剣の街の異邦人Winリプレイ・キリリ編

□5・夕 エピローグ
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「そんなに急がなくても消えやしないよ。」
お父さんがメールでも送ったのね。
私はカーディガンを羽織る。
部屋に入ってきた暁は、本当に信じられないものを見る顔をしてる。
「…本当に…。」
「帰ってきたわ。
幽霊じゃなく、生身の人間よ。」
暁には二度手紙を恵理ちゃんから送って貰ってるけど…。
今の暁がそれを覚えているかどうか。
…ううん、お父さんもお母さんも私の服装に疑問を持ってなかったし、飛行機に乗って行った私の見送りにだって来てた。
だから、覚えててくれてるんだ。
「生きてるんだよな…。
良かった…、本当に良かった…。」
お父さんとお母さんの目も憚らず、暁は私を抱き締める。
私の頭半分以上背が高い大人びた中学二年生。
「会いたかった…。」
戻ることへの頼りが誰だったか、浮ついていた私を支えてくれたのは目の前の暁。
「…帰ってこられたんだわ…。」
ようやく私も実感が出て来て、涙が湧いてくる。
お湯に入って、着慣れた服に袖を通して。
身体に湿布をあちこち貼って。
自分の部屋で休ませてもらう。
エスカリオに居たせいか随分と長く離れていた気がする…。
部屋の壁には私が恵理ちゃんを通して送ったSDHCの写真が貼られてる。
「…ひでえ話だな。
最後にはこいつら二人共敵に回ったのかよ。」
私はあちらでの顛末をベッドで横になったまま暁に話して聞かせる。
今になって身体が痛い。
「元々自分たちが神になるために二人は私達異世界の人間を利用していた。
それが思い通りにならないとなって、二人揃ってリウさんに対して暴挙に出たのよ。
所詮は次元を隔てた人間、権力者と使われるもの。
今度こそ、二人の水面下の癒着を叩き潰して報いをくれてやったわ。」
暁は複雑そうな顔をしてる。
それはそうよね。
こちらでは私が居なくなってから二月ほど。
先に戻ってる恵理ちゃんと健二さんとも顔を合わせているのも、微妙な時間差。
ただ、三つの道の間に少しずつ時間が進んでた。
私が送ったものが残っていたのは、それこそ向こうの運命の神の思し召しなのかもしれない。
恨めしい神だけど、この粋なはからいには感謝しなくちゃ。
私にとっては相応の時間だったけど、暁には僅かな時間差。
二人への反応や態度が違うことに戸惑っているんでしょうね。
「とにかく、ごつい打ち身が有るって?
くたびれてもいるだろうし、休んでなよ。」
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