二次創作小説WIZ

□旅立ち出会う
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砂漠、過剰なまでに太陽の加護を得てしまう地。
太陽の恵みが地上世界に平等ではないことを示している。
この土地の何がそんなに太陽の気に入りなのか、それとも怒りを買っているのか。
「ダシル、今日はもういいよ。
皆あんたを待っているだろうからね。」
陽射しに照り付けられながら野菜の入った箱の積み込み作業をしていた少年は、雇い主である男の声に顔を上げる。
褐色の肌に黒髪、焦げ茶色の瞳。
体格は細身で肉体労働には少々心許無い。
人によっては女のようだと言われる顔立ちのダシルにはこの体型が似合いなのかもしれないが、棚に陳列する商品運びという仕事には不似合いである。
「いいよ、片付かないと何だか落ち着かない。
どうせあと少しだからさ。」
決して体力に優れているとはいえないこのダシル少年が、周りの同年代の少年達のように学業に励む事も出来ずにいるのは、両親が働いていないがためだった。
彼を筆頭に兄弟が八人、もうじき九人目が生まれてくる。
次から次と赤ん坊の世話に追われる母親が働くことなど無理だろう。
父親は病弱であった。
だが近頃はこんな状況にその事が疑問に思えてくる。
確かに、ダシルが彼の望むほどの腕力と体力を持ち合わせることが出来なかったのは彼の遺伝だろうと思わないでもない。
だが、養いきれない家族を増やすことに励むだけの体力が有るならそれを少しでも労働にまわせば良いものを、と…。
今は家族が待っているのはダシル自身ではなく、ダシルの持ち帰ってくる金。
誰のせいで自分が擦り切れかかった服を着て、周りの仲間が通っている学院へ通えないというのだろう。
数多い兄弟と、親のお守りなど今は疎ましいだけだった。
いっそ家に戻らない手も有るだろうが、それだけの身支度を整えるだけの金が無い。
支度が無くとも飛び出したい気持で一杯なのだが、彼を繋ぎとめるものが有る。
それはダシルの双子の片割れで妹であるシェリン。
シェリンもまたダシルと同様に大人たちよりも短い時間ながら労働に従事している。
二人で家を出ようと何度持ちかけたか知れないが、彼女はそんな事…と首を横に振るばかりだった。
家に彼女一人にしておくことは出来ない。
作業を終えるとダシルは真っ直ぐ家に戻らず、学院を退学する前に教わっていた教師の家を訪ねた。
広く普及している戦闘用の呪文のみならず、その他の学問、錬金術の研究も独自で行う彼はダシルの魔術師としての素質を見抜き、無償で魔術の手ほどきをしてくれている。
まだ講義が終わっていないので教師の姿は無い。
慣れた手つきでダシルはかつて学校で使っていた自分の帳面を引っ張り出し、師自らが彼のために作って与えた教科書を開く。
もしかすると、この時間が最も楽しい一時かも知れない。
「来ていたか。」
ダシルの師の名前はラオン。
まだ三十五歳と、歴史有る学院の教師の中で彼が最年少だが、魔術の腕は学院一とも噂されている。
そんな彼の目に止まったということがダシルの密かな誇りであった。
「うんざりするような生活の中の一時の命の洗濯だよ。
毎日ここに来るのが一番楽しみだ。」
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