ディスガイア小説
□冬の日
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「どうしよう!早くなんとかしないとフィアが・・・!」
「レシアも落ち着け!そして泣くな!とりあえず炎の魔法が使える奴に頼んで雪を溶かしてだな・・・」
涙目でパニックになっているレシアも落ち着かせようと説得するものの、ルファと全く同じ心情のレシアがそう簡単に冷静さを取り戻す事は不可能。ハッキリ言うと説得するだけ無駄でした。
「あーもう!お前ら一秒でもいいから落ち着いてアタシの言う通りに動け!」
「二人が俺みたいに冷静さを常にキープできるぐらい肝が据わってたらいいのになー」
「お前は肝が据わりすぎて肝から毛じゃなくて根っこ生やして大地から養分吸ってるんだよ!」
動揺という感情が元から備わってないと思わせるぐらい冷静なレトンにキツイ一喝をあびせ、ルファを落ち着かせるためにはどうすればいいのか、やはりここはアクターレネタでも振るしかないのか、普段は全く使っていない頭を全力で使っていると
「どうかしましたか?」
視界の外から、大人しそうだけどどこか冷たい印象を覚える声が聞こえ、その発し主はテントが潰れた事に気づいていないのか、ひどく冷静でした。
ルファをなだめる事で精一杯のユスティルはその人物と目を合わせず、短く状況を説明します。
「テントが雪で潰れたんだ!」
「・・・・・・あ」
テントの悲劇に気づいた人物は、動揺の色を見せない薄い反応を見せました。
真っ先にカチンときたのはレシアです。悪魔のくせに友達想いな彼女はその人物を睨むと
「何その薄い反応!フィアが死んじゃうかもしれないの・・・に・・・」
そこで気づきます。
突然現れて、テントが潰れた事に薄い反応をしめしたその人物は、両腕で分厚い本を抱えているフィア本人だったという事に・・・。
「フィア!?どうしてここにいるの!?・・・はっ!まさかゆーれいとか・・・」
「そんな訳ありません」
あっさり否定したフィア。彼女の存在に気づいたルファはようやく落ち着きを取り戻し、ユスティルは安堵の息を吐きました。
「ほっ・・・」
「フィアどうしたの!?何でこんな所にいるの?!」
「・・・昨日は天界に用事があったので一時帰省して用事を済ませたのですが、夜遅くまでかかってしまったので向こうに泊まっていました。それでつい先ほど戻ってきたばかりです」
「なんだ・・・そうだったの・・・」
ルファがホッと一息つくと「それから・・・」とフィアは続けます。
「出かける前にしつこく聞いてきたこの男はそれを知っているハズですが、聞いていなかったのですか?」
フィアが視線をレシアからレトンに移すのと同時に、一同の視線が一斉にレトンへと注がれます。
一瞬で注目の的になったレトンは自分の立場が危うくなった事を瞬時に悟りますが、それでも笑顔を絶やすことなく
「じゃ、そーゆー事で!」
なんて言い残して覆面ヒーローもびっくりするほどの速度で逃げ出しました。
「待てやゴラァ!」
ユスティルが自分もルファも巻き込んだシャレにならない冗談をあっさり許す訳がなく・・・それと同じスピードでレトンを追いかけはじめ、あっという間に見えなくなりました・・・。
再び食堂。
あの騒動から十分ほど経った時には、長テーブルの席に着いたレシアたち三人の姿がありました。
朝食をとるのをすっかり忘れていたルファは少し遅めの朝食をとり、その向かいの席にいるフィアはずっと黙ったまま分厚い本を読んでいます。
そしてフィアの隣にいるレシアはというと、仕事をすっぽかしたせいで上司にこっぴどく叱られてしまい、テーブルの上に伏せて落ち込んでいました。
「レトンの嘘に騙された私たちの責任もあるけど・・・あそこまで言わなくてもいいと思うなぁ・・・」
「ま・・・まあ元気出して・・・ねっ?フィアもあさっての方向睨まないでさぁ・・・」
レシアの敵は私の敵。普段からレシア本人がいない所で公言しているフィアは、視線の先に存在しているであろう上司を睨んでいます。透視能力でも使えるのでしょうか。
しかし視界の端に落ち込むレシアの姿が映ると、自分が今やるべき事は目の敵を刺すような視線を送る事ではないと気づき、目に見えない相手を睨む行為をやめました。
そして本を閉じて表紙を上にしてテーブルの上に置くと、ルファとレシアに向かって頭を下げ
「申し訳ありません。あらかじめ申告していればあの馬鹿の口車に乗せられる事も、レシアが上司に叱られる事もなかったというのに・・・」
「フィアが謝る事ないよ。悪いのは私たちを騙したレトンなんだから」
だから何にも気にしなくていいよ。最後にそう付け足したルファの笑顔から出たこの言葉に偽りなどなく、悪魔なのに優しすぎる彼女らしい言葉でした。