過去拍手置き場

□18話 過去を追う者
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滝の遺跡。
エールに貰ったカードキーを使った先にあったエリアの1つ。実は他にも3つ程入り口があったのですが、アッシュの美少女ならではの素晴らしい直感により最初にこのエリアが選ばれました。
「涼しいわね!」
「そうだね!」
エリア内に入った第一声がコチラになります。
『エリアの至る所に滝があるからそれで涼しくなってるんだろうな。オイラはライブメタルだからよく分かんないけど』
「ふふん、これも生身の人間の特権よ。この心地よさを体感できないなんて勿体ないわねー」
得意げに胸まで張っているアッシュに合わせて、グレイもえっへん!と胸を張っていました。
すると通信が、
『ワシじゃ、ミハイルじゃ。以前レギオンズで調べたお前さんらのデータについて分かったことがあるぞ』
「おおうミハイル!?ひっさしぶりすぎて存在をすっかり忘れていたわ!」
「僕たちのデータって、前になかったって言われたアレだよね?」
アルバートが前もって消したと考えられる2人に関するデータのことです。今の今まですっかり忘れていた2人でしたが、ミハイルの登場と話を振られたことにより思い出すことができました。
「とうとうハイパーコスモ美少女アッシュちゃんの麗しき反省が白日の下に曝されるのね……ワクワクしてきた」
期待に目を輝かせる彼女ですが、ミハイルの言葉はその輝きを一瞬で曇らせるものでした。
『いや……結局データは消されたままじゃ。どうもデータベースを外部からハッキングして、データを消した者がいるようでの』
刹那、アッシュから舌打ちの音が飛び出しましたが小さいボケを1つずつ拾うほどレギオンズの三賢人は暇ではありません。
『どうせアルバートの仕業だろ?』
『恐らくな。ハッキングの元をできる限り辿ったんじゃが……今、お前さんらがいるエリアのネットワークで反応が消えているんじゃ。その辺りで大きなコンピュータ施設は見えんかね?』
「こんな所にねぇ?」
見渡す限り閑静な遺跡です。滝の音ぐらいしか聞こえないような、アウターでなければ間違いなく観光スポットになっていたであろう場所です。
「建物のたの字も見えないぐらいの遺跡っぷりよ」
『ふむ……こちらの追跡はこれ以上は無理じゃ。後はお前さんたちに頼るしかないわい、ハッキングに使われたコンピュータならまだデータが残っとるかもしれん』
「それならしっかり頼られちゃうわ!もともと自分の事だもの、自分の過去は自分の手で掴みとってこそ価値があるってものよ!」
ようやく見えてきた自分の過去を知る可能性、その期待からアッシュは胸を張って高らかに叫び、グレイも目を輝かせて、
「僕も頑張る!分からない事だらけだった僕の過去がようやく分かるんだから!分かるかもしれないから!」
傍にアッシュとモデルAがいたことで記憶喪失の不安を拭えていたグレイでも、自身の記憶について興味がなかったワケでもなく、いつか自分の事を知りたいと強く願っていました。
すぐ近くにあるかもしれない、その可能性があると知っただけで期待とほんのちょっとの不安も覚えてしまうのでした。
『有り余るほどやる気があるなら大丈夫じゃろ、お前さんらのデータはアルバートを追うための重要な手がかりでもあるからの、頼んだぞい』
そう言い残し、ミハイルは通信を切りました。
「さあグレイ!急いで行くわよ!邪魔するモノはできるだけ排除の方針で!」
「おっけー!」
とうとう破壊魔が2人ほど動き出すのか……いたたまれない気持ちになるモデルAですが、ちっぽけなライブメタルに彼女たちを止める術はありません。黙って見守るだけにしておきます。
「どんどん行くわよ!」
言葉通りどんどん足を進めるアッシュ、グレイもヒヨコのように一生懸命ついて行きます。
ゆるやかな坂を下って、鳥居のような建造物が建っている場所に出てきました。奥の木々の間からは夕刻に相応しい茜色の空が見えます。
それらの景色を完全にスルーしたロックマン2人、鳥居前の台座に座っている狛犬型イレギュラー2体も当然のごとく無視して通り過ぎて行きました。
「待てぇ!!」
突然、イレギュラーの1体が叫んで2人を呼び止めます。口が開いている方のイレギュラーで、全く同じ外見のもう片方は口を閉じています。
