避、同時にバイフロストが地面に着地し、大きな地響きが部屋に響き渡れば、
「あがががががしびれるるるるるる」
「うまくうごけないぃいいいいい」
振動により痺れてしまったのかこの2人、上手く身動きが取れなくなってしまいます。
「ワシを今まで戦ってきたフォルスロイドと同じだと思うな。今まで自分たちがどれだけ自惚れていたかということをじっくり、たっぷり、骨の髄まで叩き込んでやろう!」
高らかに叫ぶバイフロストを見たモデルAは、敵なのにしっかりとした常識を持っているのではないかと思い始めます。こういう奴が味方だったらいいのになぁ……なんて考えてしまったことは、絶対に公言しないと誓うのでした。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