過去拍手置き場

□8話 元軍人とハンターの彼女は似ている
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違法ハンターの飛空艇の指令室。元々小奇麗にしていたのかそうじゃなかったのか分からない程度にボロボロにされていて、操縦席の窓は全て割れて破片が散らばり、壁にはひびが入ったりガレキが落ちていたりと散々な有り様と化していました。

そんなどこかで見た事のある構造の指令室に入ったアッシュとグレイが最初に見たのは、ある人物の後ろ姿でした。

「グレイ止まって」

「なんで?」

アッシュに制されグレイは首を傾げつつもその場で止まり、彼女が睨んでいる先に見えたのは、オレンジ色の服に茶髪の女性・・・前々回湖で魚釣りをしていた適合者、アトラスの姿です。

「何でアトラスがこんな所に?」

「違法ハンターたちが言ってたとんでもない奴ってアトラスの事だったのよ・・・アタシたちと同じロックマンなんだから頷けるわ」

イレギュラーだけでも十分人類の脅威なのに、それよりも強いロックマンが人々に牙を向けているとしたら、違法ハンターたちに「とんでもない奴」と呼ばれ、恐れられても納得がいきます。

まずは様子を見ようと物陰に隠れていると。

「違法ハンター共め、こんな所に逃げ道を隠していたのか・・・」

アトラスの足もとにあるのは巨大な縦穴、人ひとりどころか大型イレギュラー一体が入れるほどの巨大な穴が指令室の床にポッカリと開いていたのです。逃げ道にしてはでかすぎない・・・?とアッシュがぽつり。

しかもアトラスをよく見ると、右手にあんぱん左手に紙パックの牛乳を持ち、それらをもっさもっさと食いながら穴を恨めしそうに睨んでいるではありませんか。

『・・・・・・』

何やってんだこいつ。

「あんぱんと牛乳でアタシの機嫌でも取ろうとしたようだが無駄な足掻きだだったな。あんぱんじゃなくてジャムパンだったらちょっとは考えていたかもしれないが・・・残念だ。選択を誤ったな」

ああ・・・ジャムパン・・・好きなんだ・・・。

あんぱんを一口かじり、牛乳を飲んでそれを流し込むと

「お前たちはモデルVの生贄になってもらう、1人残らずな!」

と、原作通りの台詞を原作通りじゃないシチュエーションで豪語した後、穴の中へと吸い込まれるように降りていきました。あんぱん食いながら。

物陰から出てきたアッシュとグレイは、アトラスが落ちて行った穴を見てからお互い顔を見合わせると

「・・・どうしよっか」

「行くしかないわね・・・あんまり関わりたくないけど」

渋々降りていきました。




「アトラス!また会ったわね!」

穴の先に待っていたのはいやに広い空間です。グレイの足元に落ちているプラカードには「訓練部屋」と書かれているためここは違法ハンターたち専用の訓練施設なのでしょう。

奥の扉の前に立っていたアトラスは、アッシュの声を耳に入れるなり振り返りまたあんぱんをかじりました。

「生きていたか、ロックマンモデルA・・・まさかい」

そこまで言ったその瞬間、アトラスの顔がサッと青ざめます。

えっ、今度は何?とアッシュとグレイがやや警戒の色を強くした途端、アトラスはその場に崩れ落ちて

「ゲホッゲホッ・・・の、喉に詰まった・・・!」

咳込みながら胸をドンドン叩きます。慌てて牛乳を飲もうとするも手が滑ってこぼしてしまい、己の窮地を悟ります。

「あああ!」

「・・・だ、大丈夫?」

「お水飲む?」

お人よしなのか同情したのか・・・アッシュはゆっくり彼女の背中をさすってやり、グレイは非常用のお水をちょっとだけアトラスに分けてやり窮地を救うのでした。



モデルAがやや呆れる中、アトラスはアンパンで窒息死するという不名誉な死を遂げる事はなく、無事に胃まで流し込めた所で

「礼は言わないからな」

「分かってるよ」

「どーぞ続けなさい」

定位置に戻って話を続けます。

「まさか違法ハンターを助けに来たとでもいうのか?お前の仲間でもないのに」

とんだお人よしだ・・・と呆れるようにアトラスは続けますが、そのお人よしに助けられたのはどこのどいつなんでしょうね。

「ヒーローは遅れてやってくるって言うでしょ?まあアタシはヒーローっていうより絶世の美少女ハンターだけどね!」

「僕のように何も知らない人が増えていくのは見過ごせないもん!」

「何も知らないんじゃない、お前たちが知ろうとしないだけだ」

「じゃあ知ろうとしたら教えてくれるのね?はい教えて正座して大人しく聞くから!」

煽っていません、素です。珍しくちゃんと聞こうとしているのでその場にグレイと一緒に正座して話を聞く姿勢に入りますが。

「教えてと言われて素直に教える敵キャラがいるか!」

「ほらそう言う!だからアタシたち一般人はアンタたちのおもしろおかしい意味不明な野望について行けないのよ!」

『おもしろおかしくはないだろ!?』

モデルAのツッコミなど知らず、渋々立ち上がったアッシュ「これだから口ばっかの奴は・・・」と文句をぼやいていますが、以外にもしっくりきますね。有言実行はしてますもの。

首を傾げながらグレイも一緒に立ち上がると、アトラスは何食わぬ顔で続けます。

「世界の歴史は戦いの歴史、人々は戦いの中にあってここまで進化してこれた・・・今、世界はこれから決まるロックマンの王によって新たに進化しようとしている。何も知らずに死ぬ者は進化についてこれなかった・・・ただそれだけの話だ」

「初登場時に堂々と釣りをしてた奴の口から出てくるとは思えないぐらい真面目な台詞だけど、それがアンタが戦ってる理由なのね」

「僕も進化について行きたいからやっぱり教えてほしいなー」

グレイが両手を挙げて懇願しても無視されました。

『だったらモデルVのエサにしちまえってか!随分と野蛮な進化だな!』

「自分の力の意味も知らないお前たちに何が分かる!」

「分からないから教えてって言ってるのにね?」

「ねー」

「だよなー」

お前が納得するんかい!!というモデルAの絶叫はロックマン3名にしか届きませんでしたが、きっと蜃気楼の向こうのレギオンズ本部にまで届いていたことでしょう。
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