長編

□社長と秘書 2
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今日は仕事を早く切上げて家に1回帰るために荷物をまとめる


コンコン

「七瀬?」

「なぁちゃんじゃなくてごめんね」

「奈々未…」

「今から?」

「ううん、1回家帰って着替えようかなって」

「あぁ…さすがにスーツのままじゃあれだもんね」

「うん」

「しーちゃんのタイプな人だったらいいね」

笑いながらそういう奈々未
タイプ…か…
私の今のタイプは七瀬だけなのに

だめだ。七瀬の事を諦める為の今日だ

七瀬の事を考えないように軽く首を横に振る

「しーちゃん?」

「ん?」

「なんでもない、頑張ってね」

「うん、ありがと」

奈々未にそう告げて鞄を持って部屋を出る






「あ、社長」

「七瀬」

「もう帰るんですか?」

「うん、ごめんね?」

「大丈夫です、たまぁにはゆっくり休んでくださいね」

「ありがと、七瀬もね?」

「ななは社長のお陰でゆっくり休めてますよ」

はにかんだ笑顔で言う七瀬
あぁ…好きだな

些細なことで好きって思ってしまうから
恋はなんて厄介なんだ…


「じゃ、また明日ね」

「はい、気をつけて!」














約束の時間は7時。
10分前になるように家を早めに出たから
ピッタリ10分前

「…白石さん?ですか…?」

「…はい?あ、…社長の息子さん…?」

「はい、そうです、こんばんは」

「こんばんは」

社長の息子は想像してたよりスっとしていて爽やかな感じの人。
優しそうで仕事が出来そうでいかにもモテる男の人。とゆう感じだ

「白石さん…聞いてたよりずっと美人ですね」

「そんなことないですよ」

笑いながらそう返すと、いやいややばいですよ、ってオーバリアクションをする彼。
くだらない話をしながら夜の街中を歩いていく

「あ、ここです、ここ美味しいイタリアンらしいんですけど…白石さんイタリア料理大丈夫ですか?」

彼が紹介した店は、そんなにお店に興味がないほどの私でも知ってるような有名な高級店だった
オレンジの光が目に刺さって眩しい
そんなことを思いながら彼の方を振り返る

「ここ、高いですけど…大丈夫ですか?」

お金のことを気にするなんて失礼かもしれないけど流石にここは心配になる…
私は居酒屋とかでも大丈夫なのに…

「ははっ…大丈夫ですよ、白石さんが良ければ、ここで食べませんか?」

「じゃあ…」

「よかった、行きましょっか」

猫みたいに優しく笑う彼
ナチュラルに私に手を差し出してくる
断るのも申し訳なくて差し出された手を握る

「すみません…予約した………です」

店内もオレンジ色の光で雰囲気もいい。
ワインの匂いが少し鼻をかすめる
お客さんは皆高そうな服を着ている
よかった…。服着替えてて…

「凄い美味しい匂いしますね」

「そうですね」

「僕、こうゆうお店全く来ないんですよね」

以外だ…
高そな所ばかり来てそうなのに感じがするのに

「そうなんですか?」

「はい、僕、普通の飲み屋の方が好きなんで…白石さんはそうゆうのダメそうなイメージがあって…」

そう言って頭をポリポリかく彼

「私も、私も飲み屋結構行きます」

「ほんとですか?!嬉しいな〜…」

本気で嬉しそうに話し出す彼

料理が来た時は2人して美味しそう!とはしゃぎ

お酒が来た時はすご…とか美味しい…感心しね

楽しい時間を過ごした

彼と話すのは楽しかった
凄いいい人だし優しい人
気が合うし話しやすい人

けど

「動物 」って単語が出たら七瀬が頭に思い浮かぶし

好きなタイプを聞かれても七瀬が思い浮かぶ

なんだ…。彼がどんなにいい人でも私は七瀬の事を諦められないじゃん…











「今日は楽しかったです」

「僕も楽しかったです、ありがとうございました」

「では…失礼します」

「あ、その前に…連絡先交換しません…?」

「あ、ぜひ…」




「ありがとうございます、では…お気をつけて!」

元気な声を出して彼は走っていった

先約あったのかな?
それなら悪いことしたかな…
なんて考えながら私も前に足を進める

普段飲まないワインを飲んだから少しだけ気分が良くて頭がふわふわする
彼がいる前で普通に出来てよかった

商店街を通っているとある男女の2人が目に入る

「…七瀬?」

七瀬と…知らない男性が一緒にいる

なんだ…。
七瀬彼氏いたんだ…
そういえば1回も聞いたことなかったな
馬鹿だな私…。
告白する前に勝手に振られて
諦めるも何もないじゃん…

気づいたら頬に熱いものが流れてくる

「っ…好きだったのになー…」

涙を堪えて元の道を戻ろうと後ろを振り返り1歩足を踏み出そうとした…が

「…や…」


幻聴かもしれないような小さな声

その声で足が止まる

ゆっくり声がした方を見ると路地裏の方で七瀬が男に手首を掴まれて壁ドンをされている

七瀬の嫌がり方はとてもカップルといえるようなものではない。男の唇と七瀬の唇が重なった瞬間七瀬は涙を流しだした

