過去拍手置き場
□9話 弄ばれる適合者
1ページ/4ページ
油田エリア。
不時着した違法ハンターの飛空艇の指令室に、ロックオンを解いたアッシュはいました。
「アンタたちにとって史上最悪最凶の脅威のロックマンはこのアタシ!超絶美少女ハンターアッシュちゃんとそのオマケのグレイが成敗してやったわ!」
『うおおおおおおおおおおおおおお!』
「だからもう安心しなさい!アンタたちの命を脅かす者は少なくとももうこの船にはいないの、その脅威を排除したのは他でもない!」
『超絶美少女ハンターアッシュ様です!!』
「つまりアタシはアンタたちにとって救世主!神!ゴッド!女の子だから女神ねビーナス!もしアタシがハンターを志していなかったらアンタたちは今頃砂漠のミイラになって、アタシのひひひひひひひひ孫に発見されたかもしれないわね!」
『ありがとうございます!ありがとうございます!』
「さあ!称えなさい敬いなさい奉りなさい!祠を立てて末代まで語り続けるのよアッシュという超絶美少女ハンターの名を!アンタたちのちっぽけな命に救いの手を差し伸べたアッシュ様の美貌と融資を!永遠に!」
『イエス!アッシュ様!イエス!アッシュ様!イエス!アッシュ様!!』
「これで違法ハンターたちの歴史にアタシの名が刻まれるのは間違いないわね!全世界にアタシの名と美貌を知らしめる目標にまた一歩近づいたわ!」
クッション部分がはげた椅子の上に仁王立ちしたアッシュが、生き残った違法ハンターたちにこれでもかと祭り上げられており、ナルシストで自意識過剰で己に対して絶対の自信を持っている彼女の自尊心をこれでもかと満たしているのでした。
この「超絶美少女ハンターアッシュ様を敬う集会」は3時間程同じテンションのまま続き、彼女と同じくロックオンを解いたグレイはその間、部屋の隅っこで大人しく三角座り。目を輝かせて集会を眺めながら、終わるのを待っているのでした。
「こんなにアッシュを尊敬している人がいるなんて知らなかったよ。すごいなー」
『・・・一種の宗教の誕生を見たぜ・・・』
モデルAの声は震えていました。
前回のあらすじ
苦労に苦労を重ねて違法ハンターの飛空艇に足を踏み入れたアッシュとグレイ。そこで彼らはイレギュラーたちに襲われ、命を狙われていた!
正義感の強い2人のお陰でイレギュラーを殲滅できたのはいいものの、いやに人望の薄いリーダーが奥に閉じこもってしまっているので助けに行くと、ライブメタルモデルFの適合者、アトラスとまさかの遭遇。
どこかマイペースな彼女との激戦の後、見事な連係プレーで勝利をもぎとった2人はしっかりリーダーを救出。結果、違法ハンターたちに祀り上げられるのでした・・・。
あっ、列車の修理のために違法ハンターた1人ハンターキャンプに向かったよ!
