小説

□忘れられないぐらい
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気分のやつ、

彼女と話さなくなってもう1年がたった
いや、話さなくなったんじゃない
「話せない」のだ。

あの日、とことん大人げがなくて、
自分勝手な言葉を並べて、
後戻り出来ない事を彼女に告げては後々後悔して

これでもかと言うぐらい、私は涙を流した


『忘れられないぐらい』


「はぁ…」

ガヤガヤした居酒屋でため息をこぼす
周りには大好きなメンバーたち
そして右斜め奥には忘れられない彼女

気分屋のいくちゃんの突然のご飯のお誘い
折角だから皆で行こうってなった訳だが…
失敗したみたい。
彼女を視界に入れるのはただただ辛くてそれでも見てしまって、そんな自分に呆れてまたため息が自然にでる

「まーた、なぁちゃん見てるのぉ?」

ぐい、っと耳を掴まれる
その正体はほほを赤く染めた酔っぱらい

「…みさ、もう酔ってるの?」

「酔ってないよ〜、ただぁ、気分がいいだけ!」

「…そう、」

「も〜!まいやん冷たい〜〜!てか!全然お酒進んでないじゃん!」

手元にあるグラスに目を向けるとたしかに…
みさのと見比べると量が圧倒的に違う
違うというより私のは全く減っていない

けど、しょうがないことじゃないか
あれ以来、お酒が怖くて出来ることなら呑みたくないのだから

「まだ、飲まないようにしてるの?」

「…大事な時は、飲むようにしてるよ」

「そうじゃなくて〜」

「みーさ、まいやーん!って、まいやん、ぜんぜん飲んでないねぇ」

「んー、ちょっと、ね」

ヘラヘラと可愛らしい笑顔で私達の元へ寄ってきたいくちゃん。
ぎゅーっと私に抱きついてくるのがたまらなく可愛くて頭を撫でる

「ん〜〜!!まいやん、力強すぎ〜」

「えー、酔ってるのいくちゃんかわいんだもん」

「なら許す〜!で!で!なんでまいやんお酒飲んでないの?」

「まいやん、トラウマあるから」

他人事みたいにニヤニヤしながら、口を開くみさ。なんであなたの口はそんなに軽いの
なんて思いを込めながら睨むけど無駄みたい。だってもっとにやにやしだすんだもん

「トラウマって?」

ほら、興味津々な顔で寄ってきちゃうんだよこの子は

「なんでもないよ〜」

なんてはぐらかすけど頬を膨らませて納得してなさそうな顔。

「教えてくれないの?」

「いやいや〜、まいやんはそんな酷くないよ〜。ねっ?」

キラキラした目でうんうん!と頷くいくちゃん。どれだけニヤニヤすれば気が済むの?ってぐらいにニヤニヤしてるみさ。
あぁ、もう。この酔っぱらい達には何言っても通じないな。なんて諦めながら口を開く

「まったく、面白くないからね?」

「うん!」


元気な返事と共に私はあの日の事を思い出す





七瀬と付き合ってた頃の話だ
七瀬とは3年半ぐらい付き合っていた
そろそろ一緒に住まない?
って私が思い切って言った言葉

そんな私の言葉を聞いて「うん!」とキラキラした笑顔で頷いてくれる彼女が居た

これから幸せな日々が始まるんだろうな、
毎日彼女に癒やされるんだろうな
なんて最初の頃は思っていたんだ


一緒に住んでから2ヶ月目ぐらいの時だった
撮影の仕事で外国に行く事になった私は三日間。家を開けることになった


「ただい…ま、」

「…おかえり」

「…んー、と、七瀬、忙しいのは分かるし怠いのも分かるけど、さ、流石に汚すぎない?」

久しぶりの家で久しぶりの愛しの彼女に会える。そう思って楽しみに開けた扉の向こう。その景色の中で目に入ったのは可愛い彼女の笑顔よりも汚い部屋だった。

「ごめん、…」

「…ご飯は?食べてないの?」

「カップ麺、とか」

「駄目じゃん、もっとちゃんとしたの食べなきゃ」

「ごめんなさい…」

「あと。片付けぐらいしようよ?ね、?」

「けど、」

「けどじゃなくて、」

「…ごめん、なさい」
 
「うん。」

この時から私達の関係は何処かおかしかったのはわかってた。
お互い忙しくて会う時間もなければ、お互いの事を癒やし合うことなんて出来なくて、ストレスばかり溜まってたって。
けど
こんな事が何度も何度も続いてしまったから私も我慢ができなくなって、言ってしまったんだ


「ねぇ、七瀬、いい加減少しは学んでよ」

「別に、部屋、汚くしてないやん、」

「そうじゃなくてさ、」

「じゃあなにがいけないん?」

「ご飯、食べなよ、そんなんじゃ七瀬の体によくないよ?」

「ななの体のことなんて、ええやん!部屋も汚くしてないんやし、そんぐらい」

「よくないよ!私は七瀬が心配で!」

「っ…はぁ…もうええ、なな寝る」

「は?話は終わってないじゃん、」

「…明日、話そ」

そのままリビングから出ていく七瀬
疲れていてあんまり怒れる気にもなれなくて重いため息だけを溢す

きっと、やけ酒だったんだろう
言うこと聞かない七瀬にむしゃくしゃして、何かを飲み込むみたいにお酒を身体の中に流し込んだ。

ガシャン!

