ルフ魔女小説

□牢獄と人形兵
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「ちなみに、その他のパーツはこちらになります」
「なんで俺に見せるの!」
視点を戻してその頃のマサーファ。ベッドの下には頭がい骨以外の骨があったらしく、次々と引っ張り出してきてはベイランに見せつけます。
「骨の形は男女で違ってくるので性別ぐらいは判別できると思いますが、いかがでしょう?」
「やめてください!」
すかさずミーアが言いますがベイランはそれも拒否。自分をいじってくるマサーファに加勢したのか気を遣っただけなのかは不明です。
彼ら足元では、ベッド下から出て来た大小様々な形の骨がニケロの手により床の上に並べられ、少しずつですが人の形になってきました。
「パズルみたいで楽しいね〜」
「のー」
ポメが両手に抱える程の大きさの骨を持ってきたので礼を言って受け取り、
「これは大腿骨かな〜?足だね〜」
あまり迷わず太もも辺りの場所に置きました。
「すごいすごーい!なんでこんなにスラスラーって骨の種類と位置が分かるの!?」
骨を1つずつ置いていく度にナノコの口から歓声が上がり、羨望の眼差しも向けられます。ニケロはそれに気をよくしたのか、自分からでは滅多に喋らないようなことも口にしてしまうわけで、
「実家が医療関係のお仕事してたから人体の勉強をしてたってだけだよ〜」
「ぺふぁえ!」
ポメ、今度は小さな骨をいっぱい持ってきました。その青色の瞳はナノコと同じぐらいキラキラ輝いています。何をしているか理解はできていないけどすごいということだけは分かるのでしょうか。
「ご遺体で遊ぶなんて不謹慎ですよ!」
盛り上がる3人をよそに真面目なサモは厳しく注意するも、ニケロはいつもと変わらぬ口調で、
「遊んでるわけじゃないよ〜バラバラだったパーツをきちんと整理して綺麗な形に戻すだけだよ〜この人だって体のパーツがちゃんとした位置にあった方がちょっとは安心出来るでしょ〜?それともさもさもはこの可哀想な亡骸を雑な形で放置しておくつもりかな〜?」
「うっ」
真面目な性格が祟って言い返せません。じゃあもう勝手にしてくださいと言わんばかりにその場を離れたサモは、深いため息をついて自身の幸運を逃がしてしまうのでした。
「う〜ん……ちょっとずつ形になってきたのはいいけど手の骨が圧倒的に足りないのはどうしてだろ〜?右手しか見つからないな〜」
「ぶった切られたんじゃない?きっと致命傷よ」
「るみぇあ」
「ポメ〜それは手の骨じゃないよ〜骨盤だよ〜?」
「白骨化した死体があるってことは絶対ここなんか憑いてるよな……俺たちは処刑される前に祟られて死ぬんだ……」
「幽霊なんて非科学的なモノ、簡単に信じるべきじゃないわ」
「人形兵になった俺たちに言えることじゃないよなマサーファさん!?」
骨を囲んで騒ぐ彼らをよそに、ミーアとレグはといえばそれらを眺めているだけでして、
「賑やかですね〜」
「おじさんさあ、いつもの調子を取り戻したというより徐々に狂い始めたといっても正しい気がするんだ……」
「ありえますわ」
ネルドが旅団一行を救出しに現れるまで残り23時間。



夜です。地下牢なので昼か夜かの判別がつきませんが、看守が夜だと言っていたのできっと夜でしょう。
時刻はすっかり消灯時間。今日も人間味のしない食事を与えられる以外は何もされなかった旅団一行の面々は、薄い毛布を被って床に就いていました。人骨が発見されたベッドは誰も使っていません。その下に綺麗に並べられた骨が安置されているだけです。
時々誰かの腹の虫が鳴り響く中、レグは小声で隣で寝ているアルスティに声をかけてます。
「あーたん、起きてるか?」
「お察しの通りお腹が空いて寝れてないわよ」
「いや何も察してねぇよ?」
不機嫌そうな声色ですがちゃんと返してくれたので、レグは言葉を続けます。
「おじさんさあ、今日はずっとここから脱出する方法考えてたんよ」
「ほほう?何か名案でも閃いたの?」
「全然」
「おやすみ」
「待って!もうちょっとおじさんの話相手して!」
なるべく声を抑え気味にした強めの主張ですが騒音には変わりありません。しかし、怒ると余計に体力を消耗してしまうので起きている人は皆、無言を貫きます。サモとか。
「何よぉ話って、どうせセクハラ紛いのどうでもいい内容なんでしょ?」
「こんな状況であーたんにちょっかい出して殴り殺されたら当分死体のままになると思うから自重している」
