過去拍手置き場

□12話 ネツニモマケズ
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「暑い!何ココ超暑い!汗で痩せそう!」
場所は都市部の周りにいくつかあるというエネルギー炉のコントロールセンター。アッシュは手で顔を仰ぎながら声を上げていました。
「暑くて干物になっちゃうよー潮風の当たる所で干されるよー」
『お前またアッシュになにか吹き込まれたな・・・』
いつも元気なグレイもこの有り様。すでにロックオンしている状態の2人がこうなってしまうのも無理ありません。
このコントロールセンターはイレギュラーの仕業で熱暴走を起こして制御が効かなくなってしまったせいで所々から発火しており、周りはほとんど火の海状態。以前訪れた砂漠地帯の油田よりも気温が高く、ロックオンしていなければとんでもない事になっていたかもしれません。
『ほっときゃエネルギー炉も暴走してボカーン!か、いちいち派手な奴らだな』
呆れた声を上げるモデルA。
アッシュとグレイが暑い暑いと言っている最中に事情を説明していた通信相手のマスタートーマスが淡々と言います。
『エネルギー炉はいつまで持つか分からない。何とか、コントロールセンターの制御を取り戻してくれ』
「こんなに暑いと気が滅入っちゃうけど・・・素敵無敵美少女ハンターアッシュちゃんがこれぐらいでへばってちゃあダメよね?」
「うん!干物になっても頑張るよ!」
「そこは干物にならないように頑張って欲しいわね」
また訳の分からない会話が始まったので、巻き込まれる前にトーマスは通信を切りました。懸命な判断です。
「ねえマスタートーマス・・・ってあら?もう通信切れちゃったの?やっぱり三賢人は忙しいのかしらねぇ?」
このお花畑思考がとてもありがたいとモデルAは静かに思いつつ、火の海の中を必死に進むアッシュたちを黙って見守るのでした。
「あらドア・・・と、ワイヤー?」
シャンデリアから落ちてくる火の粉を避けながらしばらく進み、差し掛かったのは文字通りドアと天井から垂れ下がっているワイヤーです。この日の海の中、奇跡的に変形も何もしないでそのまま垂れ下がっています。
何にでも興味を示す純粋なグレイ少年がワイヤーを引っ張っていますが、当然何かが起こるという事もなく、
「これなーに?」
『あーこりゃあただのワイヤーだ。でもローズパークにトランスオンすれば昇る事ができると思うぞ』
ローズパーク。その名を聞いた瞬間アッシュの肩が震えました。
「そっかー、じゃあ僕がローズパークにトランスオンしてアッシュを担いで昇って行ったらいいのかな?」
『良いと思うぞ。ドアは多分エレベーターっぽいけど明らかにワナっぽいし・・・』
2人が勝手に話を進めている間に、アッシュはグレイの背中のコードを掴みそのままダッシュ、ドアをくぐりエレベーターに飛び込み勢い余ってグレイを投げ捨てました。少年は頭から着地しました。
ドアはすぐに閉まり、何の操作もしていないというのにスイッチが入る音が響くとエレベーターは上昇を始めます。
「あー・・・びっくりした」
頭を打ってもびくともしない強靭なロックマンの少年はそんな一言を残して立ち上がり、息を切らして這いつくばったままのアッシュを呼び、
「どうしたの?いきなりエレベーターに放り投げて」
「あんな奴の力を借りるぐらいなら!罠っぽいエレベーターに乗って進む方がマシ!なの!よ!」
床を叩いて絶叫する彼女。一応重要施設なので殴る程度では破壊できないようですが、エレベーター内で暴れるのはどうかと思われます。
『アトラスと戦った時はローズパーク使えてただろ?グレイが』
「それとこれとじゃ状況が違うの!避けられる道があるならなるべく避けるのがアタシの生き様!」
『お前どんだけ生き様あんの?』
モデルAが冷たい一言を放った時、グレイが上を指しました。
「ねーねーアッシューあれなんだろー?」
「あん?」
ようやく見上げたアッシュの視界に入ってきたのは壁に張り付いている四角い機械。四面体の機械にはそれぞれの面に穴が開いていますが、一面だけ上下左右に向いている三角マークがありました。
「天井あるのになんであんな機械が入って来るの・・・?」
『ゲーム上のシステムにツッコむのはご法度だ!』
非常に厳しいツッコミが入った時、機械から炎が噴射されました。
「危ない!」
ぼんやりしていたグレイの首根っこを掴み、アッシュは紙一重の所で回避。炎は壁にぶつかって消えました。
「アッシュアッシュ!さっきあの機械が炎を出す時!三角の1つが光った!光った方から飛んできた!」
「あの状況でよく見えたわね・・・一般人のクセにロックマンの能力をあっさり使いこなせたり、今の動体視力といい、アンタマジで何者なの?」
「それが分からないから困ってるよ?」
首根っこを掴まれたままのグレイが小首を傾げて言うと、
『あのさーのん気に喋ってるトコ悪いけど、いっぱい来てるぞ?』
モデルAの忠告通り、四角い機械はエレベーターが上昇するにつれて次から次へとやってきます。実際はその場で浮いていたり壁に張り付いているだけでしょうが。
「うわあ」
「うへえ」
こうして、ローズパークによるトラウマを乗り越えられなかったアッシュと、それに巻き込まれたグレイの火炎放射避け大会が開催されたのでした・・・。





エレベーターが止まり、ドアが開くとアッシュとグレイはフラフラになりながらも外に出ました。
「つ・・・疲れた・・・マジ疲れた・・・」
「危なかったね・・・」
「この段階でこの疲労感ってヤバイわね・・・」
ふと視線を上げたアッシュが目の当たりにしたのは、通路の真ん中に置かれたあの火炎放射の機械です。1つ2つではなく複数の機械がほぼ等間隔で設置されており、絶えず炎を噴射しています。
「えー・・・暑い上にまだ続くの・・・」
もうすでに帰りたいと言いたそうな顔をしている上にいつものやる気と勢いが感じられなくなっています。疲労感と言うより長時間こんな暑い場所にいるストレスが勝っているのでしょう。
しんどいのは分かりますが、こちらはアルバートの野望を阻止するために動いているのでギブアップは許されません。グレイは平気そうな顔をしているので気にせず、
『これ終わったらマスタートーマスに何か奢ってもらうなりなんなりしたらどうだ?自分へのご褒美みたいな感じで』
モデルA、言い終わった瞬間墓穴を掘ったと気づきました。マスタートーマスにとんでもないモノを押し付けてしまった・・・。
罪悪感に駆られる金属の気持ちなど知らず、アッシュの目は輝きを取り戻します。
「そうね!その手があったわ!まだレギオンズに謝礼金貰ってないし、前払いって事にしてもらえるモノ貰いましょ!モデルAったらあったまいい〜」
『あ・・・うん、ドウモ』
「アッシュ元気出たの!?」
叫び出したアッシュを見てグレイはご主人様が帰ってきた子犬のように喜んでいる様子。
子犬のような少年にアッシュはグーサインを送り、
「もっちろんよ。人間目標持って行動しなきゃって言うけどやっぱりそうよね〜目標がなかったら自分で勝手に作ればいいだけの話じゃない!よーしアッシュちゃん頑張っちゃうぞー」
今頃、レギオンズ本部で仕事をしているマスタートーマスが大きなくしゃみをしている事でしょう。モデルAはそう思わずにはいられません。
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