何も考えられなくなり七瀬のいる方へ走り出す

男の手は七瀬の服の中に入っていく

手が入った瞬間首を振りながらさっきよ涙を流す七瀬

「七瀬!」

七瀬に彼氏がいるとか、諦めるとか、そんなのもう頭になくて大きな声で七瀬の名前を呼ぶ

涙を流しながらこっちを見る七瀬と
ビクッと肩を震わせてこちらを見る男

「…しゃ、しゃちょ…うっ…?」

男の手を掴んで七瀬から離させる

「…あんた私の大事な部下になにやってんの?」

自分でもビックリするぐらい低い声が出た
こんなに怒るほど私は七瀬が好きなのか…
嫌になってくる…

「…別に」

「…次、七瀬に近寄ったらあんたをこの世界で生きれなくするから」

「…は?」

「本気だから、早くどっかいけ」

男を全力で睨む

「分かったよ…」

そう言って男は走り去って行った

後ろを振り向くとしゃがみこんで涙を流している七瀬

「七瀬、もう大丈夫だよ」

「っ、こわかっ…たっ…うぐっ…」

「うん、うん…」

まだ肩を振るわせている七瀬を強く抱きしめる
また七瀬が誰かにこんな目に合わせられる前に
七瀬が誰かに傷つけられる前に
私が七瀬を奪ってしまえばいいんだ

こんな時にそんな考えが頭に浮かぶ自分に苛立ちがたまらない…



「落ち着いた…?」

「は、い…ごめんなさい…」

「もういいよ、1人で帰らせるのも心配だし…家まで送ってくよ…」

「…社長にそんなこと…申し訳ないです…」

「いいから、上司命令 」




近くにタクシーを呼び2人でタクシーに乗る
無言のまま下を向いている七瀬

「なな…、友達だと思ってたんです…」

ゆっくり口を開いて喋り出す七瀬
手は微かに震えていてその手をぎゅっと握る
1回こっちを見て驚いた顔をする七瀬
大丈夫だよ、って目で訴えかけると少しうなづく七瀬

「…それで、今日2人で飲もって言われて…」

「うん」

「最初は普通やったのに…帰り、急に好きって…言われて、腕を掴まれてっ…」

「うん…」

「怖かった…社長がっ…来てくれへんかったら…」

「うん…」

「ありがとうございましたっ…」

違うんだよ七瀬
私は…七瀬のことが好きだから守ったんだよ
ただの下心
私はその男と一緒なんだよ
好きでたまらないのに…
普通の時じゃ気持ちを伝えられない…




「代金、8700円となります」

「はい」

財布から1万円札を出して差し出す

「社長、ななが出しますよ…」

「いいからいいから」

お釣りを受け取って外に出る
外に出た瞬間冷たい風が頬をかする

「じゃあ、私もそろそろ帰らなきゃ」

「社長、この時間に帰るんですか…?」

「この時間って言ってもまだ0時前よ?」

「でもっ…危ないですよ…ななの家…来ませんか?お礼もしたいし…」

「……じゃあそうする」

七瀬のそんな顔をみて私が断れるわけもなく
素直に七瀬と一緒に部屋に入っていく

「狭いですけど…」

「大丈夫、ありがと」

「社長…ほんとにありがとうございました」

「もういいって…七瀬はもっと…ガード強くした方がいいよ?」

「でもなななんかが人に好かれる訳ないし…」

「…それでさっき襲われかけたんでしょ?」

「そうやけど…酔っ払っとったし…」

「はぁ…七瀬は酔っ払ってたらなんでも許すの?」

「…酔っ払っとったらその人は悪くない…から」

「…あんなに怖がってたのに許しちゃうの?」

「………」

コクン と首を縦にふる七瀬

なんだそれ

あんなに怯えてたのに

あんなに泣いてたのに

あんなに私に感謝してたのに


七瀬は…


許しちゃうの?


七瀬は優しすぎる
その気持ちが七瀬の事を好きな人を狂わすんだ
さっきの男のは悪くない

「それ…七瀬が全部悪いよ」

「…へ?」

「酔っ払ってたら付き合ってなくてもキス、許しちゃうんでしょ?」

「ちが…」

「酔っ払ってたら付き合ってなくてもそういうことしても許しちゃうんでしょ?」

「社長…?」

七瀬の目を真っ直ぐ見つめる
あぁ…そんな泣きそうな顔をしないでよ

悪いのは我慢できない私なんだよ

けどその優しさで他人を拒めない七瀬も悪いよ

「七瀬、私も、酔っ払ってるから、許してくれるよね?」

「え…?」

そういって七瀬をソファに押し倒す
上から見下ろす七瀬はすごく儚げで触れたら壊れてしまいそうで…


なにか言いたそうな顔で私をを見上げる七瀬

そんなのを気にせず七瀬の唇に唇を重ねる

「んっ…」

ごめん。ごめん。

こんな私が上司でごめん

明日になったら何もないようにさせて…

酔っ払ったせいにさせて

私が悪いのに

涙が溢れ出てくる

こんな風にしか気持ちを伝えられない自分が
七瀬を傷つけてる自分が…大っ嫌いだ


「んんっ…!しゃ、ちょう…?」

「ごめんっ…」


七瀬の服に手を入れる
七瀬は反抗をしないで首を振るだけ
涙を流して、私を怯えたような顔で見るだけ


ごめん

こんな私でごめんね……
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