NOVEL

□恋愛には危険が付きもんだ〜血塗られた紅い糸〜
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「高杉くんから離れろぉぉぉぉぉ!! 松陽!!!」

【それは……無理ですね】

 高杉の口から言葉が生まれる。
 それは普段の口調ではない。
 恐らく松陽先生が通じて云った。
 次の瞬間、素早く回避をする直前に瞬殺の如く――ヅラを斬る。
「なっ!?」
 血が飛び散る。
 倒れるヅラ。
「ヅラぁぁぁぁぁあああぁぁぁっっ!!」
 大声を放つ俺は彼奴に殺意が芽生えた。
 またもや、戦友を失いそうになる。
 本気で叩き潰すほかねぇよな!!
「しょうよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
 地面を蹴り上げて宙を舞う。
 刀を振り翳す。
 高杉は防御に回る。
 だがしかし。
「身動きは生きてる頃よりも」
 俺は振り下ろした。
 刀は肩に斬る。
 表情は変わらないのままで倒れる。
「鈍いんだよ。操り人形は所詮(しょせん)は……偽の範囲に入るんだよ」
 と、俺は刀に付着してある血を振り落とす。
 高杉は瞳の色が元に戻る。
 勝敗は決まったようだな。
 気持ちを落ち着かせ、ヅラに駆け寄る。
 幸いにも傷は浅い。
 命に係わるものではないようだ。
 安堵する俺。
 そして、松陽に向けて云う。
「悪ふざけはいい加減にしろ、ウザいんだと、吉田松陽!!」
 と、何時もの部屋から俺の言葉を松陽は聞いていた。
 無事に伝書鳩から送り届けた文の如く届いてある。
 窓際で外を見続ける松陽はクスリと笑う。
「貴方達の行動は筒抜けですよ。成長しましたね、銀時」
 松陽の視野に入る俺とヅラは気付かない。
 既に逃げられない蜘蛛の巣に嵌まってる事を。
 ここからが本番だ。
 松陽は将軍様の家臣に部屋に呼ぶと使役者に伝える。
 本格的に始動する。
 計画を見事に成し遂げるために。
 そんな事を知らずして俺とヅラは高杉を安らかに眠るが如く仰向けで寝かせる。
 もう、松陽は操れないだろう。
 云い方も先生を抜かす。
 呼び捨てだ。
 先生の風上にも置けねぇ。
 ヅラの治療を行うため、着物を契り止血させる。
「すまんな、銀時……おれのために……」  
「いいってことよ。俺達は仲間だろ? 助けるのは当り前さ」
「よしこれでいいだろう」俺はヅラの応急手当を施し終わり、安静にさせる。
 着物の布から血が滲む。
 止血は完璧のはずだが……まだ、傷は塞いでいないから、こうなるのか。
 ふむふむ。
 なるほどなるほど。
 て、関心を寄せている場合か?
 場合じゃねぇな。
 松陽の企みを阻止しねぇと。
 最悪な結末がお待ちかねだ。
 俺はヅラに松陽の野郎の居場所を教えてもらい……無言でこの場を立ち去る。
「先生に気をつけろ。並大抵の相手ではないぞ?」
「覚悟はしてあるさ。土方を頼むぜ? ヅラ。大事な恋人なんでな」
「…………」
 ヅラと呼ばれ、桂だと云う口癖は出てこなかった。
 銀時が本気で敵と立ち向かう。
 その後ろ姿を見て己も覚悟を決めた。
 絶対に土方を守り抜く。
 同等の気持ちを得て。
 ヅラの視線を浴びて俺は地下を抜け、久しぶりのように外部へ出た。
 生憎の悪天候。
 雨は全てを流してくれる。
 今回の件も流せ。
 この気持ちと松陽に立ち向かえると。
 俺は駆け足で江戸城に向かった。




 高杉の案内で深層心理の中枢に訪れた。
 崩壊しそうでしない巨大建造物の最上階。
 そこに彼の全てが詰められている球体がふわふわと浮かんでいる。
 綺麗な蒼色だ。
 ここに彼の根源がある。
「これを……求めていたのか? 俺は……」

