短編
□DRUG
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「まなかー、今何してる?」
『...浮気、かな』
良い雰囲気だったのに。
空気を読まないLINEの着信音に舌打ちをしながら画面を覗けば、そこには茜の名前があった。
「彼女やろ?愛されとーね?」
目の前のねるは身体だけの都合良い関係なのをいいことに他人事で。
ベッドに押し倒されているというのに、甘い声で煽るようにクスクスと笑う。
通話ボタンを押せば、いつもの声でいつもの言葉。
聞き飽きたつまらない会話への導入の台詞。
違うよ茜、私が聞きたいのはそれじゃない。
『...浮気、かな』
ねるを見下ろしながらそう言えば、目の前の顔はキョトンと?マークを頭に浮かべたようだった。
スマホ越しに聞こえる声は、「何それ、冗談やめてよ愛佳」と少し震えた声で。
動揺を確認して、何も言わずに通話を切って通知もオフにしてスマホを投げた。
「なに、愛佳、ねるのこと好きになったと?」
『まさか』
クスクスと笑うほっぺを両手で包んで唇を塞ぐ。
『時間無くなっちゃった。早くイってよ』
「さいてー。相変わらず良か趣味しとーね」
『ありがと。彼女になってみる?』
「絶対嫌。クズやけん」
この家を出るまでに着信履歴は何件溜まるのだろうか。
そして不安に駆られた彼女は、きっと。
「ほんとさいてー、かわいそ」
部屋を出る直前、ねるがそう呟いたのが聞こえた。