A3!

□バットボーイポートレイト
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乃愛side

今日から秋組の台本の読み合わせ。
私は朝から機嫌が超絶良い。

「それじゃあ、いよいよ今日から
台本の読み合わせを始めるんだけど、その前にみんなに紹介したい子がいるの。」

監督の言葉に?を浮かべるみんな。
私の機嫌が良かったのはこれが原因なのだ。

「天和ちゃん、入ってきて。」

「え……。」

臣が驚いてるのがわかる。
そりゃそうだ、言ってないもん。

アクションを指導できるレベルの高い振付師といえば、私はなべ以上の人は知らない。

秋組の為にも臣となべの為にも、これは必要なことだって思ってる。

「今回、アクションの振付や指導をしてくれる渡部 天和ちゃん!

乃愛ちゃんと同じダリア芸能専門学校の子でダンサーや振付師としても活躍していて実力は折り紙付らしいから仲良くしてね!」

「び、美人っス…!!
オレっち輝きに目がやられそうっス!!」

顔を真っ赤にしてなべを見る太一。
私の時もそうだったけど本当に太一女の子に弱いんだね!ウケる!!

十座や左京さんもプロに指導して貰えるなら、と反論は無さそうだ。

万里はオレならいなくても余裕ですけどってオーラ出てるけど。

『…渡部 天和です。
指導に関しては一切容赦しないので。よろしく。』

「……。」

…なべと臣、目が合っても会話はなし、か。臣がなべを避けるようになったのは知ってるけど何で避けるようになったのかはわからない。

だけど二人の気持ちを知ってるだけに、このままは良くないことはわかる。

この再会をきっかけに変わってくれるといいな……。



−−

−−−

−−−−

天和side

数日前、乃愛から電話がかかってきた。
内容は乃愛が春から所属しているMANKAIカンパニーのアクション指導兼振付師として参加しないか、という誘いだった。

春夏の公演は観に行ったし、殺陣の師匠でもある雄三さんが、かつていた劇団だと知っていたから何となく自分も関わりはないけど愛着に近いものをもっていた。

だけど、私の指導についてくるのはプロでも難しい。理由は簡単。私がスパルタすぎるらしいから。

自分には全くその自覚はないんだけど…。

口下手な上に私は妥協という言葉が嫌いだから上を目指すために努力を惜しまない。

だから復活したばかりの劇団でほぼ素人しかいないという劇団に私が入って潰してしまわないかと、不安だった。

だけど−−

『《臣がいるって言っても、なべは来ない?》』

『……え?』

乃愛の言葉に思わず固まってしまった。

何で…臣の名前が…

『《夏組公演の時カメラマンとしてカンパニーに来てて、秋組にって監督がスカウトしたの。》』

なべ、といつものふわふわした声じゃなく、真剣な声色で乃愛は私に尋ねる。

『《臣と何があったかは、わからないけど、このままが嫌なら、なべが動かなきゃダメだと思う。》』

『……。』

臣と乃愛は私経由で知り合った。
昔、臣と私ともう一人の三人で仲が良かった時代に、その頃既に乃愛とは知り合っていたし同じプロ意識を持つもの同士で気があったから私と違ってコミュ力が高い乃愛が二人と仲良くなるのも早かった。

だけど、"あの時"何があったのかは乃愛は知らないし、聞いてくることもなかった。多分この子なりの優しさなんだと思う。

『《なべは中途半端が大嫌いでしょ!
なべが指導兼振付師として来れば二人の仲も解決して秋組のアクション問題も解決する!一石二鳥!!》』

だからカモン!!と叫ぶ乃愛。うるさい。

けど…この子らしい発破のかけ方だと少し笑ってしまった。

『わかった…但し、素人だからって容赦しないからね。』

こうして、私のMANKAIカンパニー入団が決まった。

監督もいい人そうだし、何より真剣に主宰兼総監督として劇団のことを考えている。

乃愛が気に入るのも何となくわかった気がする。

そして、とうとう秋組メンバーと対面した。

第一印象はガラが悪い。

乃愛から話は聞いてたけどヤクザにヤンキー二人に…臣も地味に元ヤンだし…。顔を真っ赤にしている赤髪の男の子…なんか犬みたいで可愛い。

臣は…昔と比べて雰囲気がだいぶ柔らかくなっていた。

昔から面倒見がよかったし兄貴肌ではあったけど前は少しトゲトゲしてたし。ビックリした顔で私を見ている。まぁ、乃愛が言うはずないしね。

『…渡部 天和です。
指導に関しては一切容赦しないので。よろしく。』

臣と目が合ったけどお互いに会話はなかった。久しぶりすぎて何を話したらいいか分からないし、そもそも話しかけていいのかすらわからない。

とりあえず自己紹介を終えて稽古を見学することになった。この日は初めての台本の読み合わせらしい。乃愛の隣に座って稽古の様子を見る。

『…素人にしては、なかなか粒ぞろいって感じだね。』

『ねー!!』

脚本を読ませてもらったけど、かなり面白い。この本なら私の理想とするアクションを最大限引き出させてくれそうっていう期待感が高まるのがわかる。

ただ…

『…問題は主演のと準主演、か。』

主演の方は一見軽々とこなしているけど目に熱がない。完全に芝居をなめきっている。

対して準主演の方は見事なまでの大根役者ぶりだけど、誰よりも芝居への熱意が伝わってくる。こういうタイプは叩けば叩くほど伸びていくから嫌いじゃない。育て甲斐がある。

なるほど、前途多難って感じかな。

『主演の方、叩きおったらごめんね。』←

『絶対言うと思った!!』←

ぶははー!と笑い転げる乃愛。
ああいう何もかもなめきってます、みたいなタイプを見るとコテンパンにへし折りたくなる。それで折れればそれまで、そこからがむしゃらに伸びれば大きく成長する。天馬が正に後者のタイプだ。

乃愛の周りにはいつも面白いのがいるから本当に飽きない。

臣のこととは別に、これは中々楽しめそうだ、と内心わくわくしながら稽古を見ていた。


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