過去拍手置き場

□14話 海の悪魔
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ハイウェイの奥地はイレギュラーの襲撃を受けているとは思えないほど静寂に包まれていました。
イレギュラーの仕業なのか、道路の真ん中には大穴が開いており、そこから潮の香りが鼻につきます。
「ふぅ・・・」
ガレキの上に腰を降ろし、潮の匂いをかいでいるのは青い短い髪にパーカーを着た少年です。額には逆三角のマーキング、頭頂にはひょこっと伸びたアホ毛。
彼こそモデルLの適合者、名前はテティス。初登場時から察していた方も多いかもしれませんが言うまでもなくツッコミポジション。
「さすがにちょっと疲れたかなぁ」
そう独り言をぼやき、W缶を取り出すとプルタブを開けてすぐ口に運びます。W缶とはライブメタルエネルギーを回復するアイテムで前作のみ登場するアイテム、つまり特別出演です。
「ああ苦い・・・でもちゃんと飲んでおかないとそろそろ」
不満を呟くと、遠くで地面を踏みしめる音がしました。1つではなく2つ。
静寂の中、すぐに気づいたテティスは空になったW缶をしまい、ガレキから腰を上げると、
「やっと来たねお2人さん。このまま来なかったらどうしようかと思ったよ」
「こっちこそ!ハイウェイの奥には何かあるハズだけど、もし何も無かったらどうしようかと思ったわ!」
豪語するアッシュの背には、彼女の背丈ほどはあるメカニロイドが浮いていました。建物破壊用のメカニロイド、サークラッシュです。常に4つのビットを周囲に回転させているのですが、今は何もありません。上にはグレイが小動物のように座っています。
「ちょ!?何で!?何で中ボス従えてるの!?」
「あー、さっきそこで遭遇してハイウェイぶっ壊して回ってて鬱陶しかったから、グレイをローズパークにトランスオンさせて電気をぶっこんでみたのよ〜そしたらショートしちゃったみたいで、アタシたちの事をご主人様だと思っちゃったみたい」
ねー?と微笑みかけますが相手はメカニロイドなので無反応です。代わりにグレイが「ねー」と楽しそうに返事。テティス絶句。
『・・・無理してツッコまなくてもいいんだぞ?スルーしても誰も怒らないから、な?』
色々察したのかモデルAが今までになく優しい言葉をかけてあげましたが、テティスは小さく首を振り、
「お気遣いどうも・・・でもいいよ、いっつも向こうでアトラスとかアトラスとかアトラスとかアトラスとかシャルナクにツッコミ入れてるもん。あの人たちの常識力マイナス値にカンスト寸前だからね・・・」
『お前・・・』
モデルAが心底同情していますが、彼の苦労の根源は苦労をかけている事などいざ知らず。
「よーし!じゃあ今日は3対1でやりたい放題ぶっこみ放題よ!アタシたちの力を見せてやりましょ!」
「おおー!」
一致団結。メカニロイドはうんともすんとも言いませんが、心が通じ合っているのでしょう多分。
すると、テティスはパーカーのポケットに右手を入れ、すぐに出しました。ライブメタルモデルLを持って。
「ロックオン」
ぴっかーん。現れたのはロックマンモデルL、久しぶりの登場です。
そして、突然ロックオンしたテティスに驚いているアッシュたちに向かい、ハルバードを構えると、
「行けっ!」
大きく振るうと現れたのは氷でできた竜、フリージングドラゴン。
高速で突進してくる竜はアッシュの横を通り過ぎ、グレイが腰を降ろしているメカニロイドに直撃。
「うわっ!」
うっかり転げ落ちてしまったグレイ。そして、シールド張ってなかったメカニロイドは一瞬で凍りつき、そのまま地面に落ちると二度と浮遊する事はなくなりました。
「何故殺した!」
「折角海が汚れないように氷を張ったのにソイツがここで海に落ちたら僕の苦労が水の泡になっちゃうから!」
アッシュの怒声に負けないぐらいの大声だったと言います。
『氷を張った!?まさか、ハイウェイ下の氷は全部お前の仕業なのか!?』
「そうだよ。ただでさえあまりキレイじゃない海だっていうのに、イレギュラーの襲撃なんてされたら車や機械のオイルが流れ出したり、ガレキが落ちたり人の死体が落ちたりして海が更に汚れてしまう。そうなったら汚れに強い生き物でも住めなくなるかもしれない、僕はそんな海は見たくない・・・だからハイウェイ下の海だけでもって分厚い氷を張ったんだよ!全ては海のために!」
なんという情熱でしょう。台詞の1つ1つから海に対する愛が伝わって来て、アッシュとグレイはつい身を引き締めてしまいます。
「海のためにそこまでするなんて・・・敵ながらアッパレだわ。今度手作りの表彰状を送ってあげる」
「あの氷のお陰で海に落ちなくて済んだよ!ありがとー!」
感心しても感謝しても、目前の青いロックマンは自分たちにとって敵なのでバスターの銃口は向けます。引き金にもしっかり指はかかっており、後は撃つタイミングを見極めればいいだけの話。
ここで戦闘になるとバスターを構えていたロックマンモデルAの2人でしたが、テティスはハルバードの構えを解くと、
「ここで交戦したくはないなぁ、僕のコンディション的にも・・・都合的にも・・・」
「は?」
「おいでよ。君たちに見せたい物があるんだ」
首を傾ける2人を置いて、テティスは大穴から海に飛び込んでしまいました。自身がとても大切にしている海へ。
「アッシュどうしよ?」
「おいでって言われたんだからそこにちゃんと乗ってあげるのがアッシュよ。ついて来なさいグレイ、メカえもんの弔い合戦よ」
凍りついてスクラップになったメカニロイドの名前には一切触れず、彼らは海に飛び込みました。
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