長編

□社長と秘書 最終話
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あの日から1ヶ月がたった

秘書をやめて営業に戻ったななは一切社長と会うことがなくなった

社長が避けてるのか

それとも偶然なのか

分からないまま時間だけが過ぎていった


「なーちゃん、どうしたの?」

ぴょこっとななの目の前に出てきたかずみん
かずみんは昔からの同期でななの数少ない友達

「んー、なんでもないで」

「そー?」

「うん、かずみんはどしたん?」

「あ、なーちゃん今日残業ある?」

「ないで〜」

「じゃあ一緒に帰ろ!」

「うん!」






2人でオフィスを出て、くだらない会話をしながらロビーを歩く

「あ、」

「どしたん?」

キラキラした目で指を指すかずみん
その指の先を見るとそこにいたのは、爽やかな男性と楽しそうに笑ってる社長

「あれって…」

「なーちゃんもやっぱ知ってる?⚫⚫会社の息子さんだよね!」

「……」

⚫⚫会社の息子…

この前社長が一緒にご飯を食べた相手だ

なんだ…楽しそうにやっとるやんか…

ただ、楽しそうに話してるだけやのに

なんで

なんでこんなに胸が痛いんだろう

「なーちゃん?!どうしたの?!」

「なにが…?」

「なんで、泣いてるの…?」

瞼を触るとそこは濡れていた

視界もぼやけていく

なんで…

「っ…ごめん」

「なーちゃん…?」

「今日は、帰るな、ごめん」

「え、ちょ、」

かずみんの返事を聞かずにその場から走り去る


なんで、なんで

こんなに胸が痛いの

はち切れそうだ

泣くことなんて何もないのに

どうして










「っ……」





横を通り過ぎた時社長と目が合った気がした






「…はぁっ、はぁっ…」

乱れた息を整えて涙をふく

どうして、ななは泣いてんのやろ

分かってる

自分でももう分かってる

ななは… 社長が好きなんや…

今更気づいた所でどうしようもないのに

だって社長は…⚫⚫会社の息子さんと…





「っ…最悪…」






side mai

昨日、私の横を通り過ぎた時七瀬が泣いていた
理由は分からないけど確かにあの姿は七瀬だった
昨日からその事が頭から離れないままモヤモヤしっぱなし…

「はぁ…」

「ため息は幸せが逃げるよー」

「なんでいるの…」

「コーヒー届けに来たんじゃん」

七瀬が私の秘書をやめてから朝のコーヒーを届けるのは奈々未の仕事になった
朝が苦手な奈々未は、ほとんど毎日昼にコーヒーを持ってくる

「もう届け終わったでしょ、仕事しなさい」

「仕事終わっちゃた」

「…なんでそんな早いの?!」

「早く寝たいんだもん」

「完璧超人め…」

秘書が居なくなって仕事は忙しくなったはずなのに奈々未は何一つミスをせずにハイスピードで終わらせる
それとは裏腹に最近の私はミスしかしてなくて奈々未に迷惑をかけまくり、しまいには部下に心配をされまくる日々