トイレに行こうと思って立ったときうまく体に力が入らなくて視界が反転する
前を向いていたはずなのにいつの間にか私の目に映る景色は天井。

「なに、今の音!」

寝室から出てきて焦った顔をする七瀬
けどそんな焦った顔は机の上にある空き缶や、私の顔を見て呆れた顔に変わった

「…なに、しとるん」

「なにっ、て」

「今何時やと思ってるん?」

時計を見上げると今の時間は夜の2時
あぁ、こんなに飲んでいたんだ
そりゃ酔っ払うか。なんて陽気に考える

「ごめん」

「…なんで、まいやんは、ななに色々言うくせに、自分はそうやって、」

「そうやってって、なに」

「お酒だって身体に悪いやん。どうかんがえても飲みすぎやろ」

「疲れてるんだから、お酒ぐらいいいじゃん」

「そんなこといったら、ななだって、疲れてるんだからご飯食べなくてええやん」

「それとこれじゃ」

「いっしょやろ!」

七瀬の大声が耳に響く

「七瀬は!一人じゃ、なんも出来ないじゃん!」

「は?、できるし、ななのこと子供扱いせんといてや」

「できてないから言ってるんじゃん」

「っ…まいやんは、ななのなんなん?」

「彼女、でしょ」

「なら、ええやん、少しぐらいほっといてや」
 
「なに、それ、ほっといたらちゃんと食べるの?」

なんで、そこは優しく信じるって言えばいいのに

「それは…」
 
「できないくせに、言わないでよ」

「っ…ほんま、まいやんななにばっか、グチグチいって、たまぁには信じてくれてもええやん」

「グチグチってなに、じゃあ別れる?」

違う。なんで、こんなこと、誰も望んでないじゃん。こんなの本音じゃないのに。

「私に何か言われるの面倒くさいんでしょ?私も、もう、七瀬のお世話するの面倒くさいよ、」

止まれよ、私の口。
お願いだから

「…わかった」

「っ、え」

「今まで、そう思ってたんやな、」

「っ…そうだよ」

「…そっ、か、なら、ええよ、別れよ…」

視界が滲むのに
違うって言いたいのに
言葉が出なくて、否定すらできなくて

「うん、別れよ」

思ってもない言葉だけが私の口から出てくる

「っ、これで、まいやんは楽になるんやな、よかったな、ななと、別れられて」

「…七瀬こそ、嬉しいでしょ」

「っ…最低っ…」

パチン、

耳に響く前に頬がジンジンする
目を赤くして怒りに震えてる彼女を見てもなにもできなくて、なぜか、私も彼女に同じ事をした。

「っ…」

頬を抑える彼女を見て、涙を溢す彼女を見て、どうしようもなくて、私は家から出ていった





ーーー



話し終わった頃にはやっぱり後悔が押し寄せてくる。あの時と変わらない後悔が。
今考えたら全部私が悪いんだ
彼女が本音であんな事を言うはずがないのに、それにすら気づけなくて、手を上げて、泣かせて。

「っうう、まいやん、そんなことがぁぁ…っ…」

目をうるうるさせながら私を見るいくちゃん
どこで泣く所があったのか… 

「いつ聞いても…まいやんが悪いよね」

「そんなの、知ってるよ…」

「えー…二人とも、お互い様だと思うけどなぁ、私は」

「そんなこと…ないよ」

「…それから、2人はどうなったの?」

「家、私が出てったよ。七瀬が居ないときに荷物を取りに行って、」

「1ヶ月ぐらい私の家に住んでね〜?」

出ていってからすぐは家が見つからないからみさの家にとまらせてもらっていた

「じゃあ、2人はもう話してないの?」

「…話しづらい、ってゆうのかな、多分、もう、一生離話せないよ」

「でも番組とかで話してるじゃん!」

「あれは、仕方なくって、言うのかな」

自分で言ってて悲しくなる
もう、話せないだなんて
仕方なく、なんて嘘ばっかで

「ねぇ、まいやん」

真剣な目をしたみさに見つめられる

「気づいてるんだよ?」

「なにに?、」

「まいやんさ、なぁちゃんが怪我したらバンソコ置いててあげたり、疲れてるだろうからって、スタッフさんに色々言ってるの、なぁちゃん気づいてるんだよ?それに、たまーに哀しそうな顔してるもん」