 蒼色の球体に触れようとするが、恐ろしくて手が止まる。
 そこに高杉が声をかける。
「ここ先はてめぇだけで行け。俺は入れない……」
「どうして……」
「それはお前を求めてる。答える義務はあるだろうよ? 土方」
 高杉の発言を聞いた直後、球体は彼・土方を瞬時に飲み込んだ。
 驚く事も、躊躇う事も、高杉を見る事も、できぬままで球体内に入った。
 球体は光を発し、瞬く間に消えた。
 土方は内部で闇に満ちる奈落に落ちていく。
 これからどうなるのか。
 先が見えぬ状態では恐怖・脅威で支配されていく。
 死ぬのは嫌だ。
 大切な人が待ち続いている。
 高杉……銀時……俺は……。
 開いていた両目を閉じる。
 後に奈落の底に到達していく。
 羊水にも似た温かな液体の内部に音も立てず、入った。
 身体を丸める。
 両足を曲げて両手で包み込むように、姿勢をとる。
 くるくると回りげにしていくと、土方は両目を閉じるのも束の間、記憶の波に漂う。
 身体の姿勢を変えて口から水泡が漏れる。 
 周りにも音を立てて水泡が上昇していく。
 水面が視界に入る。
 光が差し込んでいる。
 若干紅い液体内にあるのだと知る。
 水面は次第に遠くなる。
 丁度、その頃……脳裏に過る。
 幼少期のときの……。
 土方は気付けば試験管で生まれ落ちた。
 生まれて初めて両目を開き、ぼやける中で人を見たのは吉田松陽だった。
 液体を抜かれ、人同様の生活を送るときに勉学を教えたのも吉田松陽だった。
 なにもかも面倒を見てくれたのも吉田松陽だった。
 ほら、あのときもあったろ?
 生き残りの実験。
 ほかの子供達は死に少人数が生き残った記憶が未だに残る。
 負傷し、血塗れの空間で松陽は手を差し伸べた。
 あれからで土方は彼を信頼するようになる。
 しかし、その感情は――狂気に変わる。
 何時もの遊戯をしている最中、土方と同じ容姿の子供が目の前に現われる。
 松陽は子供の耳になにかを囁いているようだった。
 気付けば内容を知って理解できていた。
 だが、当時の土方には分からない。
 目の前の子供は刀を土方に突き付け、行動を開始する。
 こちらも行動で反撃をするが、相手の方が一枚上手だった。
 腰に隠してあった銃で土方の喉を貫いた。
 少し、飛ばされて仰向けに倒れる。
 どくとくと血が流れ出る感触がある。
 口をぱくぱくさせる。
 ドクン、ドクン、ドクン――。
 心臓の鼓動が目立つが如く鳴るを感じる。
 勝者である子供は土方の方に歩み寄る。
 怖い。
 来ないでくれ。
 殺される。
 お願いだ。
 子供は死にかけている土方を見るなり、後ろに振り向く。
 松陽に話しかける「この欠陥を取り込めばいいの?」
 欠陥ってなんだ?
「ええ、人格を含む全てを移行してください」
 何時もの見る笑みで松陽は云う。
 子供は土方の両手で顔を触れ、視線を合わせる。

――ドクン。

 また、心臓の鼓動音が聞こえた。
 意識が遠のく。
 途切れてしまった。

 土方は殺されたのだと感じた。
 だが、ここからが本題だ。
 殺されたかと思ったにも関わらず、生きていた。
 意識もあるし、感覚も麻痺していない。
 けれど、違和感がある。
 獣の耳と尻尾が生えているではないか。
 どうしてこうなった?
 わけが分からない土方の前に松陽が姿を見せた。
「貴方は大事な「成功品」です。未来の子を産んでくださいね」
 成功品、未来の子を産む……なんだろう。
 ともあれ……生きてて良かった。
 土方は息を吐いた。
 この頃から、松陽の教育は厳しくなりなる。
「十四郎。相手を半殺しにしてはいけませんよ」
 何時もながら頭を叩かれる。
 倒れるほどの強さだ。
 痛みは伴うが土方は反論する。
「いてぇよ。松陽……手加減知らねぇのか?」
「ええ、手加減は知ってますよ?」にこり、と満面の笑顔をする。
「なら……」少し引き気味に答える。
「十四郎はまだ、「本来の使命」を知らないようですね?」
「本来の使命?」
 首を小傾げる。
 松陽は両手を軽く手を叩く。
 無理矢理に立たせる。
 尻尾を強く握り締める。
 びくん、と土方の身体が跳ねる。
 股が熱くなる。
 ひくひくしている。
 その様子を見て松陽は誰かに声をかける。
「はい、あ。今から教えますよ……神威」
 神威?
 誰だ?
 見知らぬ名前の人物に土方はふと、松陽の顔を見上げる。
 表情が狂気沙汰になっている。
 何処か……殺意を感じる。
 恐ろしい。
 なにをされるか――分からない。
 土方は身体を身震いを起こさせる。
 すると、松陽は励ますように、
「大丈夫ですよ」
 笑みを浮かべて、
「簡単に赤子の孕み方をお勉強するだけですから」
 残忍な事を云う。
 未来の子供を産む。
 赤子の孕み方。
 そんな勉強は……できない。
 でも!
「松陽さん、呼んだ?」
 離れそうにしたいが、相手が姿を見せる。
 濃い桃色の髪を三つ編みにしている。
 中国風の紅い服装を着ている。
 彼も満面な笑みをして接してくる。
「神威、この子に行為を教えてあげてください……私は別件があるので」
「あ、うん。いいよ? 「はじめて」を俺に奪えとか? なんか興奮してきたね。こんな……」
 神威は土方を見る。
 睨み付ける。
 鋭く。
「楽しみだな、ねぇ、君の名前を教えてよ? 俺は神威だ。だから――」
 と、口を開いた瞬間だった。
 土方は意識を覚醒した。
 その後の事など覚えていない。
 液体内から浮上する。
 水面に映る実像と虚像。
 重なるときに蒼色の球体が出現し、そこから全身に渡り濡れた土方が出てきた。
 意識は喪失しているようだ。
「やれやれ、見事に脱皮したか……だがな、発情期(こづくり)は近いぜ? 殺しの獣」
 高杉は土方を抱き寄せてこの場を後にする。
 地震が引き起こる。
 深層心理が崩れ始めている。
 早いとこ脱しないと、現実世界に戻れない。
 軽い足取りで崩れる建物内を駆ける。
 瓦礫と瓦礫とで移動しながら、出口に向かう。
 この建物から五分も経過しない処にある。
 高杉は無事に建物から逃れ、後ろ側から崩落する凄まじい音が響き渡る。
 しかし、気にする事はせずに出口の黒い円形の渦に目の前まで訪れる。
「まさか、記憶でこうなるとはな。精神内は分かんねぇな」
「……う」

