その魔女、ゼロに恋する
□Episode 6
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それはとあるポアロでの出来事。
「前から思ってたんですけど・・・
凛さんの淹れてくれる紅茶って、とても美味しいですね!」
「あ!それすごくわかるわ!
なんだろ・・・こう、上手くは言えないんだけど・・・
凛さんの淹れてくれた紅茶を飲んでから他の紅茶じゃ物足りないっていうか・・・
他のお店のが不味いワケじゃないんだけど美味しくないっていうか・・・」
蘭と園子の言葉に洗い物をしていた凛は手を止めて顔を上げた。
すると隣でパスタを作っていた梓も2人の言葉に反応した。
「だよね!
私も初めて凛ちゃんが淹れてくれた紅茶を飲んだ時、美味しすぎて感動したのよ!
それに最近のポアロって凛ちゃん目当てで来る人も多いけど、凛ちゃんが淹れる紅茶目当てで来る人も増えてるくらいなのよ!」
凛は3人の言葉にハニカミながら手を再び動かして洗い物を再開した。
「3人ともそんな褒めなくても・・・
でも褒められると嬉しいな、ありがとう。」
「私、凛さんが淹れてくれた紅茶が大好きなんです!
何処かで紅茶の淹れ方とか習ってたんですか?」
「蘭ちゃんったら、褒めすぎだよ〜。
別に教室に通ってたワケじゃないんだけど・・・
昔にね、食には無関心の癖に紅茶だけにはすっごく厳しくてうるさい人が居て、その人に教えてもらったんだ・・・
"お前もこれくらいの紅茶を人に出せるようになれ"って。」
洗い物を終えた凛はタオルで手を拭くと、蘭、園子、梓は目をキラキラさせて凛に詰め寄っていた。
「・・・って3人とも近くない?
いや、美女に詰め寄られて幸せだけどさ。」
そんな凛をスルーした園子が続きを急かした。
「それでそれで?
その続きは?」
「続き?
あー・・・それで何度も何度も練習して、やっとの事で"これからお前の紅茶でないと飲めそうにないな"って合格もらえてね。
あの時はすごく嬉しかったなぁ。」
「へーっ!
その口調からするとその人って男の人よね!?」
「よくわかったね、園子ちゃん!
そうよ。
不器用でいつも嫌われ役を買って出るような人だけど、本当は誰よりも純粋で優しい心を持つ素敵な人なのよ。
ふふ、懐かしい・・・」
凛は魔法薬学の教授補佐をしていた時に、魔法薬学の教授であり、学生時代の先輩であるセブルス・スネイプとのやり取りを思い出した。
そして目尻を下げてふんわりと微笑んだ。
その凛の様子を見ていた3人はすぐにピーンッときた。
「ちょっと、ちょっと!蘭!!
これって!!」
「うん、園子!!
もしかして・・・
もしかしてじゃなくても・・・」
「その人って凛ちゃんの恋人なの!?」
あまりにも食い付きがすごい3人に詰め寄られ、凛は目をパチクリとさせた。
「え?全然?
恋人のこの字もなかったよ。
ただの学友よ。
それに彼には、小さい時から今でもずっと想い続けている1人の女性が居るのよ。
そんな彼が私と恋仲なんて、天と地がひっくり返っても有り得ないわ。」
その人物を思い出しているのだろうか、ケラケラ笑いながら「えー、私がアイツと?今になって考えてみてもないわね。心底有り得なーい!」と腹を抱えて笑い続けていた。
そして3人は身を寄せて小声でヒソヒソと話し始めた。
「私、思うんだけどさ・・・
凛さんってすっごく鈍感なんじゃ?」
「うん、私もそうだと思うな・・・」
「外国の人はそれが通常運転なのかどうかわからないけど・・・
私は異性相手に、"これからお前の紅茶でないともう飲めない"なんて中々言わないと思うんだけど・・・」
園子、蘭、梓は凛に紅茶の淹れ方を教えた顔も知らないその男を、心の底から不憫に思った。