その魔女、ゼロに恋する

□Episode 1
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「アン! アン!」

「こら、ハロ!
あんまり遠くへ行くな!」


日が出始め、辺りが薄ぼんやりと明るさを取り戻そうとしている3月中旬の午前4時過ぎの早朝。
ふわふわの綿あめのような真っ白い仔犬が、川の横の草っ原を嬉しそうに駆け走る。
その仔犬に小声で注意しながら、褐色の肌でカスタードクリームに近い金色の髪の毛を持つ男が、"ハロ"と名付けられた仔犬の後を追いかけていた。


しばらく駆け走っていたハロが、突如鼻を引くつかせて止まった。
そしてその場近くの高く生い茂る草むらに、尻尾を振りながら頭を突っ込んだ。


「ハロ?
どうした、何かあったのか?」


男は不思議に思い、自身もハロが頭を突っ込んでいた場所の草をかき分けて覗いてみた。
そこには顔や手足に出来たいくつもの傷から血を流した黒髪で色白のアジア系の女が倒れていた。
その女の手をハロが一生懸命に舐めている。

男はすぐさまハロを抱き上げて女から引き離した。
そして(死体か!?)と思い、傍らにしゃがんで女の首筋に触れると脈を確認した。

トクン・・・トクン・・・と男の指に鼓動が伝わる。
女の脈がある事がわかった男はひとまず胸を撫で下ろした。


(よかった、脈はある。
衣服が乱れていない事から暴漢ではなさそうだが・・・
歳は20代前半くらいだろうか?
持ち物は、小さめの鞄と・・・
・・・?
これは木の枝か?
とりあず早く救急車をーーー)


男が拾い上げた木の枝のような物を元の位置に戻し、ポケットからスマホを取り出して救急車を呼ぼうとした瞬間。


『・・・う・・』

「!?
大丈夫ですか!?
僕の声が聞こえてますか!?」

『・・・ここ・・は・・?』


女が小さく呻き声をあげてうっすらと目を開けた。
その女が話した言葉は英語だった。


(英語!?
日本人ではないのか!)
『大丈夫ですか!?
聞こえてますか!?』


男は英語で再度、女に声をかけて女の容態を確認した。
女は眩しそうに眉間に皺を寄せて顔を顰めた。


『ーーーっ
・・・まぶし・・
あ、大・・・丈夫です
聞こえて・・・ます・・・!?』


途端に女は目を見開き、勢いよく起き上がった。
自身の手や袖口を確認した後、青ざめた顔で近くの草をかき分け始めた。
近くにあった木の杖のような物を見付けた女は、慌てながらそれを拾い上げて胸元できつく握り締めた。
そして辺りをキョロキョロと忙しなく見回した。


『ここは・・・どこ?』


ポツリ、女が呟いた。
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