過去の拍手SS

□拍手8(このせつ)
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あの雪の降る真っ白な景色の中、私は一人その白を緋色に染めていた。
ポタポタと流れ落ちるそれに目すらむけず、ただひたすら手を伸ばし、なくそうとしていたあの頃。


背中から消えることもなかった白い翼は、今もここにある。


今私は仕事から帰り、お嬢様の部屋にいる。
こんなに遅くだというのに、私の帰りを待っていたようだ。
メールの返信の早さに起きているとわかり、お嬢様の部屋へと向かった。
背中の痛みを堪えながら、ただひたすら走っていった。
ワイシャツに滲む血痕。
隠す術もなく正直に事情を話すと、彼女は魔法で治すと言い出した。

「せっちゃん、はよ背中出して?」

「で、ですが…」

「…怪我治されるのが嫌なん?」

「嫌…といいますか、お嬢様の魔力を使うまでもないほどの怪我ですし、自然に治りますから…それに…っ」

「せやけど…。…、わかった!ほな、薬塗ったるな?」

「あっ、はい。それでしたらお願いします」



最近魔法が上達してきたお嬢様。
魔法で治すのは簡単だが、今日のこの怪我は自分の不注意からだ。
身を持って、刻んでおくことが、今後そのようなミスを起こさないために必要だと今日感じた。


部屋の棚から救急箱を取り出し、塗り薬を取り出した。
カーゼで周りの血を少し拭き取り、冷たい感触が背中に訪れた。

「…っ、いっ…!」

「だ、大丈夫!?」

「だ、大丈夫です…っ。…最初だけですから…」


そう痛いのは最初だけ。慣れてしまえばその痛みなど大したことはない。
背中を向けて座っているため、彼女の表情は見えない。
だが、優しさだけは伝わってくる。
優しくそっと、薬だけが傷に触れるよう動く彼女の手は温かかった。
まるで……まる…で?

「…せっちゃん?」

「…まるで…」

「…どないかしたん?」


まるで、あの人のようと頭の中に浮かんできた女性。
優しく包み込んでくれたその手はいつだって優しかった。
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