傘の下

□夏の風物詩
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毎年夏前になると地元に帰省する。
それは大学生であるからだ。
夏場はクーラー代や交友費で何かとお金が消える。
それを危惧した俺は夏前の夏休み期間に入ると帰省して実家で過ごす事にしている。
ただ理由はそれだけではない。
一つ下の高校生の幼なじみと遊ぶ為でもある。











美玖「あ!海人君!おかえり」
海人「ただいま」
美玖「荷物持つよ」












帰省することを俺の母親が教えたのだろう。
駅まで迎えに来てくれた。
俺の実家の最寄り駅はいわゆる無人駅で周りは田んぼ、畑が一面に広がる広大な土地だ。
夜になると街灯すらない道は月明かりだけが照らすような道だ。









美玖「東京はどう?」
海人「人が多いから変な感じだよ」
美玖「私も来年は海人君と同じ大学に行くから待っててね?」
海人「おう」















東京では駅まで僅か10分程の場所だがここでは10分歩いただけでは駅を出た景色とそんなに変わらない。
景色の変わらない道をひたすら歩く。












海人「ふぅ、着いた」
美玖「自転車乗っていけばよかったぁ」













美玖は俺の実家の玄関でへばっていた。
うちの母親がお水を持って出迎えてくれた。
その水を2人で一気に飲み干してクーラーの効いた部屋に入る。












美玖「海人君、久々に遊びに行こ!」
海人「いいね、どこ行く?」
美玖「いつも遊んでた公園行かない?」















美玖と2人で公園に遊びに来た。
美玖が水道まで走っていくと手招きで呼ばれた。
歩いて向かうと水道の蛇口を捻り、水道の先を指で抑えて水をこちらに飛ばしてきた。











海人「うわっ!…やったな?」













美玖を追いかけて公演を走り回る。
やっている事は小学校低学年と同じ事だろう。
ただ今の2人は童心に返り、この時間と空間を楽しんでいた。
美玖を捕まえると水道まで無理矢理連れていき水道をそのままかける。














美玖「キャッ!冷たいって」
海人「もう2人ともビショ濡れじゃん」










自然と笑顔になる。
慣れた土地に戻ってきたからなのか、それとも2人の空間が心地いいのか。
恐らく後者であろう。














美玖「スカートも全部ビショ濡れになっちゃった」
海人「ごめんごめん、でも先に水かけてきたのは美玖だからな?」
美玖「えい!」










美玖は俺に抱きついてきた。
夏の暑さとは別の熱さが伝わってきた。
それは体温ではあるが体温だけではない優しさだろう。













美玖「ねえ、海人君彼女出来た?」
海人「いや、出来てないよ?」
美玖「じゃあ…さ、もしだよ?もし、私が…海人君のこと好きだって言ったら…困る?」
海人「…逆に俺が美玖を好きだって言ったら困る?」














美玖は何も言わず背中から抱きしめる力を強くした。
それは美玖が恥ずかしくて言えない答えとして受け取っていいのだろう。
お腹にまわされた手を外して美玖を正面から抱きしめた。














海人「顔真っ赤だよ?」
美玖「な、夏だから…暑いだけだから」












全くもって説得力の無い言葉。
素直にならない美玖にお仕置としておでこにキスをした。













美玖「ねぇ、おでこだけ?」
海人「どこにして欲しいの?」
美玖「んー!いじわる…」











美玖は背伸びをして唇を押し当ててきた。
これが彼女としての美玖だろう。
来年からの楽しみがまた1つ増えた田舎での夏の思い出。
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