短文

□指先から香る
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12月23日
すれ違う人々は翌日のビッグイベントに浮足立っている、そんな中・・・

「じゃあな。」

1組のカップルが別れた。


−−−−−−−−−−・・・・・

「『じゃあな』じゃないっつーの!!!」

ガンっとカウンターにグラスがたたきつけられる。

「名前、落ち着いて。気持ちはわかるけど・・・」

アコは名前の様子に腕を組んでどうしたものかと思考を巡らせる。

「クリスマス直前だよ!?こっちはもうその気満々だよ!?浮気なんて見て見ぬふりしてたのにさ、結局そっち行くんかい!って・・・うぅ・・・ぐすっ」

怒り上戸の後は泣き上戸。

「・・・アコちゃん、おかわり。」

「いい加減にしなさい、飲み過ぎよ。」

「やーだ!くれなきゃアコちゃんにチューするよ!」

変な脅しをかわしながらアコは状況をいい方向へ持っていけないものかと考える。

「・・・ママ、約束通り来たで。」

名前がアコにカウンター越しでつかみかかろうとしたその時、派手な装いの者が入ってくる。
ショッキングピンクのパイソン柄ドレス、キラキラ光る金髪、その間には見えていいはずがない紋々ががっつり見えている。
隻眼から光るギラリとした視線はどこからどう見てもカタギではない。

「ゴロ美、いい所に来たわ。この子を頼みたいのだけど・・・」

「なに〜?新人〜?」

ゴロ美と呼ばれたその者は名前の隣にどっかりと座る。

「どうも、ゴロ美でぇす☆」

「・・・はぁ・・・アコちゃん、この人素人?」

明らかに只者ではない隣の人物に対し、名前は人差し指を向け、ため息をつく。

「あん?なにがや。」

「ゴロ美ちゃんでしたっけ?アコちゃんも髭濃いけど、ゴロ美ちゃんは論外。まぁこだわりとかもあるのだろうけれど。あと、せめて股は閉じなさいよ。パンツ見えてるわ。」

「だからなんやねん。」

「男らしさもいいけれど、その格好してる限りは恥じらってよ。せっかく美人なのにもったいない。変なモノ晒さないで。」

ゴロ美はさらに眉間に皺をよせアコの方を見る。

「この子ね、昨日まで付き合っていた彼氏に浮気された挙句ふられて自棄になってるの。」

「世間はクリスマスやのに難儀なやっちゃのう」

「そうなの!だからアコちゃんに慰めてもらいに来たの。」

名前はそう言ってカウンターに突っ伏す。
ゴロ美は先ほどまでのイライラが抜けてしまったのか、はぁとため息をつくと名前の頭に手を置いた。

「・・・なに?」

「男なんてまた作ればええ。自棄になって俺みたいな奴に喧嘩売るんやない。可愛え顔が台無しになんで。」

「・・・」

「女の武器は太陽みたいな笑顔やで?」

そう言ってゴロ美は名前の頭をなで続ける。
名前は徐々に顔を上げた。

「・・・ごめんなさい。ゴロ美さん。」

急におとなしくなった名前にゴロ美は拍子抜けする。

「なんや、いきなり素直やのう」

「ん〜。ゴロ美さんの言葉で何だかすっきりした。いっぱいひどいこと言ってごめんなさい。慰めてくれてありがとう。」

名前は少しだけはにかみ、カバンの中をごそごそと漁る。
中からチューブ状の物が取り出される、

「これ、あげる。自分用に買ったハンドクリームだけど。クリスマスプレゼント。」

そう言って名前は蓋を開けクリームをゴロ美の手にのせ、満遍なく塗りたくる。
フワリと香るは柑橘の匂い。

「さっき、撫でてくれたときすごく心地よかった。その手を大切にしてほしい。」

塗り終わるとゴロ美の両手を名前の両手で包み込む。

「次はゴロ美さんのような恋人を作るの頑張ってみる。」

そう言ってニコリと笑うと名前はカウンターにいくらかの札もおいて「アコちゃんもごめんね。こちそうさま。」と出ていった。

ふわり、ふわりと名前の余韻は・・・

指先から香る

次の日、真島吾朗は綺麗にラッピングされた新しい同じハンドクリームを持ち亜天使へと向かった




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