Discord chord Lisa
そんなの、愛佳が苦しむだけなのに。
酷く身勝手な言葉にそう思ったけど、声には出せなかった。
そうだ、そういう人だった。
自分を容易に犠牲に出来る程、愛佳は優しすぎる人なんだ。
この世界はそんな優しさに対しても等しく残酷なのに。
何か理由があったとしても、その罪を背負って苦しんでいる愛佳。
そんな彼女に、それを言わせた。最低だ。
ごめん、とか。ありがとう、とか色々頭に浮かんで消える。
でもそうじゃない。伝えるべきなのは、そんな一時凌ぎの言葉じゃなくて。
『...分かった。約束する、だから』
「...うん」
『...死にたいと思えないように、置いて行かないで。近くに居て欲しい』
長く口にした覚えのない、「お願い」は心からの祈りだった。
「...置いてかないでって、こっちの台詞だから」
いつの間にか雲から覗いた月明りを、会話も無く、2人で眺めていた。
知っておいて欲しい、と。
愛佳が昔の話を教えてくれたのは空が青み掛って陽の光が差し始めた頃の事。
殺した2人の、1人の話。
「誰もいなくなって欲しくない」という言葉に籠められた、深い、深い後悔の話。
今でもたまに、心は揺らぐ。
嫌いな季節には酷くざわめく。
それでも、置いて居なくなる事は絶対にしないと心に決めた。
それから2年経つ。
私の手首にあれから線は増えていない。