「で?ため息の理由は?」

「…七瀬が、泣いてた…」

「…しーちゃん、また襲ったの?」

「ぶっ…!!!」

程よく冷めたコーヒーを口に含んだ直後、奈々未の発言により私はコーヒー吹き出した
そんな私を見ながらケラケラ笑っている奈々未

「…ゲホッゲホッ…なに、言ってんの?!」

「冗談だよ、焦りすぎ」

冗談でも言っていい事と悪いことがあるでしょ!
って言ってやりたいが奈々未に言っても辞めないから言わない

「あ…最悪…資料が…」

机の上に広がっている資料

その色は見事にコーヒー色に染まっている

「あーあ、なんの資料?」

「営業の…」


まだパソコンでまとめ終わってないものだからこのままじゃ新しい資料を作ることすら出来ない

営業にもう1回取りに行くしかなさそう…

「…奈々未、もう1部、貰ってきて」

「やだよ」

「…上司命令」

「なぁちゃんがやめた時私大変だったんだけどなー」

わざとらしく言う奈々未

「………ばか」

「はいはい、行ってらっしゃい」

そう言われ物理的に背中を押される

営業の方に行くと会っちゃうかもしれないから今まで逃げてきたのに

こんな事で行くはめになるとは…


まぁ自業自得なんだけど…









「着いちゃったよ…」


私の独り言が聞こえたのか1人の社員の子が私の方を振り向く

「あ、社長」

そう言って腰を下げる社員

その子の後ろには七瀬が居てコーヒーを運んでいる姿が目に入る

課長の方に向かってるから課長に渡すのかな

あのコーヒーを毎日飲むのは私だったのに
なんてくだらないことが頭によぎる

コーヒーを運んでいる七瀬を見ると、七瀬が秘書だった頃を思い出してしまう

1か月前のことなのに随分昔に感じて…

なんて考えながらボーッと見つめていると課長が私に気づいたのか突然立ちだしこちらに向かってくる。
突然の課長の行動に七瀬は反応しきれず、課長とぶつかる

ガシャン


コーヒーが入っていたマグカップが割れた音が全体に響く


「あつっ…」

辺りは騒がしいのに
七瀬の弱々しい声だけが私の耳に届く

そうだ

熱いに決まってる

淹れたてのコーヒーが手にこぼれたら大火傷するかもしれない

そう考えたら身体が勝手に動き

右手を抱え込んでうずくまってる七瀬の方へ駆け寄り


「七瀬、大丈夫?…熱い…よね、社長室行こ、冷やさなきゃ」


「社長…?」



七瀬の腕を強引に掴み社長室へ足を進める

なにか言ってるがそんなのどうでもいい









パカッ


社長室にある冷蔵庫を開けて氷を取り出す

その氷を袋に詰め込み七瀬の手に乗っける


「…社長…なんで…」

なんでって…そんなの…

もう会わないって決めたのに
もう関わらないって決めたのに
七瀬に何かあったら身体が勝手に動いちゃう
大好きだから、動いちゃう

なんて言える訳もなくどうしようもない嘘をつく

「…社長として、社員になにかあった、嫌だから普通のことでしょ?」

こうやって人は平然と嘘をつくようになっていくんだ

もう、、全てが嫌になってくる


「社長…」

「じゃあ、私やる事あるから、ゆっくりしてて」

「ま、って…」

腕をぎゅっと掴まれる
暖かくて優しい手

なんで


ねぇ七瀬


もう私なんかに優しくしないでよ


七瀬の方を振り向かず私は口を開く


「七瀬、社長だからって気使わなくていいよ」

「気使ってなんか…」

「私はあんな事したんだよ?もう七瀬に近寄る資格なんてないの」

「そんなんじゃ…」

「同情ならしなくていいから…、好きだったよ?七瀬の事…けど、好きな人傷つけたんだもん、私が許せないよ、だからね、七瀬」

「ちゃうって、言っとるやんっ!!」

【⠀私の事なんて頭から消してくれ】って最低な事を言おうとした。
のに聞いた事のない七瀬の声が聞こえた

思わず振り向くと、涙を溜めている七瀬

泣かないようにと手をギュッと握って唇を震わせてる

私の腕を掴む手もずっと震えていて


「…七瀬…?」

「も…遅いんですか…?なながっ…社長の気持ち、にっ、気付かんかったから…もう、だめなんですかっ…?」

「なに…言ってるの?」

「ななはっ…社長のこと、が、っ…好きです」

七瀬の涙がぽたぽたと絨毯に落ちていく

わからないよ

七瀬

七瀬は何を言ってるの?

私が好き?

わからない、

なんで

なんで七瀬は泣いてるの?

そんな目で見ないで

こんな私のことが好きなわけない

好きた人を傷つけて

怖がらせて

泣かせた

こんな私が…


「…っ、やっ…ぱ、もう遅いんですね…」

「な、なせ」

「今更自分の気持ちに気づいて、ばかみたいですねっ…なな社長のこと、っ、、すきだったみたいです…」

私が好きじゃない笑い方だ

何かを我慢してる笑顔


ここで気持ちを伝えなくてどうする

あの日ほんとは伝えなきゃいけなかった言葉

ここでまた七瀬を傷つけるぐらいなら、
今、言葉を伝えないと


「…七瀬、あの、さ、私は…今でも好きだよ…、ほんとに、ごめんね、こんな上司で…七瀬の事、っ…好きになってごめん…」

「ほんま…に?」

予想してた反応じゃなくてただただ涙を流す七瀬

あぁ、もう、私はどんだけこの子を泣かすんだろう

「ななっ、社長が、好きです…、あの日確かに怖かったけど…何故か怒る気にはなれんくてっ…秘書辞めさせられた時、凄くショックで…」

「…うん」

「きの、う、っ、社長が、息子さんと話してんの見て、なんか心が痛くて、涙がっ…出て、社長はもうななの事好きやないんや、って、ななが前から社長の気持ちに気づけてれば、って」

「……うん」

「今からでも、遅くないですか?…」

遅いわけない


ずっと、ずっと、七瀬のことが好きだったんだから


私は



「七瀬…好きです…っ、こんな私と付き合ってくれませんか…?」


「っ…はい…!」

2人で泣きながら抱きしめ合った
午後の仕事は出ずにただただ2人で泣いていた

「…七瀬、ほんとにこんな私でいいの?」

「社長じゃなきな…やです」

「っ…ありがと…ほんとに…」

「社長、…社長の秘書…に、戻りたいです」

「…いいの?」

「社長とずっと一緒が…いい…」

「…っ、好き…」

「…ありがとうございます///」
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