Novel
□裁き
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裏切り、裏切られ
傷つき、傷を与えられ
求め、求められ
君が欲しいんだよ
君だけが
君だけを愛してるよ
だから…
傷跡や刻印を焼き付ける
それが所有の証明なんだと…狂った僕はその異常さを疑わなかった…
**
「………」
殺意というものは、きっと今俺の中にあるこの感情なのかもしれない。
自分がしたことのしっぺ返しだと思わなかった。
否、思えなかった。
悲しみで、悔しさで、憎しみで頭が真っ白になった。
裏切られた
脳裏に焼き付けられた言葉
「…むぎ…」
叫んでも、叫んでも足りない名前。
声が枯れるくらいに愛してると叫べば、あいつの心の傾きはこっちへ戻ってくるのだろうか…
それを実行する力は、思考が停止した俺には皆無だった
***
「………むぎ」
三日ぶりに名前を呼ぶと、彼女はさも驚いたような表情をしてこちらを振り向いた。
「…一哉くん…」
呟くように俺の名を呼んだ彼女を、折れるほどきつく抱き締めた。
「ちょッ…一哉くん!?」
抵抗と共に、狂おしいほど求めたあの温もりが伝わってきて、不覚にも涙がこぼれそうになった。
「…松川さんが…好きか?」
問うと、小さく頷いた。
「…俺よりも…?」
残酷な質問をした。
むぎは僅かに震えた。
「…そんなこと…聞くなんて…ずるいよッ」
「ああ。狡し最低だ。…しかし、俺より最低なのは松川さんだ」
手に力を込めると、肩に食い込む指に、むぎが痛そうに顔を歪めた。
「…そんなこと…言わないで…依織くんのこと、何も知らないじゃない」
「ああ。知らないさ。知るワケがない。…お前は…松川さんの肩をもつのか?」
「…どうして、そんなこと言うの?…恐いよ…一哉くん…」
恐い?
怯えたような表情を見ると、心の中のサディズム呼び起こされる気分だ。
「…ご主人さまに逆らうなと教えたはずだが…?」
そう。
裁きを。
ダンテの『神曲』の世界で裏切りは極刑に値した。
そうだ…それなら…
「裏切り者には…裁きを。…再度俺に愛を誓うなら…至福をお前にやろう」
泣きだしたむぎが違う男とこの名を呼んだトコロから俺の記憶は曖昧になった。
どこで、どう間違えたなんて 誰も分からない
間違っていないことなんて
ただ、俺がお前を愛してるということだけ
fin
暗。
続きます。
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2月某日庵原。