二次創作小説WIZ

□迷宮と別れ4
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「そうでしたか…、ジリアン殿が…。」
灰化から蘇ったミニマムは、ジリアンの悲報をハートから聞き、整った眉根を寄せる。
あれから数日が経っていた。
「ダシル殿は…。」
ハートも俯いて唇を噛んでそれ以上は何も言えなかった。
目を覚ましては狂ったようにジリアンの名を呼び続ける。
看護のために部屋を訪れた黒髪の尼僧を見る度にお前は違うと叫んで物を投げつけようとする。
とても見てなどいられなかった。
「そうですか…。
まだ、若いですからな…、受け入れたくないのでしょう。
痛ましいことです…。」
そして、再びザイラメルが思い出したのだろう泣き出してしまう。
キリーがしっかりザイラメルの細い肩を抱いて座らせるのを見て、ハートも、キリーもミニマムも悲しみを新たにした。
いずれ探索は中断せざるを得ない状況だった。
迷宮探索の戦略だけ見ても前列の攻撃の要を失ったというだけで多大な損失である。
それを埋める、戦いを得意とする仲間を見つけねば、迷宮に潜る事など出来ない。
そして、それ以上に二年間を共にしてきた仲間と死に別れた悲しみは深かった。
恋人を失ったダシルの悲しみもそうだが、幼い頃からの親友を失ったザイラメルの悲しみもしばらく癒されまい。
戦列に立つことなど無理だろう。
それこそ、ジリアンの二の舞となるだけとなる。
アラカトル家では遺体の無い葬儀が執り行われた。
両親も、兄のカイルも、そして自ら妹の蘇生儀式にたずさわり、葬儀の指揮を執っているジリアンの姉、エミリーこと、エミリア・アラカトル。
高い報酬をむしりとりながら一人の命も助けられない寺院、と参列者の中から罵声を浴びせられながらもエミリアは毅然と儀式を執り行った。
どうにか葬儀が終わると、エミリアはハートたちに妹が本当にお世話になりました、と両親のアンリエット、クライン、カイル共々深く頭を垂れる。
長く会っていない妹との再会が、死体になって寺院の祭壇、その上の蘇生の失敗…。
彼女の悲しみが一番深いだろう。
何より、ジリアンとそっくりの黒髪と青い瞳…その顔立ち。
父親から妹が戻った事を聞かされ、妹との再会の日を心待ちにしながらも、寺院の高僧として暇が取れないまま、毒性のブレスでただれた痛ましい姿の遺体との無言の対面となってしまった。
幸いだったのは、兜のおかげで顔だけでも綺麗なままだったことだけ。
頭を垂れるなりエミリアは顔を上げられず、嗚咽を漏らした。
カント寺院の高僧の一人ではなく、妹を失った姉として、やっと涙を流す事が許されたのだった。
ジリアンの死から一月半…、やっと日常的な会話を取り戻しつつあった頃、ハートたちは五人で未だ寺院の病棟に収容されたままのダシルを見舞った。
入り口には彼を見張っている僧侶が一人、中にも彼が馬鹿な事をしでかさない為に見張りが置かれているのだそうだ。
「今は落ち着いていますが、会話の内容は慎重に選んでください。」
若い僧侶の言葉に頷いてハートたちは部屋の中に足を踏み入れた。
それと入れ違いに見張っていた僧侶が部屋を出て行く。
ダシルはベッドの中ではなく、机に向かって一心不乱に巻物へ文字を綴っていた。
物音に気付いて振り向いたダシルの顔はまるで面のように無気力なものであった。
「…ハート、キリー、ザイラメル、ミニマムも。」
無表情のままダシルは四人の名を呼んだ。
自分たちの事まで分からなくなっていたら、と内心不安で一杯だった四人の胸に一先ず安堵が広がる。
「久しぶり。
キリー、ザイラメル、ミニマム、具合はもういいのか?」
キリーはおう、と狭い部屋ながら宙返りを披露し、ザイラメルも笑顔で頷いた。
「わたくしも、すっかり回復いたしました。」
良かった、とダシルは笑うように口元を微かに動かす。
だが、最も会いたいであろう恋人ジリアンの姿はもう二度と見る事が叶わない。
誰もがどうしていいのか、やはり分からなくなっていた。
しかし、一時の狂ったように叫び続けていた状況から見るとだいぶ落ち着いたようだった。
取りとめのない、ジリアンや探索の事を避けた日常的な会話。
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