ディスガイア小説
□隊長と部下、修羅場編
3ページ/9ページ
5分もしない内に倉庫は灰と燃えカスと石材が熱を持った熱さと焦げ臭さしか残らない状態になりました。つまり全て燃えた。
ショックのあまり声も出ないベルを差し置き、マリィは火炎放射器をどこぞかへとしまうと
「これで何もかも片付いたよお兄ちゃん!お目当ての資料は燃えないように計算したから!」
よく見ると灰に埋もれて無傷の書物や紙がちらほら見えます。何をどう計算すれば炎の中を無傷で生還できるのかさっぱりですが、マリィの「お兄ちゃんのためなら何でもできるパワー」があれば容易いそうです。意味不明ですが
「さすがマリィ、僕のために火炎放射機まで使ってくれるなんて!今夜はお祝いだね!」
「うん!」
ここで叱らず妹の頭を撫でる兄も兄でおかしいってものです。
「オイコラ」
蛇足ですが部下二人の責任は全て隊長に押し付けられたそうです。酷い話。
そのA廊下にて
アニューゼは廊下の真ん中にぼんやり立っていました。手には良質そうな紙を持って
「・・・」
「あれー?アニューゼさん、どうかしたんですかー?」
後ろから響く明るく純粋無垢そうな声、アニューゼは振り返らず立ったまま声の主が視界に現れるのを待つだけ。
声の主はあっという間にアニューゼの前に立ち、首を傾けています。言うまでも無くマリィです。
「ん・・・」
あまり多くは語らずマリィのその向こうを指すだけなので、とりあえず振り返った先にいたのは言い争いをするベル隊長と彼女の上司。前の天使長
「隊長と天使長様・・・ありゃありゃいつもにも増してすごい喧嘩ですねぇ」
「隊長に・・・昨日の魔界遠征の報告書をチェックしてもらいたかったんだが・・・この様子じゃいつ終わるか・・・」
魔界遠征とは、天使に危害を加えた悪魔に直接制裁を加える悪魔討伐隊本来のお仕事。昔は有無を言わさず葬るだけだったようですがベルが隊長に就いてからは、適当に痛めつけて反省させるという方針に変わったそうです。反省しなかったら葬りますが
「昨日葬ったセコイ大男の事ですね!ちゃんと私の活躍書いてくれました?」
「ん・・・口の中に手榴弾入れたエグイ手から何まで・・・嘘偽り無く書いた・・・」
アニューゼも真面目な天使です。例え一般天使が卒倒しそうなエグイ話でも真顔で書きます。そして引かれ、疑われますが全てノンフィクションです。
「それならよかったです。でも隊長があれじゃあいつまで経っても報告書出せませんね・・・むむう、隊長ともあろうお方が職務怠慢とはいたがけない」
職務怠慢と言うよりはただの口喧嘩です。他の天使が呆れ顔を浮かべているのも気にせず口論はエスカレートする一方、すでに罵倒合戦に切り替わっていました。
「終わりそうもない・・・」
「このままじゃ隊長が給料泥棒になってしまいます!ここは一つ、隊長だけじゃなくてアニューゼさんのためもマリィちゃんがひと肌脱いじゃいましょう!」
「ん?」
一瞬嫌な予感が過るアニューゼですが、俊敏な対応などできるハズもなく。
マリィがスカートの下から取り出したのは手榴弾でした。ピンを抜いて投げれば爆発する天界では生産してそうもないえげつない武器。人間界から大量輸入しているという噂。
何かを察したアニューゼが止める前に、マリィは笑顔でピンを抜いてベルと天使長に向けて手榴弾を投げました。投げてしまいました。
宙に浮いた手榴弾は弧を描いて飛んでいき・・・ベルと天使長の間の床にぶつかってワンバウンドした瞬間・・・どごん、と爆発。
「・・・」
アニューゼ、唖然。隣のマリィは耳を塞いで轟音対策を取っていました。
平和な大天使の宮殿に突如響いた爆発音、他の天使兵たちが騒ぎだし慌てふためき始めている中、爆心地は大きな炎が上がっています。
魔法が使える天使たちが氷の魔法で消火作業を始めていますが気にも留めず、マリィはアニューゼに笑顔を向け
「はい、醜い喧嘩は止まりましたよアニューゼさん、後はご自由にどうぞ」
「どう・・・も・・・?」
わざわざ手榴弾まで使ってベルと天使長の口論を止めてくれたマリィに感謝すべきなのか、それとも大騒ぎを起してしまったマリィを叱るべきなのか、でもマリィが行動してくれなかったらいつまで経っても立ち尽くしたままだっただろうしやっぱりお礼を言った方がいいのか・・・
『よくない!!』
ベルと天使長の絶叫が悩んでいたアニューゼの目を覚ましたのでした。
回想終わり
「目的のためならいかなる破壊や策略をいとわない腹黒娘・・・」
「・・・スカートから獲物が出てくるのはロマンだって言ってました・・・」
マリィの言動の一番の被害者は頭を抱え、そこまで被害を受けていない天使は彼女のロマンをぽつりとぼやきました。
「加えてブラコン」
「加えて潔癖・・・」
討伐隊事務所内がいつもモデルルーム並みにピカピカなのはコーリーとマリィが全身全霊をかけて掃除してくれているからです。双子揃って潔癖なので。