長編

□社長と秘書 1
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side Nanase

コンコン

茶色い大きな扉を軽くノックする

「はい」

「失礼します、朝のコーヒーです」

ななの日課は社長に朝のコーヒーを
届ける事から始まる
社長の秘書になってから1年
最初は憂鬱だったけど今はもう慣れている

けど慣れてないことが未だに1つ…

「ありがと、ねぇ七瀬」

「はい」

「好きだよ」

そう、これだ
社長はななに毎朝「好き」と言う
冗談だと分かってても、ななは慣れない
1年も一緒にいるのだから社長がどんな人
なのかは分かってる。
可愛い人にはすぐ可愛いって言うし、副社長の橋本さんにはいつも好き、と言っている
そう。社長はチャラい。
けどやる時はやる人で優しくて部下に愛される人。
そんな人だからななはこの人の秘書を続けられる

「社長…いつもの冗談はいいですよ」

「…冗談じゃないのに〜」

「はいはい」

毎朝言われてるにも関わらず慣れないななは恥ずかしくて冷たくあしらう。それもいつもの事

「も〜…七瀬、今日の予定は?」

「今日は⚫⚫会社の社長さんがこちらに来るようです」

「それだけ?」

「はい、あとは副社長が昨日のうちに終わらせてしまいました…」

「…りょうかい」

副社長の橋本さんは社長の同級生らしくすごく仲がいい。副社長は仕事が早くてかっこいい
部下にすごい憧れられてる

「はぁ…⚫⚫会社か…嫌だな…」

社長が珍しく仕事の愚痴をこぼす

「嫌なんですか?」

「うん…あの人しつこいから…」

「しつこい?」

「そ、息子と結婚してくれって」

「あー…」

社長は美人だし仕事もできるし優しいし…
そうゆう話が出るのは当たり前かも…

「七瀬が私と付き合ってくれれば結婚なて話出ないのに〜」

「何言ってるんですか…、ななが社長とお付き合いなんて…恐れ多いですよ」

「なにそれ…そろそろ部屋、行くね」

「あ、は、はい!」




side mai

私は七瀬が好きだ
恋愛的な意味で本気で好き
毎朝好きって言ってるけど七瀬は信じてくれない。
ふざけながら言ってる私が悪いんだけど…
けど振られて部下と上司の関係が壊れるのは嫌だ
振られるならずっとそばにいてもらえるこの関係でいい






「白石くん、待たせたかな?」

「いえ…ぜんぜん」

⚫⚫会社の社長はもう60後半で凄い優しい
雰囲気も暖かくてほっとする

「いつも通り美人ですな」

と笑いながら言う社長

「ありがとうございます…」

「今日は改まって話があって」

「なんですか?」

「以前話した私の息子と結婚を前提に付き合わないか?」

やっぱり…
なんの話かだいたい予想はついていた。いつもは後ろに1人は部下が居るのに今日は誰もいない

「…それは…」

「ゆっくり考えて貰って構わないが君は女性だ…女性にこの世界は厳しいと思うんだがな…」

女性…
この世界に入る時色んな人に言われてきた
女なんかに務まるか、とか
女に指図されるのか、とか
仕事できるできないに性別なんて関係ないのにみんなそう言う

「…少し、時間をください」

「分かった、じゃあ今日は失礼するよ」

「はい…」

広い静かな部屋に1人取り残される私

いい機会なのかもしれない

七瀬を諦めるいい機会

七瀬が私の秘書になったのは私が社長になってから3ヶ月目の頃だった

社内で七瀬を見かけた時私は一目惚れをした

そこで奈々未に頼んで仕事の成績について教えて貰った

仕事の成績はそこそこだけど、他会社から凄い信頼されていた。彼女がどんなミスをしても皆、笑顔で許している

そんな七瀬に恋をしてしまった私は彼女を秘書に指名した

秘書になったばかりの七瀬はなれない仕事ばかりですぐ泣きだしそうだったけど私の前では絶対泣かなかった
そんな知らなかった彼女の一面を新たに知って更に好きになってしまった