ハンターキャンプ。ステーションにて。
違法ハンターたちに散々祀り上げ称えられたアッシュはいつにも増して上機嫌。鼻歌交じりに久しぶりにこの場所を訪れていました。もちろんグレイもいます。
ちなみに、彼女の勇姿に惚れた彼らはこれからはまっとうなハンターとして活動していくそうですよ。
「よーやくレギオンズ本部に行けるわねーここまで来るのに何か月かかったことやら」
「なんかげつ?何日じゃないの?」
アッシュの発言の真意はともかく、モデルAと出会った思い出の列車と久しぶりにご対面。イレギュラーの襲撃で見る影も無くボロボロになっていた列車は、アッシュの信者と化した違法ハンターたちの手により新品同様の輝きを放っていました。整備士が真っ青になっています。
「あっ!アッシュの姐さんにグレイの兄貴!見てくださいよこの列車!俺たちが修理するついでにピッカピカに磨いたんですぜ!」
列車の前には一人の違法ハンターがおり、2人の姿を見るなり意気揚々としながらこちらに向かってきました。
あの頃のボロボロだった車体はどこへやら、ふとアッシュが荷台部分に指置いて一直線に線を引いてみるも、チリ1つありません。
「いい仕事してるわねアンタたちも。この超絶美少女アッシュ様を乗せるんだからこれぐらいしないとね!」
「そこまで言ってくれると磨いた甲斐があったってもんですよ!でもステーションの奴ら酷ぇんですぜ?姐さん専用の豪華車両作ろうとしたのに全力で阻止しやがるんですよ。まっとうなハンターになるって腹くくった身ですから大人しく従いましたけど」
「えー残念・・・猫足バスタブとか付けてもらおうかと思ってたのに」
『・・・・・・』
「いいなー」と純粋な瞳を向けているグレイと違い、色々とツッコみたくてたまらなくなったモデルAでしたが、一般人にライブメタルの声は聞こえないため大人しく黙っておくのでした。
列車に揺られて一時間もしない内にレギオンズ本部のステーションに着きました。
世界の中心街と言っても過言ではない大都会、警備のロボットやキャノンが絶えずにらみを利かせており、どういう訳だかアッシュやグレイに向かって銃弾を撃ってくるので。
「邪魔ねー他にももっと狙う物があるでしょ?可愛いあの子のハートとか」
すぐさまロックオンし、軽口を叩くアッシュに全て潰されてしまったのでした。総額いくらになるのか誰も考えたくありません。
天井からぶら下がるシャンデリアと、床には移動に便利なベルトコンベアが敷いており、2人はそこをのんびりと、警備のメカニロイドを潰しながら進んでいます。
「それにしても・・・モデルAと一緒に戦うのも今日で終わりなのね、三賢人に引き渡さないといけないんだから」
「あ・・・そっか・・・」
お忘れかもしれませんが、アッシュはライブメタルモデルAをレギオンズ本部に届けるというミッションをこなしている真っ最中です。グレイはそのお手伝い。ロックマンになってフォルスロイド等を撃退していた日々も、もうすぐ終焉を迎えます。
『そういえばそうだなー。長いようで短い日々だったぜ、お前たちと一緒にいたのは』
「どう?記念に“超絶美少女ハンターアッシュちゃんを崇め奉る会”に入らない?今なら歓迎してあげるわよ?」
『それは遠慮しておく』
こんな風に、アッシュの自意識の高い台詞にツッコミを入れたり、どこか危なっかしいグレイに助言したり。そんな人生で一番忙しい日々ももうすぐ終わるのです。
まあ、目覚めて、間もないけど。
「ほら!グレイもずっとしょげてないで元気を出しなさい!モデルAを三賢人に引き渡した後はアンタの記憶探しっていう重要ミッションがあるんだから!」
「ええっ?僕の記憶?探してくれるの?」
「当然でしょー?子犬を拾ったからには最後までキッチリ世話をするのが飼い主の務めってものよ!アタシの仲間たちもきっと協力してくれるハズだから、案外すぐ見つかるかもしれないわね」
「アッシュ・・・」
犬扱いした所がちょっと引っかかったモデルAでしたが、感動のあまり目を潤ませるグレイを見て、忠告してやるのも可哀想だと思ってやめておきました。
「超絶美少女ハンターアッシュちゃんに不可能はないんだから、任せておいて・・・」
と、ステーションからレギオンズ本部の中心部に向かう扉を開いた刹那。爆発音が数回、連続して聞こえてきました。
『・・・・・・』
絶句してしまった一行が見た光景は、それはそれは綺麗に整備された街・・・だった場所。電光掲示板らしきボードの画面は見事に壊され、石畳は所々が剥げ、向こうのビルの群れからは黒い煙がいくつも昇っています。
そして、そう遠くない場所に見えるガレオンの集団。
「これは・・・まさか・・・」
顔を引きつらせたアッシュが、考えられる中で一番最悪な可能性を脳内で構築してしまい、言葉にするのを躊躇っていると
『見事に破壊されてるなぁ・・・イレギュラーに先を越されたか?』
「だから警備ロボットが僕たちを攻撃してきたのかなぁ」
「あ―――――――――――――!なんで結局こうなるのよ――――――――――も――――――――――!」
絶叫しても始まりません。バスターをしっかり握りしめたアッシュは、その銃口をガレオンの群れに向けました。
「こうなったら強行突破よ!三賢人がイレギュラーにやられる前にアタシたちがイレギュラーをやるわ!」
「おー!」