そのゼロ、魔女と再び恋する
□Story 7
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ある日の朝、女子寮から階段を上ってきた凛が談話室に現れると、前髪がガタガタになっていた。
ギリ眉上の長さや、そうかと思えば瞼上の長さとなんともチグハグな長さだ。
よく見ると後ろの髪も少しチグハグな長さになっていた。
『おはよう、凛。
その髪はどうしたんだ?』
『リン、おはよう。
髪が可哀想な事になってるぞ。』
降谷とスネイプが髪について聞くと、涙目になった凛がその場で膝から床に崩れ落ちた。
『わっ私だってこんなつもりじゃなかった!!
今頃、私の前髪は誰もが振り返る程の可愛らしいパッツンに変わってるはずだったのに!!』
『心配するな、ある意味誰もが振り返る程の前髪だ。』
『セブルスには慰めの言葉ってのはないの!?』
『!?
精一杯の慰めだったんだが・・・』
『傷口を抉られただけだわ!
罰としてセブルスの前髪も私とお揃いにしてやる!』
『おい、やめろ!
何故僕がお前の不器用で失敗した罰を受けなければいけないんだ!』
工具用ハサミ片手にスネイプに襲いかかってる凛と、その凛の手首を必死に押さているスネイプを見守りながら降谷は、腕を組んで静かに考えていた。
続いて談話室へ上がってきた2人組の女子生徒が降谷に満面の笑みで挨拶をした。
『レイ!おはよう!』
『おはよう!
今日も素敵よ、レイ!』
『・・・おはようございます。
Miss.モリス、Miss.ベネット・・・』
降谷に挨拶をされた2人は頬を染めて『レイに呼んでもらえた!』などと嬉しそうに話しながら談話室から出て行った。
降谷はしばらく出て行った2人の後ろ姿をジッと見ていた。
『おいっ、フルヤ!!
ボーッとしてないでリンをどうにかしろ!!』
スネイプの声で再び視線を凛たちに移した降谷は、困ったように微笑んだ。
『Mr.スネイプ・・・あと3分、そのまま頑張っていてください。』
『はぁ!?
おいっどこに行く!?』
降谷は叫ぶスネイプとそのスネイプに襲いかかってる凛を放置して、男子寮へ続く階段を下りて行った。
3分後、散髪用のハサミとクシと数本のピンを片手に談話室へ戻った降谷は、未だ取っ組み合いしていた凛に話しかけた。
『俺が前髪を可愛く整えてあげるよ。』
スネイプに襲い掛かるのをピタッと止めた凛は、勢いよく振り返って降谷を見た。
『まっマジでか!?
この残念な前髪を救えるの!?』
『あぁ。
俺に任せておけ。』
降谷はニコッと微笑むと、ちょいちょいと手招きをした。
素晴らしい程の速さで降谷の前の椅子に座った凛は、目を輝かせて頭を下げた。
『ぅお願いします!!』
『ん、了解。』
降谷はそう言うと、腰を折って凛の顔に自身の顔を近付けた。
『ちっ近くない!?』
『え?
近付かないとカットが出来ないだろ?』
『でででですよね!』
(ふぉぉぉぉぉぉぉっ!?
零の美しいご尊顔が近いぃぃぃ!?
待って、改めてよく見ると肌がトゥルトゥルすぎる!
全然肌荒れとかしてないし、何!?ヤバくない!?
つか睫毛長ぇ!
鼻筋高ぇ!
タレ目が大っきい!瞳の色綺麗!
そして安定のいい香り!)
降谷の端正な顔を間近くで見つめ続ける事など出来ずに、凛は目をギュッと閉じた。
降谷はその様子の凛に、頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、サイドの髪の毛をピンで留めていった。
『フルヤは髪まで切れるのか?』
『ええ。
どうやら僕の髪は美容師の方でも切りにくいクセがあるらしくて・・・
いつも自分で切ってるんですよ。』
『・・・お前に出来ない事ってあるのか?』
『そりゃありますよ。』
『それはなんだ?』
『えーと・・・ほら・・・うーん・・・』
『もういい。
早くしろ、朝食に遅れる。』
散髪用のハサミとクシを器用に使って凛の前髪を綺麗に整えていく降谷を、スネイプは半目で見ていた。
数分で綺麗にオン眉パッツンに切りそろえられた前髪に、スネイプは目を見張り、凛は感動していた。
『すご・・・
美容師いらず・・・』
(すごいな・・・
フルヤって本当に同じ人間か?)
『とても可愛くて似合ってるぞ。
ついでにサイドと後ろの髪も軽く整えておいた。』
『レイは器用通り越して、すべてにおいてプロ以上なんだね。』
『それは言いすぎだ。』
降谷は笑いながら散髪用のハサミなどをしまった。
そして3人は足早で大広間へと向かった。