ディスガイア小説
□恐怖!女体風邪!
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「タユマ君、今日も休みだね」
木枯らしが吹くようになってきた今日この頃、机の上に頬杖をつくトルネアはつまらなそうに呟きました。
「そーアルな」
彼女の呟きに答えたのは、隣の席にいるあやめです。「年刊・悪魔とクッキング」というタイトルの雑誌を眺める彼女は、特に変わった様子もなく、あっさりと返事をしました。
「ちょっとあやめ。そんなあっさりとした返事を返すことないでしょ?これは大変重大で、深刻な事態なのよ?」
「それは多分、てか確実にトルネだけアル」
「そんなことはないわ!サボっている生屠に問答無用で、容赦なく制裁を下しているタユマ君が休んでもう一週間よ!?こんなのおかしい!絶対おかしい!きっと何かの前触れよ!」
「トルネ・・・」
雑誌を閉じ、熱弁を繰り出すトルネアを大変呆れた視線で見つめるあやめの目に、彼女は一体どのように映っていたのでしょうか。
その時、突然彼女は背後から抱きしめられ
「おやおや、どうやらタユマがいなくて気が立っているみたいだね」
出落ち担当ソネリーが優しい言葉をかけてきました。トルネアの表情がいっきり重くなりました。
それに気づいているのかいないのかは知りませんが、ソネリーは続けます。
「だけど心配しなくていいんだよトルネア。このアタイが君のその木枯らしが吹く空っぽのハートを暖めてあげるから、あんな男のことなんて忘れて今日一日アタイの胸の中で・・・」
彼女の言葉はこれ以上続きませんでした。否、続けることができませんでした。トルネアに殴れられ、大きく吹っ飛ばされたからです。
殴り飛ばされた方向にはあやめがいましたが、彼女はとっさに身を机の上に伏せ、飛んで来るソネリーを回避。
「全く、危ないアル」
やれやれと呟きながらあやめは身を起こし、再び本を開いて内容を眺め始めました。
その瞬間、冷たい風を防ぐために閉められている凶室のドアが開き
「うー寒いなー・・・おは」
ニトが朝の挨拶を半分まで言いかけると、近くの廊下側の窓が、トルネアに吹っ飛ばされたソネリーの身によって粉砕。驚いたニトはその場で硬直してしまいました。
ソネリーは廊下側の窓を粉砕した後、そのまま廊下の窓も粉砕し、中庭方面へと消えていきました。本日の彼女の出番、これにて終了。
「何なに?何が起こったの?」
ニトと一緒に登校していたミンティーが、吹っ飛ばされたソネリーを眺めて不思議そうに尋ねましたが
「う・・・ううん。何もなさそうだよ?今日も魔界は平和だよ?」
正直、どんなリアクションをしていいのかわからなくなったニトは、曖昧な返事しかできませんでした。
「そっか、平和なら問題ないね!」
それだけで大いに納得する、それがミンティーです。
硬直するニトの横をすり抜け、彼女は笑顔を振りまき、朝の挨拶を言います。
「トルネア!あやめ!おはよう!」
「おう、ミンティーおはようアル」
「・・・・・・」
彼女の挨拶にあやめは笑顔で挨拶を返しますが、タユマがいない上、ソネリーにセクハラ上等なことをされたトルネアは、机の上に顔を伏せて黙っていました。
彼女が何故こんな様子なのか全くわからないミンティーはキョトンと首を傾げて、彼女の肩の上に手を置き
「トルネア?どうかしたの?お腹痛いの?」
心配そうに語りかけると、トルネアはゆっくりと顔を上げ、自分を心配してくれる、優しい天使を見て
「うん・・・大丈夫よ。ただちょっと疲れてるだけ」
人生のありとあらゆるものに疲れきった中年のような返事をしました。
すると、硬直から開放されたニトが何気ない足取りで、トルネアの席の後ろにある自分の席まで来て腰を下ろし
「いや、全然大丈夫そうじゃないよね?かなり疲れきってるっていうか、気力が無いような様子だよ?」
思っていたことを淡々と言い
「そんなにタユマのことが心配なら、お見舞いにでも行けばいいのに」
何気ない一言を呟くと、トルネアは突然椅子を蹴って立ち上がり叫びます。
「そうよ!お見舞いに行けばいいのよ!」
この瞬間、二トはある意味自分が墓穴を掘ったことに気づきますがもう手遅れです。
隣のあやめは何も言わずやれやれと首を振り、近くのミンティーはトルネアが元気になったと思ったのかよかったよかったとホッとした表情を作っております。
「何で私はこんな簡単なことに気づかなかったのかしら!しかも一週間も!」
さて、周囲の視線など気にしない彼女の熱弁が始まりましたよ。
「そうよ!きっとタユマ君が休みまくってることによるショックで基本知識が飛んでいってしまったのね!そうにきまってるわ!っと、熱弁してる場合じゃないわ!早く全速前進でタユマ君がいる学生寮(男子)へ行かなくっちゃね!」
「あーそう、行ってらっしゃい」
ヒラヒラと手を振り、二トはこれから男性寮へと向かうトルネアに力の無いエールを送りますが、彼女は音も無く振り返ると
「何言ってるの?皆で行くのよ」
「え」
何故彼女は個人的なことに人を巻き込むのか・・・ニトはその時激しく疑問に思ったそうです。