「何よ?こっちは今急いでるんだけど?」
「そうそう」
アッシュとグレイが不満げに目を向けるので、イレギュラーたちは話を続けます。
「ここから先は何人たりとも通る事は許さぬ!」
「……うぬ!」
口を閉じているイレギュラーが大きく頷いて返事をしました。それだけでした。
「どうせアルバートの仲間でしょ?大体分かるわよ〜それぐらい、もうパターンになってるんですもの」
「パターン言うな!わが名はアーゴイル!そしてぇ!」
「…………うぬ!」
「我が半身ウーゴイル!」
「口が開いて喋る方がアーゴイル、口を閉じてうぬうぬ言ってる方がウーゴイルね。なるほど」
解説の必要のない台詞をぼやいてアッシュは1人納得、グレイもなるほどなるほどと頷いています。いつも通りの緊張感の無さです。
「腑抜けた顔をしていられるのも今の内だ!我らはアルバート様の命によりこの地を守りし者!よって、貴様らをここで亡き者にしてくれる!」
「…………死ねい!」
対照的にアーゴイルとウーゴイルは2人を睨んで戦闘準備万端、非常に真面目な性格なのが目に見えて分かる光景です。
「仕事に真面目に取り組む姿勢は立派だけど、アンタたちは間違いを犯している……それは!このハイパーコスモ美少女アッシュちゃんの覇道を邪魔したこの愚行!その罪深さを思い知らせてやるわ!行くわよグレイ!」
「おっけー!」
相も変わらずちんぷんかんぷんな台詞でしょうが、モデルAは一言も喋ろうとはしませんでした。
「フン!覇道がなんだか知らぬが我らの守りを崩せると思うてか!愚か者め!」
アーゴイルが台座から飛び降りると同時にウーゴイルも地に降り立ち、2体同時にアッシュとグレイに向かって突っ込んでくるではありませんか。
「わああっと!」
「あぶない!」
すぐさまジャンプで飛び跳ねて回避。一般人よりも何倍も高い脚力を得た今の2人なら、フォルスロイドを飛び越えるぐらい余裕綽々なのですよ。
先制攻撃を回避し、再び足を地に付けたアッシュは、
「なに今の!?明らかに今までのフォルスロイドとは違う動きしてた!」
「ガガガガガガッ!って言ってたね!火花も見えた!」
グレイがストレートな感想を伝えると、いつの間にか台座の上にアーゴイルとウーゴイルがそれぞれ戻ってきています。初期位置とは逆ですが。
「我らの脚部についているダッシュローラーの瞬発力を思い知ったか!このスピードについて来れる者などおるまい!」
「うぬっ!」
得意げに話しアッシュのストレスを少し買った所で、またもや2体は台座から降りました。
またダッシュかと身構える2人は、互いに背中合わせになってバスターを構えますが、
「ワンパターン戦法だと思っているのか!」
アーゴイルが投げてきたのは棘の着いた桃色の球体です。世間ではこれを鉄球と呼びます。
目の前にいたアッシュ目がけて一直線、それもかなりのスピードを持って。
「よける!」
背中にいたグレイの手を無理矢理引っ張って一緒に倒れ込み、ギリギリの所で回避に成功。鉄球は2人の近くで地面にぶつかりバウンドして、そのまま空高く……
「うぬっ!」
飛んで行きませんでした。跳躍したウーゴイルが鉄球を蹴ったお陰で、それは再びアッシュたちに向かって来たのですから。
「散るっ!」
今度は地面を蹴って2人一緒にそれぞれ左右に回避、息の合った見事な動きですが、鉄球のスピードが速すぎて反撃に使う時間がない分不利な状況が続くワケで。
「これで終わったと思ったか!」
大声と共に鉄球を蹴りあげるアーゴイル。約65度の角度で飛んで行った鉄球は高速で回転し、丁度アッシュたちの真上まで来た刹那、
「うぬっ!」
突如その上に現れたウーゴイルが地面に這いつくばるアッシュたちに向けて鉄球を蹴れば、なんと鉄球は緑色のオーラを纏って3個に分裂。それぞれが猛スピードで落下してくるではありませんか。
「ヤバイ!」
バスターで弾き返すにも狙っている時間も構えている時間もなく、やむ負えずアッシュは前方に転がって回避、その拍子に頭から草むらに突っ込みました。
グレイも同じように回避しようと試みますが、タイミングが悪かったためか鉄球の1つが頭頂部に激突、悲鳴を上げる間もなくその場に倒れました。
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