カムイ長編

□第三話 月島軍曹の話
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鶴見中尉は凄い御方だが、何を考えているのかわからないときがある。

尾形上等兵が森で拾った女をどういうつもりかこの陸軍第七師団の兵舎で雇うという。

珍妙な格好をしている女は夢主と名乗った。
苗字を聞いても、記憶がないので…と躱されて、あまり気乗りはしないが名前で呼んでいる。

夢主はよく働いた。
最初はここのやり方に戸惑っていた様子だったが、すぐに慣れた。
しかもこの男ばかりの中で気負いしないのか、兵士たちともよく会話しているところを見るに、社交的な性格なのかもしれない。
自分の周りで見てきた女たちは慎ましやかでおしとやかだが夢主は違う。だからと言って品がないわけでもなく、何故だか人種が違うような気までしていた。

時々言葉遣いに困っているようだったが、気づけば鶴見中尉に頼み込んで本を借りて勉強していた。
読み書きもできるし、理解も早い、教養があるようだと感心した。
もしかしたら記憶が戻る前は良いところのお嬢さんだったのではないか?
いや、だとしたら相当早く行方不明者の話が軍に来るはずだ。


なぜ日本語を習得しているにもかかわらず改めて語学の本を読んでいるのか不思議だったが、いつの間にか言葉遣いが綺麗になってきていた。

その頃にはすっかり軍の男共は夢主に骨抜きにされていた。
確かにいつも明るく元気な彼女がいると、場が華やぐ。
むさくるしい男共に囲まれていても、彼女は嫌な顔ひとつしなかった。

夢主は頻繁に兵士たちから声をかけられている。
仕事が止まってしまっては大変だろうと見かねて、用事があるようなふりをして、兵士たちには任務へ戻れと命令していた。
そうしているうちに夢主は俺を見つけると声をかけるようになってきた。
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