過去拍手置き場

□15話 天から地へ
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浮遊遺跡。
何らかの異変により地面が浮いてしまったこのエリアは、しばらくそう呼ばれる事になります。
相当高い場所まで浮いてしまっているため、所々で吹く風は強く、異常気象からか竜巻まで発生する始末。このエリアが一般民のいないアウターなのは不幸中の幸いです。
遺跡の最奥とも言える場所には巨大な金属の塊が、不気味な音を立てながら浮いていました。異常現象を引き起こす金属片、その名はモデルV
その物体の前には、青年が1人で佇んでいます。
「…………全く」
長い沈黙の末、炸裂させた独り言は大変呆れた言葉でした。
「ただのモデルV回収ミッションだけならまだしも、もしかすると来るかもしれないモデルAの適合者2人の相手をしろだと……人遣いが荒いにも程がある。それでも三賢人かあの男は……」
誰に対する文句なのかは説明しなくても分かる方がほとんどでしょう。
何も知らない無知なロックマン2人を亡き者にするなど彼には容易い事でしょうが、前回あの2人の相手をしたテティスが「もう二度と関わりたくない……」とうわごとのように言っていたので、彼としては非常に接触したくありません。できれば姿形を見ずに帰りたいのですが。
「よし、長居は無用だ。後5分だけ待っても来なかったらモデルVを回収して戻ろう。結局来なかったという事にしよう、それがいい」
勝手に判断して言い切った時でした。
『イヤッハ―――――――――――――――――!!』
頭痛がする程のテンションの高い叫び声が上空から響いてきて、一刻も早く帰りたい衝動に駆られてしまいます。全てを無かった事にして帰って寝たい気分になったのはいつぶりでしょうか。
しかし、聞いてしまってはもう遅い。黙って見上げれば案の定、2つの人影がこちらに向かって弾丸のように突っ込んでくるではありませんか。
「……」
微動だにせずに立っていると、その物体は彼の隣に無事に着弾。轟音と土煙とクレーターを同時に生み出しました。ここでため息が漏れます、ついでに頭痛もします。
もう見なかった事にして帰ろうか……と思っているたら、クレーターから彼女たちは這い出てきました。
「よくもアタシとグレイの上空ミラクル流星アタックを回避したわね!やるじゃない!」
「すごいね!」
「当たる前提でいたのかもしれんが、俺は何もしていないからな」
ただ立ってただけです。己に絶対の自信を持つアッシュは全く信じちゃいませんが。
すでにロックマンモデルAにロックオンしているアッシュとグレイは、さっさとヘリオスの前に対峙し、
「こんな所にモデルVがあるなんてねぇ……やっぱり、この重力異常の原因はコレでしょ?アタシの天才的な頭脳がさっきからそう言ってるのよ」
「天才じゃなくても分かれ」
「あらやだ。アタシがあまりにも可愛くて美しくて、オマケに天才だから嫉妬しちゃってるんでしょ〜?モテる女は辛いわ〜」
「黙れ」
既にストレスゲージが右肩上がりの彼。常日頃から忌み嫌っているアトラスと口論している時よりもストレスが上昇しています。この馬鹿丸出しの自信家に対して。
「あ、もしかしてこのモデルVってアンタが回収する感じ?テティスといいプロメテといいパンドラといい、何でみんなしてこれを集めてるのよ。7つ集めたら願いが叶うとかそういうやつ?」
「無知すぎて頭痛を覚えたのは初めてだ……」
帰りたい。このアホを無視して帰りたいと、ここに来て何度思ったことでしょう。しかし、言われた仕事ぐらいキッチリしないと、アトラスに馬鹿にされるのは必至。負けたとはいえやるべき事はそれなりにやってきましたからね、彼女。
「モデルVの価値も分からず、ロックマンを名乗るか……」
「価値は分からないよ、ロックマンにはなれたから名乗ってるだけ!」
グレイの意見は無視してヘリオスは続けます。
「理解できぬからと恐れ、恐れるから排除する……お前たちのような愚か者がいるから、この世界から争いが絶えぬのだ」
「それ、アンタにも言える台詞じゃない?モデルVを理解してないアタシたちを恐れるから排除する方向に行ってるんでしょ?」

ぴっきーん

何の音でしょう?そうです、ヘリオスがモデルHでロックマンに変身した音です。
「うおう!?」
「貴様の戯言を聞くのはもうウンザリだ!愚者に死を!」
ロックマン・モデルHになったヘリオスは空を飛び、ダブルセイバーを構えて突っ込んでます。
「おっと危ない!」
アッシュ、ギリギリでしゃがんで回避。スレスレで空を切り裂いたセイバーの衝撃により、辺りの草が一瞬のうちに刈り取られました。
「あっぶなぁぁい……」
「アッシュ!アッシュ!めちゃくちゃ素早いよ!たぶん今までの敵の中で最速!」
同じく回避できていたグレイが両腕を振って主張している間に、ヘリオスは空中で方向転換してまた向かってきます。
「風のロックマンを名乗るだけあるわね……作戦プランKよグレイ!準備しなさい!」
『なあその作戦プランっていつ決めてるんだ?オイラそんな話一回も聞いた事ないぞ?』
モデルAの意見は無視されましたがいつものことです。
その間にも、ヘリオスはとんでもないスピードで距離を詰めていきます。
「今よ!」
「うん!クロノフォスにトランスオン!」
刹那、アッシュの前に飛び出したグレイがクロノフォスにトランスオン。固い装甲によりダブルセイバーの刃は防がれ、左手のセイバーはぽっきりと折れてしまいました。
「何っ!?」
驚きながらも、とっさに後ろに飛んで距離を置いてから着地。真ん中から2つに折れてしまったセイバーを睨み、その視線をアッシュたちに向けます。
「どうよ!クロノフォスの固い甲羅ならアンタのセイバーぐらい簡単に防げるんだから!」
「アッシュー、陸上だと身動きできないよー」
訴えるグレイの声。クロノフォスは水中型のフォルスロイドが故に陸上だと身動き1つ取れません、動こうと頑張って体を動かしても無駄。陸上でできる事といえば、せいぜい攻撃を防ぐことぐらい。
「何言ってるのよグレイ。トランスオンできるフォルスロイドはそれだけじゃないでしょ?覚えてるでしょ?空を自由に飛べるフォルスロイドがいた事ぐらい!」
「ああっ!そっかー!」
元気よく叫んだグレイの体は再び光に包まれます。トランスオンの光、この技こそモデルAのもっとも厄介な点で、危険視すべきだと知っているヘリオスは唇を噛みしめました。
「カイゼミーネにトランスオン!」
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