ナナドラ小説

□沢美家の日常
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世界がドラゴンによって脅かされ、人間は細々と生活してきた事は記憶に新しいでしょう。

人類の生存は絶望的だと思われた中、彼らの希望の光となったのはムラクモ部隊13班の沢美兄妹と、居候。

奪還した東京都庁を拠点にし、彼らには部屋が与えられました。

そこまでは良かったのですが・・・ここで思いも寄らない問題が発生。

「どうして五人なのにベッドが三つしかないんだ」

13班の部屋に案内された沢美家(+居候)一行。最初に声を上げたのはアイでした。

「設計ミス?それともわざと?」

マルはベッドの数を何度も数えながら考えられる可能性を述べました。何度も数えても、三つという数に変わりはありません。

「いや、後者はないだろ。普通」

妹のボケあるいは素からくる台詞にあきれながらコウは冷静に訂正を加え

「何か手違いでもあったんじゃねーの?」

「私もそう思うよ?」

レイスとユウが最後に述べました。

ベッドの数と人数が合わない予想外の事態。当然全員不満です。特にレイスが

「どうすんだよベッド三つで、二人が床で寝るハメになるじゃねーか」

他にも二人が同じベッドに寝るという選択肢がありますが、誰も挙げようとはしません。ベッド狭いし

思ったことをがすぐに口に出るタチのマルは「だったら二人で寝ればいいんじゃない!?」なんて意見を述べようと手を挙げて、口を開いた瞬間アイに口を塞がれて発言を防がれてしまいました。

「むごごっ?!(何で!?)」

「ソファーもないし、弱ったな」

「じゃあお兄ちゃんが床で寝るしかないね」

さりげなく言ったユウの提案。もちろん次に出るコウの言葉は計算済みです。

思わぬ指名に一瞬驚くコウですが、すぐに腕を組んで考え始めると

「可愛いユウのためなら床で寝る事も苦痛じゃないし・・・別にいいよ!」

ここは愛しの妹がベッドでぐっすり眠って万全の体制を整えるためにも、寝心地最低の床で眠るべきだ!兄として!

「嫌がれ。そして否定しろ」

レイスの鋭いツッコミが飛ぶものの「何で否定しないといけないんだ!」と反論されました。面倒なので無視して会話続行停止。

ここでマルがどうしても言いたい事がある!と言わんばかりに、小学一年生の子供のように元気よく手を挙げています。

そこまで言いたい事があるのなら仕方がない。アイがマルの口を塞いでいた手を離すと

「ナツメさんにベッド二つ欲しいってお願いしたらどうかな!?」

「資材不足のこのご時世にそんな贅沢な事言えると思うか?」

アイの鋭い指摘に全く反論できず、マルは一言も言い返さずに頭を下げてしょんぼり。

こんな極限状態の中ですから資材も、食料もそこまでありません。そんな中贅沢なんて言えません。

「うう・・・言われてみれば確かに・・・」

「だが困った・・・このままだとアイツとレイスが床で寝る事になり、翌朝に背中か腰を痛めてしまえば戦闘に支障が生じる・・・」

「おい、コウが床で寝るのは決定事項なのは納得するが、俺まで床で寝かせるつもりなのかテメー」

レイスがアイを睨み、アイがレイスを睨み返したためこの場に若干の緊張感が生まれます。「決定!?俺雑魚寝決定なの!?」と驚くコウの叫びを無視して。

適当すぎる扱いにコウが心の中でこっそり涙を流していると・・・ユウが唐突に手を挙げました。

「だったら私たちでベッドを探せばいいんじゃない?」

「だが、ベッドなんてどこにある」

レイスを睨みながらアイは尋ねると、ユウは緊張感をぶち壊すほどの元気な声で答えてくれました。

「渋谷!」



ドラゴンの影響でジャングルと化した渋谷は、まさに緑色の都会と化していました。

元々大都会の渋谷ならベッドぐらい見つかるだろうというユウの意見で、13班はモンスター討伐兼ベッド探しに赴いています。

「しっぶやーしっぶやー♪」

実は渋谷に始めてくるマル、テンション高めです。

「全く・・・よくこんな時に浮かれるもんだ」

「それがマルお姉ちゃんの良い所なんだよ。アイお姉ちゃん」

「否定はしないが・・・」

ただ単に事態を深く考えない馬鹿なんじゃないのか?とは言わないでおいたアイ。

マルを先頭に進む一行。その中レイスは一番後ろを歩いていますが、どこか神妙な顔つきです。

それを不思議に思ったコウが振り返りざまに尋ねました。

「さっきからどうした?すごく険しい顔つきになってるけど」

「いや、何でも・・・」

口ではそう誤魔化していますが、内心ではユウの提案に疑問を抱いていました。

「(あのユウがただベッドのために帝竜が治める渋谷に行きたいだなんて言わねえだろ。アイツは根っからの腹黒かつ策士だろ?ぜってー何かある。何か企んでる・・・)」

居候がそこまで悟っているというのに、兄や姉は全く気付いていません。悟ってもいない様子。

「それにしてもユウ、どうしてベッドが渋谷にあると思ったんだ?」

「渋谷って都会でしょ?モンスターや竜に荒らされちゃったとは言っても都会は都会だし、ベッドぐらい残っているんじゃないかなーって思って」

「さすがユウ!賢いなぁ!」

自分より何倍も賢い事は前から知っているけど、褒めてやりたい衝動にかけられたコウはえらいえらいとユウの頭を撫でてやります。

撫でられている本人は嬉しそうな表情をしているものの、心の中では「鬱陶しいなぁ・・・」とぼやいています。口に出すと兄が使えない者になるので言う事はありませんが。

とにかく、兄妹全員ユウが何か企んでいるのではないかと悟っている様子は皆無。警戒心の「け」もありませんでした。

「(気づけよ!もしくは悟れ!十四年も付き合ってるなら何となく解るだろ!?何なんだ!?前々から思ってたけどユウは十四年も家族に対してネコ被ってたって言うのかよ?!)」

そうみたいです。

どうして居候が真の姿に気付いて、家族が気付かないの不思議でなりません。兄弟がいない彼にとって、わかるようでわからない問題が目の前にありました。

「おーい!何かあるぞー!」

いつの間にか一行からかなり離れた場所にいたマルが、木の根の間を覗きながら声を上げました。

「そこまで叫ばなくても聞こえているぞ。で?何が見えるんだ?」

「自動ドア」

複雑に絡み合う木の根を除けながらマルは答えました。

マルが取り除いた木の根の間からは、確かに自動ドアらしき物体が見えます。

「ホントにドアだ。中に入れるの?」

可愛く首を傾げてマルに尋ねるユウ。猫かぶり絶好調です。

「わかんない!根っこいっぱいあって難しい!」

馬鹿力を使い両手で根っこを引きちぎりました。それでもドアまでの距離は長そうです。

「待っていたら日が沈むな・・・どいてろマル、俺が全部燃やす」

ここぞとばかりに頼れるお兄ちゃんだと示すために、コウは前に出て提案。

自分がやり遂げようと思っていた仕事を邪魔された気分になったマルは口をとがらせますが、隣でアイが睨んでいるためしぶしぶそこから離れます。

コウのフレイムで根っこは全て燃やされ、他の建物や木々に引火しかけていた火をフリーズで鎮火させ・・・根っこの排除完了。

押しても引いても開かなかった自動ドアをマルがぶっ飛ばし、五人は建物の中へ足を踏み入れるのでした・・・。
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