短文

□追い詰めるのは
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気がついたら後ろが壁だった。
前からはよく知ってるはずの真島さんと少し違う人が迫ってきている。

「逃げんなや。」

そう言って追い付いた貴方は首筋に唇を寄せる。
熱っぽく、ねちっぽく、そして攻撃的に歯をたてる。
それだのになぜ、痛くなく心地よく・・・

(気持ちいい・・・もっと・・・)
「もっと・・・まじまさん・・・」

唇が首もとから離れ、知っている姿より幾分短くなった彼の髪が頬を撫でる。

「こうされるのが、ええんか?名前。」

それは低く頭から爪先で突き抜けるような声で・・・

「うん。声も、もっと・・・聞かせて・・・好き・・・」

そうして彼でないような彼は喉奥でヒヒヒと笑いベロリと私の耳を舐めあげて

『愛しとる』

と呟いた。

ーーーーーーーーーーー・・・・・

最後だけ、最後だけは呟いたような声だったはずなのに凄く鮮明に聞こえた気がする。

目を開けるとそこは自分の家・・・ではなくて自分の職場、サンシャインのバックルームだった。

「あれ・・・何で・・・」

なんでここで寝てたんだっけ?
そう思いながらキョロキョロと周りを見ていたらガチャリとドアが開く。

「おう、名前ちゃん起きたんか。良かったわ。」

「あ、真島さん?」

あれ?真島さんって前髪・・・あ、そっか。さっきのは夢か。

「どないしたんや?まさか・・・『ここはどこ?私は誰?』なんて言わんやろなぁ!?」

「それは大丈夫?です。たぶん。ただなんでここで寝てたのかわからなくって・・・。」

真島さんは「はぁ・・・」とため息をつくと私の隣に座る。
そしてその大きな手が側頭部に添えられる。

(・・・!??)

何かを探るように手を動かすととある一点でピリッとした痛みが走る。

「コブにはなってへんようやな。名前ちゃんはユキちゃんとぶつかったんや。」

「あ・・・」

そういえばそうだった。
ユキちゃんが遅刻ギリギリで扉を開けて、ちょうど入り口付近に私がいたから・・・

「ご心配おかけしました・・・!」

「ええんや。大事にならんで良かったわ。せやけど、今日は様子見でもう帰り。送ったる。」

真島さんは私の手を引いて立ち上がる。

「・・・あと、寝言には気を付けた方がええで。」

ゆっくりと振り向いた彼はまるで夢の中の彼のようでーーー

【追い詰めるのは】

彼か、自分自身か・・・




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