ディスガイア小説

□アイテム界の幽霊船ツアー
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エミーゼルが絶叫する中、騒ぎを少し離れた場所で観戦していたトトコは、足元で倒れているユスティルに気を使わずに思わず一言。

「・・・アイツ、頭超イッってんじゃないの?」

そんなこと、言わないであげて





船の揺れが治まったのは、船からステージが見えなくなった頃でした。

船上で倒れていた一同は揺れがなくなるのと同時にゆっくりと起き上がります。

「ふぅ・・・やっと揺れが治まったわね・・・。ってぇ!あれ!?陸地は?!」

頭をぶつけたのか後頭部をさすりながらフーカは起き上がり、まだ状況を全て把握できてないのか驚きの声を上げます。当たり前ですが、彼女の手には船の舵はありません。

パンパンと服に付いたほこりと汚れを払い、ヴァルバトーゼはたわけたことを言う中学生に言います。

「何を言っている。この船はひとりでに、勝手に動き出したのだぞ」

「えええ!?何で?この船動かないんじゃなかったの!?」

「そんなこと、俺が聞きたい」

全くどうしてくれようか・・・。アイテム全般はいつもフェンリッヒに管理させているからデールは使えないとして、この船の目的地なんてわからない・・・それ以前にこの船、他のステージに行き着くのか・・・?

若干どころかかなりピンチな状況に陥ってしまったわけですが、ヴァルバトーゼはいたって冷静にこれからどうしよかと考え、フーカは頭を抱えてどうしよどうしよ!とパニックになっています。すると

「ヴァルバトーゼさーん、フーカ、無事かしらー?」

「あっ!イレーナちゃん!」

船の柵に捕まっていて無事だったイレーナが状況に似合わない随分のんびりとした様子で、お互い真逆のリアクションをとっている二人に近づいてきました。

「イレーナ、無事だったか」

「当たり前。私がこんな船の揺れごときにやられるわけないじゃない。あそこの乙女二人は別として」

見た目は美少女、でも実際は齢九千以上の老婆が指す「乙女二人」とは紛れもなくレシアとルファのこと。彼女達は今起こったことに対して恐怖を覚え床にぺたりと座り込んだ状態で、お互いの手をがっしりつかみながらガタガタと震えていました。

「どうしよう・・・私たち帰れなくなっちゃうよ・・・ユスティル・・・」

「だ、大丈夫だよ・・・こんな乗組員が一人もいない無人の界賊船が勝手に動きだしたぐらいで・・・」

「それ逆に怖がらせてるよレシアぁ!」

これぐらいのリアクションがむしろ普通だというもの。しかし恐怖などという感情を持ち合わせていない元暴君様は、異常すぎるほど怖がる二人を見て

「少し怖がりすぎではないのか?たかが無人の船が勝手に動き出しただけだろう」

「そうそう、たかが無人の船が勝手に動きだしたぐらいでそこまで怖がる必要はないわよ」

さらにイレーナまで余計な相槌を打ち、ヴァルバトーゼは「うむ!そうだろう!」とどこか誇らしげに頷き返事をしました。

ツッコミ率0%の会話に、思わず言葉を入れたのはボケ担当のフーカでした。

「たかが無人の船が勝手に動き出してるから怖いのよ!乙女のか弱い心ナメんな!」

「あら?私は実年齢9800歳だけど心は純粋可憐な乙女よ?心まで老体化したとは言わせないわ」

「そこまでは言わないけど、アタシはただアンタのその常人では考えられない度胸にツッコんでるのよ!・・・・・・・・・ってあれ?」

何かに気付いたフーカはさっきまでの勢いを殺して、目をぱちぱちと閉じたり開いたりさせると

「そういえば・・・レトンは?」

船体のどこにも自由人であることに定評のあるガンナーの姿はなく、船内へと繋がる唯一の扉がキイキイと音を立てて開いていました。





冷静に考えてみれば、自由な行動ばかりを取る彼が無人なのに動き出す船に関心を持たないわけがありません。きっと船が動き出した直後に船内へと浸入して、探索を行ったに決まっています。

「むう、思った以上に暗い道だな」

先頭を歩くヴァルバトーゼは何の恐怖も感じてないのか、平然とした様子で言い

「そうね、より不気味さが出てるって感じ」

彼の隣を歩けることをとても嬉しく思っているのか、恐怖心の欠片もない様子のイレーナは若干上機嫌に彼の言葉に相槌を打ちました。

「何でアンタたちはそんなに楽しそうなのよ・・・普通じゃないでしょ絶対・・・」

まるでオバケ屋敷の中を大爆笑しながら歩いている度胸のありすぎる人を見るような呆れる視線を向け、フーカはヴァルバトーゼのマントを掴みながらぼやきました。

その横では絶対に離れないようにと、始終一緒にいるレシアとルファがおり、ルファは「この状況をフェンリッヒ様に言ったら絶対にフーカたち殺されちゃうんだろうな・・・」と思っていました。

教育係の端くれの彼女が、無事に帰った後フェンリッヒに今回の事件についてあれやこれやと情徴収をされることが今回の一番の恐怖だったりそうじゃなかったり。

皆絶対に離れないようにと、あまり間を空けずに一メートル先は真っ暗な船内を歩いていきました。

足元が見えるか見えないかわからないほど暗いというのに、ヴァルバトーゼは歩きなれた道のような足取りですいすい進みます。力を失ったとはいえ彼は吸血鬼なので、夜の暗闇なんて慣れっこなのです。
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