剣の街の異邦人Winリプレイ・キリリ編

□4・リプレイ3-リウ
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この三人を、器を持つ者と呼び、彼らは神を魂に宿した人間。
選ばれし者と違って、正真正銘普通の人間ではない。
日常生活は確かに普通の人間として飲み食いもすれば仕事だってしているんだが、神の依代にして、神自身でもある。
この器の者に純血晶を渡してやって初めて選ばれし者の役割も意味を為す。
純血晶を器の人間相手に渡すと純血晶は破壊される事も無くなり、対価もある。
渡した相手が宿している神の力の加護を受ける事が出来るというわけだ。
それは主なところ、戦闘の手助けになる力。
誰を選んでも、俺たち異邦人にはそれ自体に害があるわけではないが、その末路がいかに残酷であるかを俺たちはこれまで二回見てきた。
その残酷を突きつけられるのが、まだ戻ってきていない、俺達のパーティのリーダー。
選ばれし者の一人だ。
俺達のリーダーの名は天那夕(あまな ゆう)。
黄昏時のユウ。
選ばれし者はこのギルドにも、リウを始めとして、惟光響と来栖アンナという三人が居るが、純血晶を集めているのは現状では響…キョウ一人で、アンナは強いはずの異邦人ながら戦闘ではあまり役に立たないという実態だ。
ろくに鍛錬もしないで、敵が強い場所に突撃していればそのツケが回るのは言うまでもないんだが。
選ばれし者である前に、器の者であるリウが下手に身動きすることは難しいが、そのリウが今度起こる飛行機事故で連れてくるのが夕だ。
元々俺達は、別の道で夕よりも先にエスカリオに放り出され、夕が現れた時初めてギルドの戦闘員、選ばれし者である夕の隊の隊員として志願した。
中学生最後の楽しみである修学旅行中に飛行機事故に見舞われた不運もそうだが、コイツは選ばれし者。
右も左も分からない様子の女子中学生の隊に、俺…橋場健二(はしば けんじ)は一緒に放り出された高屋恵理(たかや えり)と志願した。
恵理はこの世界の人間でなければ有り得ないエルフに姿が変わっている。
そんな奴が他にも結構居たりするが、間違いなく異世界から放り出された人間同士だ。
夕は、キョウとアンナとも、そして器の者三人とも違うが、選ばれし者として特別な意味を持つ人間。
世界を左右してしまう存在だ。
純血晶を器の者に渡すのは、結果として三つの神のいずれかに力を与えるのと同じ。
リウは当然元の世界に戻ることを目指しているが、王宮と商会はそれぞれの勢力を拡大し、権勢を守り、あるいは奪う為に水面下の争いや結託をしている。
選ばれし者の頭数が揃わない現状は純血晶が集まり、神として器の者が目覚める時を待って、見せかけの平和を維持しているに過ぎない。
期せずして俺達は、その運命を左右する人間の隊員になってしまった。
夕がただ、世界を左右するだけならまだいいのかもしれない。
実際には世界を左右するなんてのは異世界の人間から見てもとんでもないがそう思えてしまうような事が待っている。
光の神も、闇の神も異邦人を故郷へと帰すその約束を違える事は無いからそれはまだいい。
だが…俺達がなぜ二度も違う道を辿ったのかについてはしかるべき理由と、この世界に働いている呪いのような力が関わっている。
異邦人である月貞理羽が器の者であるように、俺達のパーティリーダーもまた異邦人でありながらこの世界に絡め取られている。
本来であれば忘れるはずの記憶を俺と恵理を始めとして夕に関わる記憶を他の隊員たちが持ったままパーティリーダーの帰りを待っている。
「なんつーか、俺は特段夕が特別に強いと考えはしねえよ。
誰だって死ぬ時は死ぬし、夕の頭がどんなに回ろうと、普通の女子中学生だ。
アンナとそんな違うわけがねぇ。」
俺は、貧民街の市場で手に入れてきた干し肉をかじりながら恵理にそんな話をしている。
「そりゃそうでしょうけどね。
運動嫌いか、元から何か訓練しているかは結構差が出るんじゃないかなー。
私が運動ダメなのは確かだし、夕ちゃんよりもずっと体力無いでしょ?
異邦人皆がエスカリオの人間よりも強いっていうのは、リウの説明が微妙に悪いけど。
鍛えないアンナに問題が有るし、一番新入りの夕ちゃんに平気で配慮なしのリウと周りにも疑問は有るわよ。」
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