短文

□いちごいちえ
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今夜、二人きりで花見をしよう。
そう言い出したのは真島さんで、お祭り騒ぎが好きな彼や彼の舎弟の事を考えるとそんな言葉がとても珍しかった。
だからこそ、この機会を逃しては二度とそんなことをいってくれないのではないか?そう思い二つ返事でオーケーを出し、今は来る夜桜花見の為に二人で買い出し中。

「真島さんは何食べたいですか?」

「なんでもええで。名前ちゃんが作る飯は何でも美味しいからのう。」

独特な話し方でニンマリとこちらを向く真島さん。

「何でも、ですかー。うーん・・・」

悩んで歩いていると視界の端に赤色がちらついた。
ふと見てみると『春の苺フェア』とかかれた看板と共に宝石のような苺達が様々な色のクリームにおとなしく座っていた。
キラキラキラと輝くそれらに視線を奪われていると隣から「欲しいなら買うで?」とお声。

「いえ、買い出しが優先です!そうだ、手まり寿司なんてどうです?」

なんて誤魔化した。
花より団子な女なんて少し恥ずかしい。
ちょっぴり名残惜しさを感じながら、その場を早足で去った。


ーーーーーーーーーーーー・・・・・

夜でも咲き誇るそれらは本当に美しかった。
ライトアップされている花はもちろんの事、明かりの当たっていない花も、独自の明るさを滲み出しているようでとても趣が深かった。

「夜桜はええのう。なんや、滾ってくるわ。」

「ふふ、そうですね・・・」

ひらりひらりと舞う花びらとそれを見上げ慈しみながら酒をのむ真島さんは本当に絵になる。

「なんや、名前ちゃんは桜よりワシを見とるやないか。そない見られたら照れるわぁ」

ヒーヒッヒと照れたそぶりなんか見せずに真島さんはからかい笑う。

「親父ーーーっ!!!」

遠くからこちらに向けての叫びが聞こえた。
声のした方へ振り向くと西田さんが小さな箱を大事そうに抱えて走って来ていた。

「ああ?なんや、西田。せっかくの二人っきりを邪魔しおって。」

「何じゃありませんよ。いきなりこれ買ってこの時間に持ってこいって言ったの親父じゃないっすか!」

「空気をよめや、ドアホ!」

真島さんは素早く立ち上がると、西田さんの両頬を片手で掴みあげ彼を見下す。

「ちょ、真島さん。せっかく言いつけ通りに来てくださったんですから!それで、どうしたんです?西田さん。」

「ふぁい、ほぉれ、あにぇしゃんに・・・」

「何言うとるんかさっぱりや。」

乱暴に手を離す真島さんに西田さんはもう涙目。

「すんません。で、これ、親父から姉さんにとの事です。じゃあ自分はこれで!おじゃましました!」

すたこらさっさと西田さんは走っていった。
渡されたのは小さな花模様が入った白い箱。

「?」

「あけてみろや。」

言われた通りゆっくりと箱を開けると中には色とりどりのケーキと苺が・・・ぐちゃぐちゃになって入っていた。

「ぁあ?何でこないぐちゃぐちゃになっとんねん!!」

「ぶっ、っくふふ・・・」

怒りを露に真島さんは携帯を取り出す。
それを慌てて制しながら堪えきれずに笑ってしまった。

「ふ、ま、まじまさん。ちょ、許しましょ・・・だって凄く急いで来てたから・・・ふふ、しょうがない」

ふひ、と少し気持ちの悪い笑い声も漏らしてしまいつつこちらの主張を上げる。

「せやけど・・・」

「このままでも食べれますし、二人で味の分けっこできますから・・・ね?こんなケーキ二度と食べれない・・・っふふ・・・ですし」

きっと一分一秒でも遅れれば殺すと言うような勢いで真島さんは西田さんに言ったはずだ。
ならこうなってしまうのも仕方ない。

「・・・はあ、面白かった。それに、真島さん。綺麗なケーキでなくとも私はあなたの気持ちがとても嬉しいんです。」

ほんと、人をいつも驚かしてくれる。読めない人。

人差し指で箱に付いたクリームをひと掬いし、彼の口元へ差し出す。

「これも一期一会です。苺だけに♪」

「はあ、なんや冷えてきたのう。」

なんて皮肉めいた事を言いながらぱくりと指は飲み込まれた。


【いちごいちえ】


「ちょ、いつまで舐めてるんですか!」

「んん?そういうことやろ?」

「何が・・・っ」

「クリームプレイが存分にできるっちゅう話やろ?名前ちゃんのえっち。」

この後落ち着いた場所で一年中見られる桜で花見をすることになったのは言うまでもない。



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