二次創作小説WIZ

□迷宮と別れ4
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それを交わす分には何ら平穏だった。
ダシルも時折、笑いを見せる。
しかし、会話のネタはすぐに尽きてしまった。
その沈黙の中でダシルはぽつり、と言った。
「いいんだ…。
無理しなくて。
会いにきてくれただけでも嬉しい。」
視線を落したまま、ダシルは足で床をトントン鳴らす。
誰も言葉を掛けられないまま時間が過ぎていく。
その時、何やらドアの前で“おやめ下さい”や“お戻り下さい”といった声が聞こえた。
そして、その声を振り切るようにドアが静かに開かれる。
ハートたちは身を強張らせる。
高僧のローブを纏った、エミリアだったのだ。
物音に顔を上げ、部屋に入ってきたその姿に無表情だったダシルの形相はたちまち変わる。
「お前はあの時の…。
何しに来た!」
憎しみのこもった視線を顔を隠したままのエミリアに向ける。
ダシルはしっかり記憶していた。
ジリアンの蘇生儀式に立会い、陣頭指揮を執っていた高僧…。
この人物が儀式を失敗したせいでジリアンは死んだ。
そんな思考が頭に沸き起こり支配していく。
「ダシルっ…」
ダシルは立ち上がって何も知らないままエミリアに掴みかかる。
止めようとハートとキリーが左右からダシルの腕を引っ張るが、それをエミリア自らが制した。
「気の済むように、させてあげて下さい。」
そんなっ、とザイラメルが叫び、僧侶たちも駆け寄ろうとしたが鋭くエミリアは制した。
「これは命令です。
邪魔立ては許しません。
彼の気の済むように…」
顔まで隠れるローブの主が女である事を声で知ったが、ダシルの感情は納まらなかった。
「あんたが憎い!!」
ダシルは叫びながらエミリアを突き倒し、エミリアの肩にペンを突き立てた。
「やめて!!」
ザイラメルが悲鳴をあげる。
だが、ダシルは顔を隠す布に手をかけ力ずくで引っ張った。
「その面とくと拝んでやる!!
それで…」
黒髪が広がり、露になったジリアンそっくりの顔にダシルの動きは止まった。
「どうしたのです。
気の済むようになさい。」
ダシルの全身が震えている。
ジリアンそっくりの女性の顔を注視し、肩に刺したペンを引き抜く。
「騙されないぞ、俺は!
魔法でも使ってやがるんだな!」
再びペンを振り下ろそうとした間に何者かが割って入った。
ザイラメルだった。
憎き高僧ではなく仲間の少女の柔らかい背にペン先が刺さる。
“しまった!”
我を忘れる中でダシルは仲間を刺したことに気づいて慌ててペンを抜こうとするが顔を上げたザイラメル自らに振り払われた。
「悪魔!!
今のあなたの顔をジリアンが見たらどう思うでしょう。
あなたの顔は殺戮の衝動に駆られた悪魔そのものですわ!!!」
ペンを背中に突き立てたままザイラメルは叫ぶ。
「ジリアンは自分の事をきっと天命だと思っているはず、でも違う。
あなたが悪魔達への生贄に捧げたんですわ!!」
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