青の祓魔師 ヴァールハイト

□1話 悪魔がいる世界
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同時刻ーーーーヨハン・ファウスト邸、執務室。

「…おやぁ…?」

書類にペンを走らせていた手を止め、顔色の悪い男が不思議そうに呟いた。

彼はヨハン・ファウスト5世。ーーーというのは表向きの名前で、メフィスト・フェレスと名乗る、人に憑依した悪魔だった。

この正十字学園の理事長を務め、学園に結界を張っている張本人だが、どうも何かを感じ取ったらしい。

ペンと書類を机に放って、ギッと豪華な執務椅子に体を預けて顎に手を当てた。

「ふむ、なんでしょうね。何かが入り込んだようだ」

結界は中級以上の悪魔が入り込めないよう強力なもの。その結界を掻い潜って侵入したものの気配に邪なものは感じない。

悪魔では無いのか?しかし結界が反応したのだから、異質なものには変わりないはず。

「仕方ない。様子を見に行ってみましょうか」

厄介な事になる前に手を打たなければ。

そう思って、ガタと机に手を着いて立ち上がった時、

ーーーーコンコン。

「おや?」

扉がノックされて、ギイと開いた。
















ーーーーーー

鍵を開けたそこは、どこかの玄関に繋がっていた。

「ここが僕たちの暮らしている男子寮・旧館です。とりあえず…」

先頭で振り返った雪男君がふむ、と私と隣でくしゃみをした燐君を見て頷いた。

「タオルを持ってくるから待っててください。兄さんもびしょ濡れだからそのまま廊下に上がらないでね」

「タオルより風呂入ろーぜ。風邪ひきそうだ」

そう言ってまたクッシュン!とくしゃみをする燐君は、すっかり冷えてしまったようで、唇も紫になりかけている。
春先の雨は寒い。

かく言う私も、身体がだいぶ冷えてしまっていた。

雪男くんは確かに…と呟くも、

「でも、さすがに杜野さんに男子寮(ここ)でお風呂を推めるのはまずいんじゃない?女性だし、着替えも用意できないよ」

あっ、そっか!という燐君と雪男君はどうしようかと玄関先で相談し始めた。

も、申し訳ない…!

「あの、私平気です!お風呂大丈夫なので、タオルだけ貸して頂けませんか?」

「いやでも、お前すげぇ顔色白いし、寒いんだろ?絶対風呂入んねーと風邪ひくぞ」

「それを言うならお2人だってびしょ濡れじゃないですか!私に構わずお風呂行ってきてください!ふぇ…クシュッ!」

「そういう訳にも行きませんよ!」

譲り合いでいよいよ収集がつかなくなってきたその時、燐君が「あっ!」と声を上げた。

「メフィストに頼もうぜ!」

「フェレス卿に!?」

閃いた!とばかりの笑顔の燐君と対照に、ぎょっとしたような顔の雪男君。

メフィ、スト…?って名前?誰?

訳の分からないうちに話がまとまったのか、雪男くんが襟元から鍵を取り出して、玄関の鍵穴に差し込んだ。

燐君を見上げると、あぁ、と気づいたように話してくれた。

「メフィストっつーのは俺らのコーケン人で、この学校の偉いやつなんだ。ピエロみたいな変な格好してるけど」

「ピエロ…?」

ますます訳が分からなくなったような気がする。

ガチャリと鍵を回して扉を開けると、お城のような、赤いカーペットの廊下に出た。

扉を閉めた雪男君は、あそこですと少し進んだところにある扉に向かった。

「ここはヨハン・ファウスト邸、僕らの後見人が住んでいる屋敷です。この時間だとたぶん執務室にいると思うんですが…」

ーーーーコンコン。

「失礼します」

ノックをして一声かけてから部屋に入った雪男君に続いて、燐君と私も入る。

大きなバルコニーがある広い部屋に応接スペースと、書類が山積みになった机がある。そこに手を置いてちょうど立ち上がったようだった男の人がいた。

「これはこれは、酷い有様ですね。どうしました奥村先生。それに奥村君と…そちらの方は?」

机を回ってこちらに来たその人は、チラリと私に目線を投げた。
名乗らなきゃと口を開いた瞬間。

「は…ーーっくちっ!」

潰れたようなくしゃみが飛び出した。

は…恥ずかしーー!!

ぽかんと目を丸くするその人に雪男君が「実は…」と説明をしてくれて、燐君は大丈夫か?と声をかけてくれた。

あれ?燐君、顔色が戻ってきてる…?

「ーーふむふむ、なるほど。それはお困りでしょう☆」

パチン!と指をひとつ鳴らすと、タオルが数枚と女性の服が1式、それにご丁寧にスキンケア用品まで出てきた。

何!?手品!?と驚いている所へ、燕尾服の執事さんらしい方が現れて、空中に散らばったそれらを回収する。

男の人は「ベリアル!」と一言呼んで、私に顔を向けた。…わ、整った顔。

「事情は奥村先生から伺いました。まずは温まってきてください。そこの者は私の執事ですので、何か分からないことがあれば遠慮なくどうぞ☆」

「あ、ありがとうございます!」

こちらです、と案内をしてくださる執事さんについて行く前に燐君たちを振り返ると、2人とも「あとで」と手を振ってくれていた。
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