長編

□社長と秘書 3
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太陽の光が差し込んで目が覚める


「…ん…」


ソファを見たら気持ちよさそうに寝てる七瀬

その周りには七瀬が昨日来てた服と下着が散らばっている

私…最低だ…
昨日の事が頭にフラッシュバックしてくる
私は…あの男と同じことをした
いやあの男より最低なことをした

七瀬の顔を見ると目が腫れている
…私が泣かせたんだ
私が怖がらせたんだ

「ごめん…」


寝ている七瀬にそう呟き私は外へ出た




スーツに着替えるために家に戻ってそうそう私は鞄を思いっきり投げた

ごめん、ごめん、七瀬
いくら呟いてもこの声は誰にも届かない
ただただ後悔が押し寄せてくるだけ
涙をどんなに流しても
どんなに泣き喚いても七瀬には届かない
過去に戻れない

1度も抵抗しなかった七瀬が悪い
私の事を振り払わなかった七瀬が悪い…

違う。

私が…全部…悪いのは…私だっ…

感情に流されて七瀬を襲って

七瀬がどれだけ泣いてるか分かってたのに

七瀬が小さく首を降って抵抗してるって分かってたのに

七瀬が大きく抵抗しなかったのは私が社長だから

社長に抵抗出来るわけないもんね…

ごめん、ごめん、

止めれなくて、感情に流されて

あぁ、もう…

こんな自分が嫌いだ



「ごめんっ…」



ピコン

通知の音が響く

ゆっくり鞄から投げ出された携帯の画面を見る

奈々未からだ…

『しーちゃん、いつもこの時間に来てるのに大丈夫?』

この時間…?

バッと顔を上げて時計を見る
時間は8時…
最悪だ。遅刻。















「しーちゃんが遅刻なんて珍しいね」

「…はぁ…おはよ」

「おはよ」

「どうしたの?」

「別に…」

「とりあえず社長室行こっか」

「…ん」

「はい、コーヒー」

「ありがと…」

「…なぁちゃん、まだ来てないんだけど知らない?」

「………」

「はぁ…」

奈々未のため息と共に肩に手を置かれる。奈々未の顔は真剣で私の目を強く捉える

「…あのね、私、」

「うん」

「…七瀬…襲っちゃった…」



















「…この馬鹿石」

「…分かってるよ、そんぐらいっ…」

「分かってないよ、なんで本人にちゃんと謝らないの?逃げてちゃダメだよ?…」

「…分かってる…けど…」

「しーちゃん、今からでも遅くないから、自分の気持ち、伝えてきな?」

「…だめだよ…っ、もう遅いよ…もうっ…」

「…しーちゃん」

「もっ…前みたいに話せない…社長、って呼ばれることもなくなるかもしれないっ…」

「しーちゃん!」

「…っ…」

「戻れなくても…後悔したままじゃ嫌でしょ?」

「…っ…私は…」

「…大丈夫だから…」

子供を宥めるように私の頭を撫でる奈々未
大丈夫だから、って何度も呟いて

こんな私に優しくしちゃダメなのに…







コンコン


控えめに扉をノックする音

七瀬だ…

私の顔はもうぐちゃぐちゃで言葉を発せられる状況じゃなかった

「…失礼します…」

いつもよりか弱い声が耳に響く

なんで来たの?

