A3!

□バットボーイポートレイト
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天和side

今日から朝練稽古が始まるということで、殺陣を考えるにあたって秋組メンバー全員の身体能力を知るために私も参加することにした。

乃愛は公演の曲作りの他に卒業公演の曲作りもあって忙しく、暫く朝練や稽古見学に来れないことを嘆いていた。

天馬や三角がそわそわしていたのは多分そのせいかな。相変わらず個性が強い人間に好かれる傾向にあるからホント見てて飽きない。

日課である早朝ランニングと自主トレを終えると丁度よく秋組メンバーが稽古場に入ってくる。

「はよーっス!天和さん早いっすね!」

『…まぁ、早朝ランニングとトレーニングは欠かさずやってるから。』

そう言うと、すごいっス!かっこいいっス!と手放しに褒めちぎる太一。トレーニングくらいでそんなに褒められたのは初めてだから、なんだか照れくさい……。

「あ……おはよう、天和。」

『……おはよう、臣。』

太一の次に来たのは臣。相変わらず目線が合うのは一瞬だけ。正直なところ、私は臣に避けられている理由はわからない。

"あの日"以来私を避けているけど、なぜ避ける必要があるのだろう…。そう思うと少しイライラしてしまう。

その後、左京さんと監督が来て、最後に十座が来た。

「……摂津はどうした。」

「後で来るらしいっす。」

『……。』

摂津…あの余裕をひけらかしていたネオヤンキーか。初日から遅刻とはいい度胸してる。

結局、摂津が来ることはなく、ルチアーノの居ないシーンを軽く読み合わせたあと、私の身体能力検査が行われた。

『十座、動きは悪くないけどそれだとただの喧嘩。私と同じように動いてみて。』

「うっす。」

十座は体格がいいし、喧嘩の経験もかなりあるのか筋がいい。けどそれはあくまで喧嘩での話。舞台のアクションとなるとお客さんに"魅せる"動きが必要になってくる。一つができても中々繋がらない。悔しそうだけど、だからといってめげずに何度でもやらせてくれ、と挑戦してくる。こちらも教え甲斐がある。

『左京さん。左京さんは殺陣がない分、動きを重点的に見ます。姿勢や挙動で組織のボス感を出さないとセリフも嘘くさくなりますから。』

「ああ。よろしく頼む。」

左京さんは経験と客観的に自分を見る冷静さがあるから1度指摘したところは直ぐに直してくるし逆にこうしたらどうか、という意見も来るから正直1番スムーズに進んでいる。しかし、年長者だからなのか、どこか一歩線を引いてしまって殻を破りきれていないような印象を受ける。ギャングのボスの役はそれでは務まらない。

『太一も同じく重点的に姿勢や挙動を見てく。自分とは正反対の病弱キャラだから大変だと思うけど頑張って。』

「はいっス!」

太一は未経験だという割には無意識になのか、からだ運びが異様に上手い。何だか態と下手なフリをしているのでは無いかと変に勘繰ってしまう。そんな必要ないから、気の所為だと思うけど…。

『……で、臣は殺陣はないけど銃撃戦のシーンがあるから銃を撃つ時の姿勢とかを重点的に見てくから。』

「あ、ああ…。」

臣は典型的な演劇初心者だから、動きもぎこちないけど、元の身体能力の高さと地頭の良さで何とかカバーできている。回数をこなせば直ぐに慣れるだろう。

ただ…

『私を意識しすぎ。
手抜いたらぶっとばすから。』

「天和さん怖いっス!」

私を避けていただけに、ちょくちょく私に意識を向けてくる。私も気になるところではあるけど、仕事には関係ない。私の振付師としてのプライドが許さない。

「…あぁ、すまない。」

そんな私の何が面白かったのか、臣は少し笑って、改めて稽古に集中した。

…久しぶりに見たな、臣の笑顔。

そして、結局摂津が朝練に現れることはなく、絶対アイツを叩きおると決意した。



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朝練も終わり、朝食。今日は臣の料理だった。

……相変わらず女子力高くて心折れそう。←

子供の頃、父に乃愛と料理を教わった時、壊滅的な私の女子力を目の当たりし父は遠い目をしながら嘆いていた。私の壊滅的女子力は母の遺伝らしい。

両親が仕事で忙しく海外を飛び回っているため私を心配した父が乃愛に家事を頼み込むのは自然な流れだった。

流石にこの歳で料理の一つもできないのは、と危機感を覚えて乃愛に料理を教えてもらうと……

"……なべ、なべは頑張ったよ。
だからもうお願いだから包丁は二度と私の前で使わないで。私はまだ死にたくない。"

"……ごめんなさい。"

乃愛の顔面スレスレに突き刺さった包丁を見て、さすがに素直に謝った。あんなに表情が死んだ乃愛は初めて見た。

そんなことを思い返していると眠そうな万里が悪びれもなく朝食を食べに来た。

十座の怒りも何処吹く風だ。

「……つーか、わざわざおめぇらと同じ練習量こなさなくても、ダントツでやれるし。」

……ほう?

『そこまで言うなら見せてもらおうか。』

「はぁ?」

怪訝そうな顔でこちらを見る万里。
ここまでの奴は久しぶりに見る。

久々に本気で叩きおってみよう。

『朝食の後、稽古場に来な。
それで私が納得する動きが出来れば今後私はアンタに一切口煩くしない。』

「……へぇ?」

面白い、と言わんばかりに口角を上げる万里。これをクリアすれば私は口を出せない、指導者の私がそうなれば左京さんも口出しが出来なくなる。それを察したんだろう。そこそこ頭も回るらしい。

「いいぜ。精々後悔すんなよ、指導者サン。」

後に、その個人稽古の後の万里の姿を見て、絶対に天和さんを怒らせないようにすると誓った、と顔面蒼白になった太一は語る。



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