あぁ。彼女にも、みさにも、ばれていたんだ
まだ未練たらたらですって言ってるようなもんじゃないか。嫌いです。って自分でおもいこんでるのに、もうほんとに、馬鹿だな

「そっ、か、迷惑だよね、辞めたほうがいいよね」

「なんで?」

キョトンとした顔をするいくちゃん

「なんでやめるの?何も言わないってことはさ、なぁちゃんだって嫌なわけじゃないと思うよ?」

「それは、わからないじゃん」

「めんどくさい性格してるね、まいやんっ
て」

呆れられた笑い

私自身も呆れてるんだけどな


「まいやん。これ、一気」

「は?」

みさにぐいっと渡されたお酒
こんなの一気したら久しぶり過ぎて酔うに決まってる

「いいからいいから」

「いや、意味わかんないから、って、っん!!!」

むりやりグラスを口元に押し付けられて口にどんどんお酒が入っていく
体が熱くなってくる
あの日のことが、また、頭に登ってくる

「ぷはっ!!!!っは、死ぬかと、、」

「あー」

いくちゃんのこえ

「…ふふ、まいやん、あれ、」

みさと、いくちゃんが見つめる先
酔っ払ったさゆりちゃんが七瀬にキスをしようとしている
あんなの見せられてどうしろって言うんだ
もう、私と七瀬は付き合ってないのに

『行きなよ、ばかまいやん』
 
二人の声と共に肩を叩かれる
あぁ。もう、酔っ払ってるな
またあの日みたいになるかもしれないのに


彼女の手を引っ張る
なにがなんだかわからない、そんな顔をしている七瀬。そんなのを気にせずに走り出す。
後ろから聞こえるいくちゃんたちの冷やかし

これで拒絶されたら、励ましてよ





「はぁ、はぁ…まい、やん?」

なんて言えばいいんだろう
ごめんって、謝ればいいの?
あの時は本音じゃなくて、なんて

あぁ。なにも思いつかない
ただ、私は貴方といたいだけで、
あなたがいないと、やっぱり無理で

「なぁ、まいやん?、用がないなら、戻るんだけ「もう、」」
 

どれだけ考えてもいい言葉なんて出てこない
ただただ出てくるのは私の欲望だけで

「もう、もどれない、かな」

「…え?」

「ぃや、違う、こんなことが言いたいわけじゃなくて、その、やっぱり、好きなんだってっ、」

「…まいやん?」

涙が止まらない。
久しぶりに見た彼女が綺麗で、可愛すぎて、私を見てることが嬉しくて。

ねぇ、七瀬
一年前、七瀬を傷つけたこと後悔してるんだ 
あんなの私の本音じゃなくて、

言いたいことが沢山あるのに
伝えたいことが、誤りたいことが、沢山あるのに、涙で、緊張で、上手く声が出せない

息をするのすら、しんどくて  

あぁ、やっぱ、だめなのかな
私はやっぱり彼女になにも伝えられないままで、また後悔して、

「大丈夫、だから」

ギュッと抱きしめられる 
もう、なんで、この子は

「っ、七瀬、私、わたしね、っ、…あの日、ずっ、と、後悔してて、馬鹿みたいに、涙流して、七瀬に、誤りたかった、っ…」

うんうん、
って、頷いて聞いてくれる彼女


「ほんとは今でも、っう、好き、で、
あの日、お酒に身を任せて思ってない事言って、別れたくなんてなかった、のにっ、
私が子供だったからっ、、七瀬が心配なのに、うまく言葉が伝えられなくて、。
仕事で溜まったストレスとか、忙しさとか、七瀬に会えない寂しさとか、ぜんぶ、ぜんぶ、我慢すればよかったのに、弱いから、お酒に逃げて、あの時、傷つけた、っ、ごめん、ごめんなさいっ」

震える声で、もう文なんてぐちゃぐちゃで
何を伝えたいのかすらわからなくて
それでも頷いてくれる七瀬

「私、っ、七瀬が、好き。
だから、ななせっ、ごめんなさ、い、」

精一杯のごめんを伝える

「なぁ、まいやん」

「っ、はい」

「ななも、ごめんな?、大人げなくて、ななもストレスとか、まいやんに、ぶつけちゃった」

「そんなこと、」

「ふふ、ええの、これで、仲直りな?」

「…っ、うん」

「これでやっと、言える。バンソコとか、ありがとな?」

「………」

「…まいやん?」

「ぁ、っうん、どういたしまして、…」

「…うん、じゃあ、戻ろ?」

七瀬に手を差し出される
嬉しいのに、何故かその手を掴む事ができなくて
じわじわと彼女への想いが膨らんでくる

もう、ほんとに、酔っ払ってるな

「ななせ、私、七瀬のことすきなの」

「う、うん、…」


「好き、だから、付き合って、くれない?ですか…?」

「…ななたちって、別れてたん?」

「え、だ、だって、家も別々になったし、一年間も話さなかったじゃん?、だから…」

「でも、別れるって言ってないもん」

「…じゃあ、」

「ふふ、まいやん、付き合って?」

「…っうん、荷物持ってかなきゃっ…」

「ふふ、そやな…」

忘れようと思っても忘れられなかった。
けどそれでよかったみたいだ
諦めなくてよかった、忘れなくてよかった。
何年たっても、きっと、私は好きでいられる
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