ディスガイア小説
□少女達は夜に戯れない
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今日の晩御飯は天魅の好きな天ぷらでしたが、今の彼女に巣食っているホラー映画のあの恐怖を好物程度でどうにかできるなんて問題ではありません。
何も言わず、彼女は一心不乱に天ぷらを食しました。
「・・・なんで無言で食ってんだ?お前・・・」
リアスにはやや引かれましたが1から10まで説明できる余裕はなかったそうです。
夕食もそこそこに、天魅は食後のお喋りをする事もなくさっさと自室に戻りました。
晩御飯前から電気を点けたままにしていたので部屋は明るいまま。当然電気代の無駄ですが、暗い部屋だとどこから何が出てくるのか分からない恐怖に襲われてしまい、1人では怖くて部屋に入れません。例え出入り口のすぐ側に電気のスイッチがあったとしても・・・。
叱られるのを覚悟で点けっぱなしにしていたのですが、同居人のユイカが先に戻っていなかったのが救い。天魅は部屋に入るとすぐさまベッドの上にダイブしてシーツの上に顔を埋めました。
ひとしきりシーツの冷たさと匂いを堪能した後、ゴロリと転がって仰向けになり白い天井と点けっぱなしだった電気を見つめて考えます。
「あの映画の怖さは予想外でしたね・・・まさかあそこまで恐ろしいモノだったとは・・・」
いつもよりも少し真剣な表情と声で独り言を呟きました。
「安易な気持ちで、ホラー映画なんて見るものではありませんね・・・また一つ学習できました・・・」
このまま夜を過ごすのはあの恐怖と戦うのと同意語。このまま眠ってしまって朝を迎えられればどれほど楽な事か・・・と考えてゆっくり瞼を閉じてみます。
目を閉じると瞼の裏に出てくる光景は、あのホラー映画の恐ろしいシーンばかりです。一度見た恐怖はそう簡単には消えません。
「どうしましょう・・・」
このままだと確実に眠れなくなる・・・そう確信した時、ドアが小さな音を立てて開きました。
「あっ」
すぐに目を開けて体を起こすと、部屋に入ってきたユイカが目を丸くさせてこちらを見ている事に気づきました。
「何だ天魅、もう寝るつもりだったのか?」
「いえいえ!そんなつもりはありませんよーちょっと寝転がっていただけです!」
作り笑いを浮かべて手を振りつつ否定。この程度の誤魔化しに騙されないのは天里ぐらいですが、騙されはしなくても違和感は残る態度です。
なので当然違和感を覚えるユイカですが「大した事はなさそうだからいいか」と結論付け、部屋の隅にある机に向かいます。
机の上に置いてある本を取り、椅子に座るとしおりを挟んでいたページから続きを読み始めました。本のタイトルは「何故いじめは発生するのか」教育関連の本らしいです。
「・・・・・・」
静かです。ちゃくちゃ静かで虫の鳴き声も聞こえません。
夕食後のこの時間、いつもなら天魅はユイカに話しかけたり誰かの部屋に遊びに行ったりとちょっぴり騒いで過ごし、ユイカはずっと本を読んで静かに過ごしているのですが、今日は少し違います。
ホラー映画の影響により恐怖心が成長しつつある天魅は部屋から一歩も出たくありませんし、ユイカと楽しくお喋りをする心の余裕もないのです。
そのため天魅はいつもよりも格段と静かで、ユイカは少し疑問を感じていますが、たまにはこんな日があってもいいか・・・と気にしない方向。再び本に集中します。
小さな物音一つすればすぐに気づきそうな静けさの中、天魅はある決断して切り出します。
「あ、あの・・・ユイカさん」
「何だ?」
視線を本に向けたまま、ユイカは返事をしました。今読んでいる所はいじめを生み出す環境について著者の推測が延々と語られているページ、これをどう工夫して極悪アーチャーへの対抗策にするか色々考えながら熟読しています。
真剣な彼女などつゆ知らず、天魅はベッドの上で正座をするとびっきりキュートで愛らしいつぶらな瞳を向けて、ある要求します。
「今夜、一緒に寝てくれませんか?」
「却下」
間髪入れず即答。本のページをめくりました。
まさか即答で断られるとは思ってなかったお花畑思考の少女。正座したまま愕然。
「アホらしい・・・」と小さくぼやいたユイカは何事も無かったかのように黙々と本を読んでいます。少女に対する気遣いは1ミリもありません。
しかし、ただでは諦めの悪い少女はベッドから降りると、ユイカの横から必要以上に顔を近づけて。
「何故!?何故ですか!?私がこんなに必死にお願いしているというのに、どうして一秒も悩まずに断ってしまうのですか!?訳が分かりません!」
突然こうやって耳元で訴えられたら誰であろうと鬱陶しく感じてしまいます。ユイカのようなデリケートな天使は特に。
眉間にシワが寄り始めたユイカはしおりを挟んで本を閉じて机に置くと、必要以上に近づいてきた天魅の額を押して距離を開けつつ、冷静な対応を試みます。
「もう子供じゃないんだから添い寝してほしいとかワガママを言うんじゃない。自立しろ」
最後に力を入れて突き放すと、天魅は子供のようにむくれて。
「だって怖いんですから仕方ないじゃないですか!」
「怖い?怖いって何が」
「何がって、そりゃあ・・・」
ユイカに映画の内容を説明しようとした瞬間、天魅の脳裏にあの映画の恐怖シーンが次々と浮かび上がり、彼女の脳内をあっという間に支配して恐怖のどん底へ突き落とします。
勢いの失った天魅はゆっくりとユイカから目をそらすと。
「い・・・言いたくありません・・・怖いので」
「は?」
だから何が?ユイカ、理解不能。