過去拍手置き場

□19話 がんばる男の子
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ハンターキャンプの地下に開かずの扉がありました。
専用のカードキーが無ければ開けられない特殊な扉なのですが、どういうわけだか誰もそのカードキーを持っておらず、ハンターキャンプのお偉いさんも首を横に振る始末。
どうする事もできなくて長い間放置され続けた扉でしたが、とある自称美少女ハンターとその下僕によって扉はするりと開き、何人かのハンターが呆然とする中で、彼女たちは開かずの扉の奥へと意気揚々と進んで行きます。
「よくよく考えたら、アルバートが関与している施設がハンターキャンプの周りにあるなんて変な話よねぇ」
「そだね!」
今日も元気なアッシュとグレイ、会話を交わしながら一歩進んだ刹那、
『臭っさ!!』
ハンターキャンプ地上3階にまで届きそうな絶叫が響き渡りました。
「なにこの酷い臭い!まさかこれもハイパーコスモ美少女アッシュちゃんの美貌に嫉妬した刺客による精神攻撃……!?悪臭によってやる気を削ぐタイプ……?」
『今日も絶好調だな』
モデルAの皮肉のこもった発言はアッシュの耳に届いても脳には届きません。都合の悪い台詞は全てシャットアウトする体質なので当然でしょう。
「奥から流れてきているのかな?ううぅ〜あんまり進みたくないなぁ」
鼻をつまみながらグレイげんなり。さっきまでの元気とやる気は次元の彼方まで吹っ飛んでしまったようです。
『前回は涼しげな滝な遺跡の心地よさがわからなくてちょっと残念だったけど、こういうのを見てるとライブメタルでよかったなあって思うよ』
「なにそれ皮肉?」
『メッソウモゴザイマセン』
最近エールにライブメタルの制裁法を学んだアッシュにあまり頭が上がらなくなってきたモデルAは即座に返答。被害をゼロに留めます。
「これ……オイルの臭いかなあ?」
「うげーやだやだ……悪臭なんて美少女の名に似合わないし似合わせないわ。早いとこ調べて帰りましょ、うん」
「だねぇ」
やる気は削がれたものの後退という二文字はない2人は前進を始めます。
前回の滝野遺跡のような複雑な地形ではなく、薄暗い道が永遠と続くだけで迷子になる心配はなさそうなので楽に進めそうな印象です。悪臭が酷いことが難点ですが。
「うげー気持ち悪い……」
「歩く度にくらくらするよ〜」
いつもなら勢いよくダッシュで進む2人もこの臭いには耐えられそうになく、バスターを構えたままゆっくり歩いて進みます。動きの素早いイレギュラーがいないのが不幸中の幸いと言えましょう。
「奥までこの調子なのかしら……ちょっとモデルAーロックマンに悪臭シャットアウト機能ってないのー?」
『んなもんねーよ』
「なんてケチなの!もしアンタを作った人に会ったら一言文句をぶつけなきゃ気が済まないわ!」
ケチとかそういう問題ではありませんが、自分を作った人物に文句を言いたいのはモデルAも同じなので何も言いません。
「アッシュたいへんたいへん!天井からネズミが落ちて来たよ!」
「なんですってぇ!?」
見れば天井のパイプからネズミ型のイレギュラーがぼとぼと落ちて来るではありませんか。
「素早いイレギュラーがいないから楽だと思ってたのにい!」
「どうしよどうしよ!どんどん増えてく!」
「落ち着きなさいグレイ!焦りはミスを生み出すわよ!ここはトランスオンで蹴散らす作戦でいきましょう!」
「おっけー!モデルZXにトランスオン!」
は?モデルZX?とアッシュが目を丸くすると同時にグレイは白い光に包まれ、あっという間に光が弾け、ロックマンモデルZXが姿を現します。
「セイバーで敵をいっぱい斬っちゃうよ!」
声が高いのでエールでしょうか、高らかに叫ぶ彼の手にはバスターが握られていました。
「……あれ?」
「確か、エールはバスターしか使わないって言ってたわ。トランスオンにもその影響が出ているのかしら?これじゃあセイバーは使えないわね」
「そんなぁ」
しょんぼりグレイ、渋々トランスオンを解いて元のロックマンモデルAに戻ります。
そうしている間にもネズミは数を増し、とうとう横の下水道に落ちてしまう個体まで現れました。それでもまだまだ増えます。
