過去拍手置き場

□13話 伝説は切り開くもの
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その日、夕焼け空の下、町は混乱に満ち溢れていました。
いつもと変わらない毎日いつもと変わらない日暮れ。そんな当たり前の日常が、突如どこからか現れたイレギュラーの大群によって、地面に落ちたコンタクトレンズのように無残にも粉々に踏みつぶされてしまったのですから。
逃げ惑う人々の多くは、イレギュラーに背中から撃たれたり、崩落したビルの下敷きになったりと、恐怖の中で命を落とし、モデルVの糧となるのです。
「・・・・・・」
そんな光景を人っ子一人いないハイウェイに座り込んで眺めているのは少年でした。青色の短い髪に額には逆三角のマーキング。レプリロイドである証です。
悲鳴を上げる人々をぼんやり眺めている少年は、人々を助ける事もしなければ襲う事もせず、ただ見ているだけで何もしません。
「はぁ・・・」
ため息だけついた後、そのまま立ち上がってお尻をはたいて汚れを落とすと、そのまま耳の通信機に手をかけます。
「あープロメテ?僕だけど、あの様子だと車で逃げる人が結構出てくると思うから先回りの手配よろしくねー」
『了解。それにしても、お前が前線に出たいなんて珍しいな。モデルVの餌確保なら俺とパンドラちゃんが行った方がよかったのによぉ?』
「そうなんだけどね・・・ホラ、ここは海が近いから僕が見張りしてないと・・・あーあ、モデルVがこんな所で見つからなかったらなぁ」
『文句ならモデルVを作った奴にいっぱいぶつけとけ、そしたら俺とパンドラちゃんが喜・・・あれっ?パンドラちゃん!?わ、ま、また仕事中にちゃん付けで呼んだなって!?何でわかったの!?えっ、ああっヤメテー属性攻撃はヤメテー!』
ブツッ、とプロメテの悲鳴と共に切れた通信。その向こうでは一部を除くハンターたちに「死神」と恐れられている男がパンドラの電撃で酷い目に遭っているのでしょうが、少年にとっては見慣れた光景なので、深く考えないでおきました。
「さてと・・・これからもっと激しくなるんだし、そろそろ僕も行かなきゃね」
そう独り言をぼやくと、ポケットから青色のライブメタルを取り出しました。





「ハイウェイ!」
「ウェイ!」
日が落ちて間もない夜。アッシュとグレイのハンターコンビが、モデルVの反応があったハイウェイを訪れた時には、すでにイレギュラーの襲撃を受けている真っ最中でした。
過酷な状況だと思えないぐらいテンションの高いこの2人ですがこれがデフォです。この2人のテンションが低い時は寝起き意外見た事ないとモデルAは今日も思うのでした。
『その先のハイウェイでイレギュラーに追われる人々がパニックになっておる』
あくまで冷静に、そして淡々と通信機から語りかけてくるのは三賢人の1人、マスターミハイルです。
『車で逃げ出した連中が渋滞を起こし、逃げるに逃げられん状態じゃ。イレギュラーを撃退して、なんとか彼らが避難する時間を稼いでくれ』
「分かったわ。今日のミッションはモデルVを探しつつ人助けをしてアッシュちゃんの株急上昇大作戦”ね!」
その発言だけで株が急降下しそうな勢いですが、モデルAもミハイルもツッコみません。ミハイルは黙って通信を切りました。
「アッシュ!これからどうするの!?」
「とりあえず進みましょ。ミハイルが言ってた通りハイウェイはこの先なんだし、その内車で逃げ出そうとしてる馬鹿にも遭遇できるわよ」
イレギュラーに追われて生きるか死ぬかで必死な人々に対して酷い物言いですが、ハンターとして数々の修羅場を潜り抜けてきたアッシュだからこそ言える台詞です。また株が下がりそうですが。
「行くわよグレイ!れっつらごー!」
「アイアイサー!」
元気の良い掛け声と共に2人は走り始めます。
恐らく、これから来るであろう人々を待ち構えているイレギュラーの軍勢。何の力も持たない一般人なら絶望するであろう光景ですが、一般人の100倍以上の力を秘めているロックマン(アッシュ談)にとっては何の苦労もない道です。
「いいことグレイ、これからここに人がいっぱい来ると思うからイレギュラーを1匹残らず倒しておくのよ。1匹でも残ったらダメ、お残しは許しまへんで〜っておっかないおばちゃんが出てくるんだから」
「おっかないのはイヤだね・・・うん、僕頑張る」
言ってる事は正しいのでしょうが文末の一言のせいで台無しです。純粋なグレイは疑わずに信じていますがモデルAは大変呆れています。それでも何も言わないのはアッシュが酷く真っ当な発言をしているから。初めから最後まで嘘だったら文句を飛ばしているのですよ。
「イレギュラーを1匹残らず倒したら素敵無敵美少女ハンターアッシュちゃんがメタクソ誉めてあげるから頑張りなさい!」
「誉めてくれるの!?頑張る!」
ツッコんだら負けかな・・・と、ぼんやり思うモデルAでした。
「1匹残らず焦らず迅速に、そしてスマートに殲滅させる!これがアタシのハンターとしての生き様よ!」
「うん!」
基本的に有言実行をポリシーにしている彼女。迅速にと言った途端足を速めますが、
「あっ」
彼女の後を追いかけようとしていたグレイが足を止め、暗い空を見上げます。
そこには警備用のメカ数体がふわふわと浮いていました。町は混乱に陥っていますがメカにとっては人々の都合など二の次らしく、車は一台もないというのに今日もいつも通り、スピード違反している車がないかチェックしているのです。
その下を今、若干テンションが上がっているアッシュがダッシュで通り抜けました。警備用メカで、何もしてこないため気に留めず。
しかしそれが甘かった。数体のメカは緑色だったコアを赤色に点滅させて大音量で警告音を出しながらアッシュを追いかけ始めたのです。
「えっえっ何!?もしかしてアタシの美貌がとうとう心無いメカにも届くようになったの!?」
ポジティブもここまでくると表彰モノですね。メカたちは走るのをやめたアッシュに突撃を繰り返しています。スピード違反者もきっとこのように体当たりで止めているのでしょう。
「痛い痛い痛い!?何で!?アタシの美貌は力だけじゃあ手に入らないわよ!?」
『美貌うんたらの話じゃなくて、単にお前が早すぎるだけだと思うぞ』
ようやく冷静にツッコんだモデルA、グレイも静かに頷きます。
「速さが足りないって言うの・・・ああ痛い痛い!グレイヘルプ!」
「うん!」
その後、グレイの精確な射撃により、メカは一体残らず破壊されました。
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