二次創作小説WIZ

□迷宮と別れ1
1ページ/27ページ

長距離運送の護衛の依頼が目立って増えている。
それは地上での魔物の活動が活発化している事を示しているのだ。
魔物に遭遇して剣を振るい、呪文を行使する回数も一年前と比べると。
運送役の男達の感謝がより手厚いものになるのは喜びよりも、平和を脅かされている不安を煽った。
他の冒険者達もそれを感じているのだろう、酒場に行けばやたら陽気に騒いだり、そうかと思えばちょっとしたことで喧嘩の騒ぎを起こした。
「嫌ですわね、皆カリカリしてて…。」
溜息交じりのザイラメルの言葉にアリも頷く。
「最近、怪物どもの景気が良くなってるからな。
皆不安なのさ。」
つまみの細切りチーズを口に入れながらハートも溜息をつく。
「一騒動起きるのか?」
ダシルの口から出た言葉にキリーもかもなぁ…、と天井を仰ぐ。
彼らのテーブルの背後ではまだ言い争う声がしており、喧嘩を煽る野次馬の歓声やら口笛も聞こえる。
こんなことは正直日常茶飯事で、酒場の主人も、店員も喧嘩が収まるまで放っておく事を決め込んでいた。
勿論、彼らの会計に壊された店の備品代金を上乗せすることも忘れない。
この空気に相変わらず慣れないのがジリアンだった。
「どうして皆食事していられるの…?」
不安そうな視線を投げかける彼女に対しての答えはいつも同じ、誰もが皆不安なのだということ。
その返答をするのも飽き、酒場に繋がっている宿屋の客室に引っ込むことが彼女への処置となっていた。
ダシルは仲間たちに目配せしてから言った。
「落ち着かないなら上で食べよう。」
一人になるのをジリアンが嫌がるので皆で揃って客室へ行く。
いつもなら大部屋で全員が納まれるのだが、今日冒険者として活動する人間も増えていて、安い大部屋に空きが無いことも珍しくない。
結局値が張るが少ない人数の、逆に言えばサービスの良い部屋に泊まることとなってしまう。
状況を考慮して安くしてもらえるのは有り難い所だ。
二人部屋が三つで、ザイラメルとジリアンが一緒だったのをザイラメルがダシルに譲ると言い出した。
「私、今日はアリと一緒にしますわ。
側についていてくれるのがあなたの方が心強いでしょうし。」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