なんで…

「なぁちゃん」

「…副社長…?」

「あの馬鹿…任せたよ?」

「………はい」

奈々未と七瀬が入れ替わりになり七瀬が部屋に入る


「…遅刻してすみません」

「…七瀬っ」

七瀬に1歩足を出すとビクッと身体を震わせる七瀬
怯えた目で瞳には涙を貯めている

「っ…ごめん、ごめんなさい」

床に膝をつけて頭を床に押し付ける

こんなので許してもらおうなんて思ってない

けど…謝らなきゃ…

「ごめん、っ、七瀬がっ…怯えてたのに…あんな事して…ごめんなさいっ…こんな上司で…ごめん…っ…七瀬を…好きになって…ごめんなさい」

私の鼻をすする音だけが部屋に響く

何も言葉を発さない七瀬

やっぱ…許してもらえないよね

大丈夫。
分かってたことだ。
大丈夫だから…泣くな…頼むから…私の涙止まってよ…

「……な、なせ…秘書…やめたいよね、ごめん…辞めていいから、前いたっ…営業に戻すからっ…ほんとに…ごめんなさいっ…」

「社長…ななは…」

「何も言わないで出てって…ほしい…また後日…ちゃんと話すから…ごめん…」

「…はい」


短く返事をして七瀬は部屋から出ていった


朝、散々泣き喚いたのに
涙は止まらない、七瀬の声を聞くだけで
七瀬の顔を見るだけで涙が止まらなかった

「七瀬を…好きにならなければよかった…っ


1人虚しい部屋で、その言葉だけが響いた









「…なぁちゃんを営業に戻す?」

「うん…」

「……」

「ごめん…」

「はぁ…いいよ、社長が決めたことなんだから」

パソコンを弄りながらそう言う奈々未

「ありがと…」

「いいよ、その分仕事頑張ってね」

「うん」

頑張るよ

恋なんてする暇もないぐらいに本気で
七瀬を思い出す時間なんてないぐらいに
頑張るから


手続きは早い方が楽だと言うから話し合いは結局今日することになった
今の私は社長だ。
全力で…社長を演じよう…
七瀬が尊敬してた…社長に

コンコン

「…はい」

「失礼します…」

「そこに座って」

「…あの、社長話って…」

「…西野さん」

「っ……」

「…営業に戻ってくれますか?」

「…次の秘書は誰に…」

「まだ決まってないけど、大丈夫だから、ごめんね今まで西野さんに迷惑かけて」

「……ごめんなさい」

「…っ、なんで…七瀬が謝るの…?私が…全部悪いのに…」

「……」

「…ごめん、もう話は終わり、戻っていいよ」

「……はい、失礼しました」





終わった
私の恋も、七瀬と話す事も、今日で全て

「…好きだったよ…」



side 七瀬

朝起きたら社長はもう家に居なかった
目は酷く腫れていて、身体は重いし
腰は痛い
これだけで昨日の事は嘘じゃな言ってわかる

涙を流しながら何度もキスをしてきた

ごめんって言いながら何度もななを襲ってきた

いくらチャラいからって社長はそんな人じゃない

社長、なんでですか…?

社長は…なんで、ななに……









無断欠勤は駄目だと分かってるから遅れながらも会社に到着
いつもなら長いと思う社長室までの廊下は今日はやけに短く感じてくる


普段は簡単に扉をノックできるのに今日は手が震えていてノックができない

やっとの思いで扉を軽く叩く

コンコン


「失礼します…」


震える声で言葉を発する

社長を見るとなんで?と言いたげな顔をしている


副社長がななに近づいてくる

「なぁちゃん」

「…副社長…?」

「あの馬鹿…任せたよ?」

「………はい」

副社長と入れ替わりで部屋に入る

「…遅刻してすみません」

「…七瀬っ」

社長がななを見て足を1歩前に出す
それだけの事なのに身体は自然に震える
社長の目は悲しそうで涙を溜めている


「っ…ごめん、ごめんなさい」

床に手を着いて深く頭を下げる社長

どうすればいいのか分からなくて何も言葉ができない

ただただボーっと社長を見つめてると震えた声で口を開く社長

「ごめん、っ、七瀬がっ…怯えてたのに…あんな事して…ごめんなさいっ…こんな上司で…ごめん…っ…七瀬を…好きになって…ごめんなさい」

…七瀬を好きになってごめんなさい?…

それやと社長はななを好きってことになる…

そんなはずない。って思うけどもし、ななの事を好きなのなら昨日の行動は納得が出来る

なんだ…
全部ななが悪いんだ

社長は悪くない…

いつも冗談だと受け流して社長の気持ちを無視したななが悪い

気持ちに気づけなかったななが悪い

ごめんなさい

瞼が暑くなっていく

社長のせいじゃないです
って言いたいのに、声が出ない

社長室には、社長の鼻をすする音だけが響いている




「……な、なせ…秘書…やめたいよね、ごめん…辞めていいから、前いたっ…営業に戻すからっ…ほんとに…ごめんなさいっ…」



「社長…ななは…」

「何も言わないで出てって…ほしい…また後日…ちゃんと話すから…ごめん…」

弱虫なななはなんて言えばわからなくて素直に返事をしてしまう

こんな自分が嫌いだ

人を傷つけて自分だけ被害者ずらして

最悪だ…

「…はい」


小さく返事を呟き部屋から出ていった

昨日の社長の事を思い出すと涙が溢れ出てくる

社長が涙を流してた理由は
社長がごめんって言った理由は


全部……






ななのせいだ


「っ……」

膝から崩れ落ちるようにしゃがみこみ涙を抑える

けど



「七瀬を…好きにならなければよかった…っ」

扉の向こうから聞こえてきたその言葉にさらに涙が溢れるだけだった




あの後社長に呼び出されたにななは正式に秘書を辞めで営業に戻ることになった
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