そこから1年
七瀬に猛アピールしてるけど七瀬は一切本気にしない
いい加減諦めなきゃいけないのかも…



コンコン

控えめに扉をノックする音

あぁ…七瀬だ…

「失礼します」

「……」

「社長?」

「…ん?」

「なにか、ありました?」

「ううん、なにもないよ」

「そうですか…どうでした?話」

「んー…やっぱ息子と付き合ってくれ、って話だったよ」

「そうですか…いいじゃないんですか?あの社長の息子さん顔も良くて仕事もよくできるって皆言ってましたよ」

「…七瀬は私に結婚して欲しい?」

「ななは…社長が幸せになる道を選べばいいと思ってます」

へへっ、て笑う七瀬
…七瀬、私の幸せは君と付き合うことだよ。って言えたらいいのにな…言えるはずないけど…

「っ…ありがとね、七瀬」











「…で?なんで私の部屋に来るの?」

「奈々未が仕事終わらせちゃったから暇なの!」

「え、感謝の言葉は?」

「…ありがと」

「いえいえ、で?」

仕事中に部屋に押しかけてもなんだかんだ話を聞いてくれる奈々未
やっぱり持つべきは友!

「あそこの社長が息子と結婚しないかって」

「それこの前聞いた」

「…いい加減七瀬の事諦めた方がいいのかな?」

「…知らないよそんな事」

「ねぇ〜!」

「逆にさ、諦められるの?」

「…多分」

「はぁ…」

「諦められなくても…諦めなきゃ」

「そこまでしなくていいと思うけど…1回その息子さんと会ってみたら?」

「…会うの…?」

「会ってみて好きになれそうなら諦めればいいよ」

「…わかった」

「大丈夫だよ、しーちゃんのやりたいとおりにやりな」

「うん…」

「だから、はい」

そう言って私の方に手を差し出す奈々未
え、相談料…?

「なわけないでしょ、あと声に出てるから」

「え、じゃあなに?」

「いいから、携帯貸して」

「はい…」

ポケットから白色のスマホを取り出し奈々未の手の上に乗っける
受け取った奈々未はポチポチといじり始める
打つスピードが早すぎて何を打っているか全くわからない

「ねぇ奈々未、なにやってんの〜?」

「ちょっと黙ってて〜」




「はい、返す」

「ありがと」

返されたスマホの画面を見ると開かれているのは⚫⚫会社の社長とのLINE一覧

『突然すみません。今日社長に言ってもらった事を考えたんですが1度、息子さんとお会いさせもらってもよろしいでしょうか?』




「え、奈々未これ送ったの?!」

「うん」

「心の準備ってのが!」

「だからヘタレなんだよしーちゃんは」

「そんなことないもん…あ…既読ついた」

「お〜…早いね」


『全然大丈夫ですよ。息子にも話してみます』



「よかったじゃん」

「よくないよ…」

「まぁ…頑張って」

「ばか…。」



この日のLINEのやり取りはこれだけで終わった





次の日私の携帯に1件のLINEが届いた


『突然で悪いんですが明日息子とご飯大丈夫ですか?』


「…明日…」


コンコン

タイミングよく響く扉をノックする音


「失礼します、社長コーヒーです」

「ん、ありがと」

「珍しいですね、社長が朝から携帯触るなんて」

「まぁ…あ、七瀬」

「はい」

「明日の夜の予定聞いていい?」

「明日ですか…?えっと…明日は特に何も無いですよ?」

「そっか…分かった、ありがと」

「誰かとお食事ですか?」

「ん?うん、そう、息子さんとね」

「そうなんですか!楽しんでください!」

「…うん、ありがと」

「じゃあななはこれで…失礼しま…」

「あ、待って」

「はい?」

「七瀬、好きだよ」

七瀬が固まる



あ…しまった。
いつもふざけた感じで言うのに…
今日は真面目に言っちゃったかも…。まぁいいや
明日の事も全て七瀬の事を諦める為だし…

「…またいつもの冗談ですか?」

…やっぱり信じてくれないよね
簡単に好きって言えるのになんで私は真面目に
「告白」ができないんだろ…

「も〜…冗談じゃないって〜」

笑いながら言うとホッとしたような顔をする七瀬
やっぱ迷惑なのかな
そうだよね
私は七瀬のただの上司だもん…


「じゃあ…そろそろ失礼します…」

「あ、うん、ありがと」

「はい」

部屋からいなくなった七瀬を見届けて携帯に手をかける

さっききたメッセージに返信を送る


『了解です。明日で大丈夫です』
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