「グレイがエールってことは、アタシがトランスオンすれば……モデルZXにトランスオン!」
何か確信を得たアッシュ、モデルZXにトランスオンを試みます。演出省略。
「おおセイバー!声低い!やっぱりヴァンになるのね!なるほど!」
やけにテンションと声が高い男性ロックマンが誕生しました。その手に握られているのは緑色の光を放つセイバーです。
「アッシュすごい!かっこいい!」
「どやぁ。よーし、これでネズミ共をばったばったと切り刻んでやるわ!」
『って言いたいところだけどタイムリミットだぞ』
モデルAが言い切った刹那、先頭にいたネズミが突然爆発しました。小さな爆発でした。
それに巻き込まれた他のネズミも連鎖爆発、その爆発は密集していたネズミたち全体に広がり、あっという間に全てのネズミが爆発、部品ひとつ残りませんでした。
悪臭の中に焦げ臭いにおいが立ち込める中、呆然と立ち尽くすロックマン。
「……何しに出て来たのかしら。アイツら」
「……さあ……」



意味の解らないネズミはさておき、ロックマン2人は悪臭に耐えながら先に進むこと数分、最奥にあった扉をくぐると、下水道のような場所から一辺、全く違う場所に出てきました。ちなみにアッシュはトランスオンをといて元のモデルAの姿に戻っています。
「なあにここ」
「青いね!」
さっきの下水道のような場所とは雰囲気も臭いも全く違う空間にはアッシュたちでは到底理解できそうにない精密機械の数々、奥には無機質な色をしたパイプがいくつも並んでおり、天井から床に向かって伸びていました。
そして、雨上がりの小道にある水たまりのように貼っている青色の液体は、水面でぽこぽこ気泡を出していました。
『どう見ても遺跡って感じじゃないな。研究施設っぽいぞ』
「ここから出て来た工業廃水とかがあの悪臭の原因だったのかしら?はた迷惑な話よね」
「ハンターキャンプに臭いが来ないだけマシかも」
辺りを見渡しながら口々に言う3名。今日は珍しく三賢人からの通信も来ないので彼らだけの会話が続きます。
「原因はともかく、ここの正体をを暴かないと話にならないわ。行くわよ!」
「おっけー!」
悪臭がなくなったお陰でさっきよりも元気とやる気が出て来たようです。景気よく一歩を踏み出そうとしたアッシュ、青い液体の張った場所に右足を突っ込みました。
「あ゛」
「大丈夫!?」
すかさずサブタンクを取り出したグレイでしたが、アッシュはそれを制止。
「ダメージはないから問題ないわ。でも……これ……」
「これ?」
「すっっっっっっごい気持ち悪い!!」
さらにずぶずぶと液体の中に足が呑み込まれていきます。まるで底なし沼のよう。
「ギャアアアア気持ち悪い感覚が徐々に広がっていく感じが更に気持ち悪い感覚を生む負のエンドレスがああああああ!!」
「アッシュ―――!」
グレイはアッシュの左腕を掴んで一生懸命引っ張るものの、射撃技術はあっても腕力はさほどでもない彼の力だけではどうする事もできません。どんどん飲み込まれていきます。
「あわわわ……ど、どうしよう……」
『グレイ!あれだ!あれを使え!』
「あれ?」
モデルAが言う「あれ」は、青い液体の向こう岸にある黄色の巨大なコンテナでした。上には丸いハッチがついており、はめ込んで持ち上げるタイプになっています。
『カイゼミーネにトランスオンしてあれをアッシュの近くに運ぶんだ!』
「なるほど!」
早速カイゼミーネにトランスオンしたグレイ、モデルAの指示通りコンテナの上まで飛んで早速ドッキング。下半身に巨大なコンテナをぶら下げて飛行に成功します。
そうしている間にも、腰まで沈んでしまったアッシュ。ちょっとしたパニック状態になっているわけで。
「ギャー!沈む沈むー!溺死なんてアタシの美徳に反するー!ヘルプ!」
「アッシュ〜これに捕まって〜」
「でかしたわよグレイ!それをアタシの横に落として!」
「任せて!」
元気な声で返答してから、言われた通りその場で下半身のコンテナを落とせば、
「おっけーおっけー!そのまま……」
アッシュの頭上に黒い影ができて、一瞬で意識が途切れました。
「アッシュ――――――!!」
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