A3!
□バットボーイポートレイト
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乃愛side
あの後、部屋割りで万里と十座が同室にされて爆笑したり、ヤクザさんこと左京さんの新スローガン"質素・節約・節制生活"でブーイングを受けたのを左京さんがピシャリと黙らせたり色々あった。
ヤクザである左京さんに最初私は少し距離を置いていたけど…
『はい!仕事で電気使います!』
「消灯時間内に終わらせろ。」
『仕事でパソコンのメールチェックします!多分消灯時間後にも来ます!』
「ンな常識知らずの時間に連絡が来るか!
だいたいお前まだ20歳だろ!そんなにこん詰めてやって体でも壊したらどうすんだ!」
なんか、お父さんがいたらこんな感じなのかなって、私の仕事量や睡眠時間の少なさに、ああだこうだうんたらかんたらと半ば説教じみた感じだったけど心配してくれているのが分かってちょっと嬉しくて気づけば私は左京さんにかなり懐いていた。
今までMANKAIカンパニーの方からギャラを貰ったことは一切なかったんだけどそれが左京さんに知れると支配人を締め上げ次からはキチンとギャラを少しだけど貰えるようになった。
「お前は学生とはいえ、もう一端のプロなら、もうすこし経済面をうんたらかんたら……。」
私のために言ってくれてたんだろうけど話長すぎて半分以上聞いてなかった!ごめんね左京さん!!
そして今日から秋組本格始動ということで初稽古を見学させてもらうことにした。わくわく!!
監督の指示で稽古が始まる、という時に支配人が入ってきた。
秋組発足記念の差し入れを持ってきてくれたらしい。そしてその中身が……。
「もしかして、これ亀吉か。」
『わー!ほんとだ、亀吉まんじゅうだ!可愛い!!』
「オイ!オレの方からカワイイダロ!!」
MANKAIカンパニーのペットであるオウムの亀吉をモデルにしたらしい亀吉まんじゅうに目をキラキラさせていると本物の亀吉が私の方に止まった。
わ!なんだかんだ私亀吉とは初絡みだよー!!
『本物の亀吉も、かわいーね!』
「あたりまえダロ!」
亀吉とわちゃわちゃしていると、左京さんが支配人をしめていた。大量発注の売れ残りだったらしく、無駄遣いが嫌いな左京さんからしたらキレる案件だろうなー。
でもとりあえず勿体ないし、せっかくくれるんだから、と食べてみると……。
「−−ぐっ。」
「……うぐっ。」
「−−ぶっ。」
太一と臣と万里の顔がみるみる内に悪くなっていく。どうやらあまり美味しくないらしい。チャレンジ精神で私も食べてみることにした。
「……もぐもぐ。」
『……もぐもぐ。』
「古市さんもどうぞ!」
「この惨状見て、食うバカがどこにいる。」
「……もぐもぐ。」
『……もぐもぐ。』
「いるっス!」
みんなが手をつけない中、私と十座だけが、ずっと亀吉まんじゅうを食べ続けていた。私は昔から甘いものが好きだし、何より食べ物を粗末にしない、体に害がない限り絶対残すな、というひまわり園の教えがあるから、そこに食べ物があれば食べる主義なのだ。
監督が無理して食べなくていいんだよ?って言ってるけど別に無理はしてないんだよなー。十座も心無しか幸せそうだし。甘いもの好きってギャップだね!!
「平気な顔して食い続けるとか、頭だけじゃなくて舌までバカなのか。」
万里の言葉に普段なら反応するはずの十座は喧嘩を買うわけでもなく、ただただ亀吉まんじゅうを食べ続けている。私もだけど!
「四羽目だな。」
「その数え方、残酷っス!」
「十座くんと乃愛ちゃん、もしかして気に入った……?」
一瞬ピクッと反応した十座。
うん!これは完全に気に入ってるね!なんか可愛い!!
食べ物粗末にするわけにはいかねえだろ、って言ってるけど!素直じゃないなー!!
『十座!もっとおたべ〜!』
「あざす。」
「お前、マジで単に味が気に入っただけだろ!?」
あはははは!ウケる!!
−
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−−−
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亀吉まんじゅうは無事私と十座で消費しきって、改めて稽古を始めるにあたり、まずリーダーを決めることになった。
秋組も春夏と同様、旗揚げ公演はリーダーが主演を務めることになり、最初は左京さんが候補に上がったけど本人曰く"自分には伸び代がないから若いやつらにやらせろ"と言って辞退した。
監督が主演兼リーダーの立候補はいないかみんなに聞くと−−
「−−この四人の中なら、断然俺だろ。
監督ちゃんも乃愛さんもそれわかってんじゃねーの?」
と、自信満々に言ってのけた万里。
うわー、マジでなべのへし折りたいランキング上位に入ってきそう…この生意気な感じ、きっと、なべならイキイキしながらへし折るんだろうな…。
確かに芝居の器用さなら、秋組で1番かもしれないけど……。
オーディションの話聞いてたり、本人と話してみたりしたら芝居への熱意は断トツで十座が1番だと思う。
見事なまでに対極なんだよなーこの二人。
結局、他のメンバーの立候補もなかった為、主演兼リーダーは万里になった。
「おい。」
『?』
左京さんが監督に声をかけて耳打ちしているのを私も二人に近づいて聞いてみる。
「摂津はこの中でダントツに芝居への本気度が薄い。リーダーは一つのいいきっかけになるだろう。」
なるほど、そこまで考えるなんて流石左京さん。
正直、今の万里は全然わくわくしない。平坦でつまらない感じ。
逆に十座は技術も何も無いけど芝居へのガチな情熱があるから伸び代しかないので正直一番期待してはいる。
さて、どうなるのかなー。と秋組の未来に思いを馳せた。
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