 土方の意識が戻りつつある。
 両目を開いた。
 不意に高杉に抱き寄せられている事に頬を紅潮させる。
 視線をわざと逸らす。
 恥ずかしい。
 高杉に……。
 この場合は……。
「変な事は考えるなよ? 今は現実に戻れ」
「え、高杉も一緒だよな? 言ってくれ……一緒だって!」
 高杉の着物を強く掴む。
 だが、微笑する返答をし、出口に土方を入れる。
「高杉……高杉……たかすぎぃぃぃぃ!!」
 吸収されていく土方は残る高杉を叫ぶ。
 だが、「じゃあな、元俺の恋人」と、別れの言葉を残し、出口は閉まる。
 土方は現実に戻る間、頬に幾筋もの涙を伝わせる。
 そして、内心で別れの挨拶をする。

――あばよ、高杉晋助。

 精神が崩れる最中、高杉は呟く。
「別に別れの言葉なんかいらねぇよ」
 天が罅が入る。
 瓦礫と化し、高杉の頭上にめがけ落ちていく。
 避ける事はしなかった。
 潰れていく。




「そろそろ来てもおかしくはありませんね……無事、精神空間に戻ったようですし、呪術も終わりでしょう」
 本を閉じて江戸の出入り口を見る。
 次の瞬間、盛大な爆発音が引き起こされた。
 砂埃が宙を舞う最中、遮断されていた木製の橋が倒れる。
 大きな音を奏でて渡れるようになった。
 松陽は胸に期待を寄せる。
 我が塾の門下生が会いに来るとは――おもてなしをしなくてはいけない。
 常に傍で待機している使役者に落ち着いた様子で指示を下す。
「家臣達に伝えてください。実験は中止。上様を狙う人が来た、と」
「招致」
 使役者はさっそく動き出した。
 松陽の予想ではここまで早く来るとは予想に無理があった。
 本来、発情期になる土方を守るかと思えば……はははは。
 愉快で笑ってしまう。
 さぁ、おいで。
 坂田銀時。
 天誅を下してあげましょう。
 松陽は決して手をくださない。
 汚したりはしない。
 味方は幾千、幾億は居る。
 彼等を倒すにはそれなりの力があってこそ。
 銀時は仮にあるとすれば、あの戦の血が疼いているに違いない。
 白夜叉。
 松陽には狂気に満ちている頃の姿しか見えない。
 何処まで進めるかな?
「……神威」彼を呼ぶ。
 冷静な口調でだ。
 砂埃が消え、強風が吹いたときに松陽は久しく銀時と視線が合う。
「元気か? 先生」とかでも挨拶するような雰囲気を漂わせるも……互いに殺気を漂わせて居るゆえに敵対心剥き出しだ。
 最悪の再会である。
「まぁ、それはそれで良きとしましょう」
「なに? 松陽? 俺に人殺しをさせろと言いたいのかい?」
「察知が鋭くて感謝します。せっかくですが、門に居る敵をはいじょ……」
「排除するのは貴方ですよ、先生」
 門を爆破した銀時が何時の間にか――窓に辿り着いていた。
 どうしてかは知らない。
 特殊な技術でも使ったのだろう。
 松陽はしかし、驚く顔はしていない。
 常に冷静沈着。
 感情を取り乱さない。
 怒りが来ても表沙汰にはさせない。
 それこそが吉田松陽なのだから。
「おやおや、感動の再会です。元気でしたか? 私は嬉しく感じます」
「先生、感動の意味は知ってます? 縁を切るの意味で俺は捉えていますがね?」
 双方互いに意見が食い違う。

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