「さいで」
面倒なので相手もしたくないアルスティですが、空腹で眠れない以上付き合うしかありません。お人好しですし。
「脱出の方法は思いつかなかったけどさ、代わりに別の考えが浮かんできたんだよ」
「なによ」
「ルフラン市の地下迷宮の探索が終わったら、俺たちはどうなるのか……とか」
「……」
「今はまだ終わりを考える時期じゃないけどさ、魔女様の目的が果たされた後、俺たちにやるべき事はあるか?ないだろ?迷宮外の世界に魔獣なんていないから戦う必要もない、戦うために作られた人形兵なんて存在する意味がない……って思うと、虚しくなっちまってなぁ」
「…………」
「だから、やることがなくなったら人形素体から魂抜かれてそのままポックリ逝くのかって思ってよ。元は死んだ身なんだから仕方がないのかもしれねぇけどな」
「……それは、ちょっと、困るわね」
ようやく言葉を発したアルスティは絞り出すように言いました。
「どして?」
「カンパニュラの時に言ってなかったけど、私がこうして生きてることで戦争をふっかけてきた敵国の奴らが悔しい思いをしたらいいなーとか思ってるの。殺したはずの相手が今もこうして生きてるんだし」
「そこまで恨まれてたのか?」
「恨まれる覚えしかないもの」
「わぁお」
潔く認められるのも素晴らしいことかもしれませんが、彼女が敵国と呼ぶ国の人々にとっては恨みと憎悪の対象となっていると考えると、レグは何も言えません。
「魔女様の元にいたら、いつかチャンスが来るんじゃないかって前向きに考えてたけど……はあ、ダメだった時の対策を考えてないのは私の悪いクセだわ」
「いやいや、まだダメだって決まってないんだから諦めるのは早いぜ?もしかすると美味い具合に事が進んで、あーたんの目的が果たせるかもしれないじゃねぇか」
「悪いけどそこまでポジティブにとらえる気分じゃないわ。魔女様の目的が達成されたら今度こそちゃんと死ぬのも、それはそれでアリかもね」
「……そうかい」
諦めたように言うアルスティに少しでも抗議してもよかったかもしれませんが、ここでもレグは言葉を飲み込むだけです。
「俺が言えるような立場じゃねぇもんな……」
「なにが?」
「ナデモナイヨー。話を変えるけどよ、穿り返すようで悪いけどさ、昨日言ってた生き地獄ってどういう意味だ?」
「……えっと」
「大丈夫大丈夫、おじさんは可愛いあーたんの話ならどんな内容でも受け入れる自信しかねぇからさ」
「どんな自信よ……」
呆れるアルスティはちらりと、反対側でポメを抱えて寝ているルテューアを横目で見ます。生活リズムがちゃんとしている彼は夜の10時を過ぎて眠ってはいるのですが、時折「お腹すいた……」とうなされている様子。
眠っているのを確認してから、アルスティは淡々と切り出します。
「前はいたぶられてから死ぬのかなっとか言ってた気がするけど、実際は……捕虜になって処刑されるまで結構な時間があったのよ。初めは私の処遇すら決められなかったみたいで、どうするか決まるまで牢屋に繋がれたまま放置……されるワケがなかったのよ」
「……つまり、その、アレか」
「あんまり言いたくないから適当に想像しといて。それが答えでいいから」
「お、おお……」
できれば消し去ってしまいたい過去を思い出している彼女が今どんな顔をしているのか。ちらりと横目で見やりますが、背中を向けられているためそれは叶いませんでした。
「私が言った生き地獄っていうのはそういう意味よ」
「そうかい……で、それをルテューアは知ってたんだな?」
「ええ、結構前にちょっとうっかり。あの子がされた事に比べたら私なんて大したことないって言ったんだけど納得してないみたいなのよね……どうしてかしら」
「素で言ってます?」
「ほえ?」
間抜けな返事がきたのできっと素でしょう。アルスティとはそういう女性です。
「とにかく、ちゃんとした理由が聞けてホッとしたぜ。どっかの誰かさんはあーたんがおじさんと同類だと思ってたみたいだし?変に勘違いされることはもうないだろうな」
実は起きているきまじめな人物に向けて発せられた一言の返事は来ませんでした。
「そうね、サモには明日、頃合いを見て私から訂正しておくわ。ルテューアに気付かれないように」
「言わなくていいから。大丈夫だからあーたん、ね?」
「ふぇ?」
ネルドが旅団一行を救出しに現れるまで残り11時間。
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